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» 2010年08月13日 12時09分 UPDATE

「AR Commons Summer Bash 2010」リポート【2】:「二次元に行けないなら二次元が来い!」――ラブプラス内田氏&東のエデン神山監督と考えるARの未来

現実を浸食することをテーマにAR的ゲーム体験を創造した「ラブプラス」と、アニメの世界からARを世に知らしめた「東のエデン」――2つの作品のクリエイターが、ARと日本のサブカルチャーとの親和性を語った。

[山田祐介,ITmedia]

 AR業界の関係者を一堂に集めて開催されたイベント「AR Commons Summer Bash 2010」――。Zenitumのアルバート・キムCEOによる基調講演など、その模様の一部は既に記事で紹介したが、本記事ではARをコンテンツ産業の世界から世に知らしめたクリエイターらによるトークセッションを紹介する。

「現実世界と仮想の情報との区別はなくなりはじめている」

photo 左から、内田明理氏、神山健治氏、井口尊仁氏。内田氏はUstream中継用のカメラに向けてiPhoneアプリ「ラブプラスiM」をかざしている

 登壇したのは、頓智ドットの井口氏、ゲーム「ラブプラス」の内田明理プロデューサー、アニメ「東のエデン」の神山健治監督だ。

 ラブプラスは“現実を浸食する”というAR的なテーマを掲げたゲームで、ARマーカーを使ったiPhoneアプリ「ラブプラスiM/iR/iN」も話題を呼んでいる。東のエデンは、“東のエデンシステム”とよばれるARサービスが劇中に登場し、アニメ界から日本にARを知らしめた存在だ(参考:内田氏と井口氏の対談神山氏と井口氏の対談)。このトークセッションでは、日本とARの文化的な親和性についてや、内田氏や神山氏の次回作の構想など、さまざまな話題が飛び交った。

 日本でのARの認知拡大に貢献した内田氏と神山氏だが、もともとはARという技術を「知らなかった」という。例えば神山氏は、“名前が分からないものを画像で検索できたらいい”という考えから東のエデンシステムを構想し、後からそれがARだということを知らされたそうだ。内田氏もラブプラスの制作時にはARという言葉を知らず、「姉ヶ崎寧々参上!」というエアタグが都内各所を埋めつくす騒動が起きた際に、初めてARを知ったという。姉ヶ崎エアタグがあってこそ、ラブプラスiシリーズのAR機能は実現したのかもれない。

 また井口氏が、内田氏と神山氏に「サリンジャーが好き」という共通項があることを紹介すると、日本のオタク文化についての議論に飛躍。サリンジャーの代表作「ライ麦畑でつかまえて」に出てくる主人公ホールデンが、今風に言えば“オタク”にカテゴライズされるという話が飛び出した。


photo 神山氏

 神山氏はホールデンを「のび太」と捉えていたそうで、日本人の多くが“のび太”に共感していることに思いを巡らせはじめる。「クラスのいじめっ子も、運動のできるモテモテの子も、成績優秀な女の子も、みんなのび太に感情移入する。で、どうやら大多数の人間が自分がのび太だと思っていて、リアルの世界で自分が主人公だと思えるような人は少ないことに気付いたんです」(神山氏)。そして、こうした志向がラブプラスのヒットへ続く「一筋の道」だったと続ける。

 熱血少年やスーパーヒーローに替わってのび太的キャラクターが認められるようになり、さらには「何もしなくてもモテるキャラクターがいてもいいじゃないか」という風潮が90年代初頭から生まれてきたと神山氏。そして、のび太が主人公たり得る作品の世界に行きたいと願うアニメファンが現れたという。「その感覚はバーチャルリアリティーだったと思うんですが、彼らは2次元に行けないことに気付き始め、今度は2次元の方から来てほしいと考えた。そして、2次元から来たのがラブプラスだった」(神山氏)。架空の世界に自分を入れ込むという志向から、自分の日常に架空の存在をオーバーラップさせる流れが日本のサブカルチャーにあるとすれば、それらとARとの組み合わせはさまざまな可能性がありそうだ。


photo 内田氏

 現実を浸食することをテーマにラブプラスを作ったというだけあり、内田氏はこうした流れに肯定的だ。「現実世界と仮想の情報との区別はあらゆるところでなくなり始めている。ARというとARマーカーやセカイカメラを想像しがちですが、それだけでなく既存の技術の中でも現実と仮想は草の根的に混ざりはじめている」(内田氏)。こうした中で、仮想のキャラクターが現実の人間と等価で存在する世界もいずれはやってくると内田氏は考えている。

 ただ、ラブプラスには等価でないからこその魅力も内田氏は感じているようだ。「昔、何かのCMで“2人はうっとうしいけど1人はさみしい、1.5人がちょうどいい”といったキャッチコピーがあって、これに共感する人って多いと思うんです。ラブプラスは、1.5人だと思っています」(内田氏)。単にスイッチでオン/オフできるというだけでなく、「交わり方の中途半端さ」が、1.5人を求めるユーザーにマッチしているというのだ。こうした1.5人の感覚は、ARゲームやソーシャルサービスを形作る上でもヒントになるキーワードかもしれない。

ラブプラス、東のエデンの次に何が来る? 気になる内田氏、神山氏の今後

 井口氏のリクエストに応じる形で、内田氏、神山氏のそれぞれから次回作や今後の展開についても気になるコメントが飛び出した。神山氏は「アニメが主戦場なので、ラブプラスのような、現実を浸食するような技術的な試みというのはあまりないのではと思っています」と前置きした上で、こんなコメントを残した。

 「(観客が)だまされてることに気付かない映画というのが、もしかしたら出てくるかもしれない。ネットではもうそういうことは起きていますよね。ネットに嘘が書いてあっても、裏付けを取らないで語っちゃうことは日常的に起こっている。視聴者と劇中の登場人物が同じレベルでだまされてしまう映画を作れないかなというのが、僕の次の考えです」

 セッションの中で神山氏は「映画自体がAR」と話していた。存在しない話をあたかも存在するかのように描くことに腐心したのが、映画の歴史だと同氏は言う。次回作に東のエデンシステムのようなAR表現は出てこないのかもしれないが、“視聴者をだます”というその行為に、現実を物語で拡張するというAR的な要素がひそんでいるかもしれない。

 一方、内田氏が示した次回作への構想も興味深い。同氏が思いを巡らせているのは“クラウド型キャラクター”の構想だという。つまり、大勢の願望や想像力が合わさった1つのキャラクターに、関心があるというのだ。「法人という言葉がありますよね。団体を権利を持った人格として見なすというものですが、そんな風にいろんな人の意志の総体としてのキャラクターを作れるんじゃないかと思っています」(内田氏)

 実際、内田氏はセッションの中で“意志の総体”になる実験を行っていた。同氏はUstreamの中継用のカメラに向ってiPhoneアプリをかざしたり、突如「俺たちがARだ!」とカメラ目線で見栄を切ったりと、怪しげな行動が目立っていたのだが、これは同氏がTwitterで自分がどんな行動をすればいいかフォロワーにたずね、集まった意見を実行していたのだという。「今日の僕は、Twitterユーザーの感性や脳みそが混ざった僕だったんです」――こうした実験や構想が、どのように今後の作品に生かされるのか楽しみだ。

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