NokiaにはAndroidの採用も持ちかけた――Google CEOのシュミット氏が明かすMobile World Congress 2011

» 2011年02月17日 18時42分 公開
[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]

 スペイン・バルセロナで開催されているMobile World Congress 2011(MWC 2011)の2日目夜、米Google会長兼CEOのエリック・シュミット氏が講演を行った。NFC戦略への言及が期待されていたが、講演で語られたのはコンピュータサイエンス的な切り口のトピックがほとんどだった。しかし、質疑応答で出てきたMicrosoftとNokiaの提携に関する質問では、GoogleもNokiaに提携を持ちかけていたことを明らかにした。

モバイルがPCを凌駕、合い言葉は「モバイル・ファースト」

Photo 米Google会長兼CEOのエリック・シュミット氏

 Mobile World Congress 2010のシュミット氏のスピーチは、Googleがモバイル技術に将来を賭していることを宣言しつつ、当時問題となっていた欧州当局とのプライバシー論争や、既存通信事業者との競合などの話題に触れるといった流れになっていた。今回のキーノートでも内容は大きく変わらず、モバイル市場の拡大に触れつつ、Googleがこの市場にいかに注力しているかを示すことが中心となった。

 それを象徴するのが「(普及ペースで)スマートフォンはすでにPCを凌駕した」というシュミット氏のコメントだ。同氏は2010年の講演で「今後2年以内にスマートフォンは販売台数でPCを抜く」と予測したことを挙げ、四半期ベースでみた場合、MWC 2011が開幕する前の週にはすでに達成したことを報告している。つまり年間ベースでいえば、シュミット氏の予言通りとなったわけだ。スマートフォンは、そのパフォーマンスも驚くべきペースで向上しており、「いま手元にあるマシンが、(1960年代の)月面着陸ミッション当時のコンピュータの2万倍の性能を持っているという事実がそれを示している」とした。

 こうしたトレンドを受け、開発者の多くがモバイルに目を向けつつあるとシュミット氏。実際に「まずモバイルから」開発を進める事例が増えており、ゲームやソーシャルサービスでは、すでにその兆候が現れ始めている。例えば前日に講演を行ったTwitter CEOのDick Costolo氏によれば、Twitter利用者の大部分はモバイルユーザーだという。Angry Birdsなどの人気ソーシャルゲームのトレンドもモバイル中心であり、こうした傾向を裏付ける。

 シュミット氏は、ブームとなりつつあるタブレットを取り上げ、「もはやこれらのデバイスはコンテンツを使うだけのものではなく、作り出すことも可能だ」と述べ、最新のAndroid 3.0(Honeycomb)を搭載したMotorola Xoomでムービー編集からYouTubeアップロードまでが可能な「Android Movie Studio」のデモを披露。こうした編集やトランスコーディング作業には多くのCPUパワーやGPUパワーを必要とするが、モバイルマシンであっても問題なく作業できる点をアピールした。

 インターネットにはクラウドという情報の集合体があり、スマートフォンを使って接続すれば、いつ、どこからでも好きな情報を検索し、取り出すことができる。また、こうした仕組みを利用して友人の状態を逐次知り、好きなときに連絡をとれるソーシャルな仕組みもある。シュミット氏はこうしたコンピューティングの将来はすでに1990年代初頭に米Microsoft会長のビル・ゲイツ氏が予言していたものだという。

 このビジョンの実現に20年もの歳月が必要だった理由は、その間に多くの技術の進化と多額の投資や努力を必要としていたことに起因する。シュミット氏は、こうしたサービスを満足な回線速度でモバイルユーザーが享受できるのも、ひとえに通信キャリアらが何十億ユーロもの投資を続けてきたことに起因すると説明しており、たびたび持ち上がる「Googleのインフラただ乗り」批判に対する業界関係者への配慮もにじませた。

MicrosoftとNokiaの提携、実はGoogleも交渉していた?

 2010年11月に開催されたWeb 2.0 Summitで、同氏はGoogleがNFC(Near Field Communications)に注力していると説明しており、MWC 2011ではさらに詳細なアナウンスや、同技術を利用したモバイル決済事業への参入を発表するのではないかとも予測されていた。しかし、今回のキーノートではこうした話題はいっさいなく、モバイルの普及でソーシャルライフがどう変化し、先日のエジプト内乱のような非常時にコンピュータ技術がどう活かされたのか――といった、コンピュータサイエンス的な側面の話題が中心だった。

 講演の後半は一般参加者との質疑応答となり、ここでは「金融関連の話題は?」という質問が挙がった。これは“モバイルペイメント事業への関心”を問うもので、これに対してシュミット氏は「われわれは銀行にはなれないし、そのつもりもない」と回答するにとどめた。もっとも、Web 2.0 Summitで宣言したNFCに注力するという方針についても、初のNFC対応OSであるAndroid 2.3と、それを搭載した「Nexus S」のプロモーション的な意味合いが強く、事業の具体的な方針を話せるのは、まだこれからといった様子だった。

 質疑応答では、ほかにもいくつか興味深いトピックが取り上げられた。例えば先日発表されたばかりのMicrosoftとNokiaの提携について、同氏は「われわれとしてはAndroidを選んでほしかったが、彼ら(Nokia)はWindowsを選んだ。だが、われわれが交渉を行っていたのは事実であり、その道は今後も開かれている」と述べている。

 GoogleもAndroidの採用をNokiaに持ちかけていたとなれば、NokiaがあえてWindows Phoneを選んだ理由が気になるところだ。この提携に関して業界では否定的な意見が多いとされているが、筆者が欧州通信キャリアらの話として聞いたところでは、キャリアやメーカーの多くが提携を歓迎しており、端末メーカー最大手のNokiaがモバイル市場の第3勢力として成長しつつあるMicrosoftと提携したことで、GoogleとAndroidへの一極集中を牽制できるといった狙いがあるという。

 MicrosoftからNokiaに十億ドル規模の資金供与があったことはすでに報じられた通りだが、NokiaとしてもWindows Phoneにフォーカスすることで、ソフトウェアや周辺サービスの開発にかかるコストの大幅な削減が可能となり、Nokia本来の強みである端末やインタフェースの開発に集中できるようになるという。こうしたパワーバランス重視の戦略が根底にはあるようだ。

 Q&Aではほかにも「Twitter(の買収)に興味はあるか?」「なぜ(間もなくCEOになる)ラリー・ペイジ氏ではなく、あなたがここにいるのか?」などという質問が挙がったが、シュミット氏は明確な回答を控えた。

 大きな発表はなかったものの、講演の中には随所にGoogleの考えやアイデアが盛り込まれており、今後の同社の方向性を考えるうえでは興味深いものとなった。

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