世界初の量産型の電気自動車(EV)として話題の日産自動車「リーフ」。単にバッテリーで駆動するという以外にも、テレマティクスを標準装備しICTを活用する先進性が評価され、MCPC アワード 2011にノミネートされた。
日産は従来から「カーウイングス」というカーナビ向けの通信サービスのを提供してきたが、これは走行中の車に対するサービスだった。リーフのテレマティクスは「車が止まってる時間も常時接続することで、止まってる自動車にも価値を持たせたことに特徴がある」と、日産の二見徹氏は話す。
リーフの平均航続距離は約170キロメートルだが、状況によって航続距離は大きく変動する。郊外の平坦な道をエアコン無しで走れば約200キロメートル程度まで延びるが、首都高でエアコンを使うと半分の100キロメートル程度に短くなってしまう。さらに、渋滞する幹線道路では75キロメートルまで落ち込む。EVのカーエアコンはエンジンの排熱や回転力を利用できず、走行用バッテリーをダイレクトに消費するため、エアコンのオン/オフによって航続距離が変わるのだ。この“いつでも同じところに行けるとは限らない”という欠点を、リーフは常時接続通信を行うことで補っている。
具体的なサービスのひとつが、運転する前に航続可能距離を算出できる「ルートプランナー」というサービス。PCやスマートフォンからリーフのバッテリー状態を確認し、地図上のルートを見ながら“どこまでなら往復できるのか”を知ることができる。単に距離からバッテリーの減りを計算するだけでなく、ルート上の天候や気温からエアコンの利用頻度を予測することで、車載バッテリーの消費を高い精度で予測できるという。
またエアコンを使う場合も、可能であれば走り出す前に予備空調をかける「乗る前エアコン」を利用する。駐車場など施設側の電源で室内温度の調整を行っておけば、走行中のバッテリー消費を抑えらえるというわけだ。これもスマートフォンなどを通じて、自宅や外出先から駐車場のリーフを操作できる。
そして、EVならではといえるのが、カーウイングスを通じて充電スポットの位置情報を更新する仕組みだ。EV向けの充電スポットはガソリンスタンドと違って容易に設置・撤去できる。カーナビへの情報提供をリアルタイムかつ自動で行うことで、鮮度の高い充電スポット情報を共でき、不意のバッテリー切れを防ぐことが可能になった。
走行中はもちろん、停車時にもモバイル通信による常時接続に対応し、まだまだ制約が多いEVの快適性を高めたリーフ。しかしリーフには、単に1台のEVという点を超えた、さらなるICT活用の側面があった。
二見氏は「EVが普及しない一番の原因はバッテリーが高価なこと」と指摘する。そこで日産は、走行用バッテリーのリサイクルに注目した。EVから下ろされたバッテリーが再利用できれば、最も高価な部品の償却期間が延びるためだ。
中古のバッテリーは交換用として別の車体で使うだけでなく、バッテリー内のセルをパッケージし直して別のバッテリー製品に作り替えることも検討されている。当然、新品のバッテリー以上に品質に対する視線が厳しくなるため、どれくらいの性能を保っているのか、使用段階からのトレーサビリティが欠かせない。
そこでリーフは、バッテリーがどのように使われているのかを、1日1回日産のサーバに送り管理している。使用状況や温度から、バッテリーや車自体の劣化具合を解析し、メンテナンスに生かしている。
「(リーフの)使用済みバッテリーをどのように使うべきか、具体的なことは決まっていない。しかし、数年後に出てくるのは確か。それまでに、きっちり管理しておくことで、中古バッテリーをどう使うべきか、また価格なども判断できるようになるだろう」(二見氏)
東日本大震災では、広範囲に渡る停電が被災地の生活に大きな影響を与えた。また被災地以外でも、原子力発電所の事故や運転停止による電力不足が深刻になりつつある。
そんななか注目を集めているのが、スマートエネルギーだ。これは、太陽光や風力、燃料電池などでの発電を地域ごとに行い、ニーズに合わせて配電するというもの。火力や電子力を使う大規模発電への依存を減らすと期待されているが、自然エネルギーを使うゆえの不安定さも残る。そこで日産では、リーフの走行用バッテリーを使ってスマートエネルギーの不安定さをカバーしようとしている。
例えば、深夜や太陽光発電が余る時間にEVへ充電しておき、夕方など電力消費のピーク時に家庭用の電源をEVから取れば、電力のピークシフトが可能になる。大容量バッテリーは高価なため、停車時のリーフがこうしたバッテリーとして活用できれば無駄が少なくて済む。リーフには、タイマー充電・リモコン充電の機能がすでに搭載されており、スマートエネルギー対応の素地はすでにできているという。
こうした取り組みは一軒の家に限らず、何台ものリーフが集まる事業所や地域ごとで大規模に利用することが可能だ。それにはEVのICTによる常時接続とクラウド対応が不可欠であり、二見氏は「低価格で攻める海外製EVには真似できない、日本ならではの付加価値になる」と今後の意気込みを語った。
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