業界が「一方向に倒れていく」懸念――周波数オークションに対する通信キャリアの反応

» 2011年05月30日 17時37分 公開
[山田祐介,ITmedia]

 電波の帯域を競売によって事業者に割り当てる「周波数オークション」の導入が国内でも検討されている。競争や新規参入を加速させ、市場の活性化につながるとの意見がある一方、通信事業者からは逆の懸念も出てきている。

 5月27日に総務省が開いた「周波数オークションに関する懇談会」の第3回会合で初の公開ヒアリングが実施され、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイル、イー・アクセス、ウィルコム、UQコミュニケーションズら通信キャリア6社が、オークションに対するそれぞれの見解を述べた。

やはり懸念は“落札額の高騰” 新規参入の障壁にも?

 各社の意見で目立ったのは、オークションの落札額の高騰により、電波獲得に大きな負担が生まれることへの懸念だ。

 ドコモは、免許人の負担増加は利用者の負担増加にもつながるとコメント。設備や研究開発への投資が減り、サービスの品質低下や高度化の遅れにつながる可能性も指摘した。KDDIもまた、日本の通信事業者が高度なモバイルサービスを提供し、経済の活性化に寄与していることに触れながら、落札額の高騰がこうした動きにブレーキをかけることを懸念した。

 イー・アクセスは、同社が新規参入した2007年当時にオークションがあった場合を想定し、試算結果を紹介した。上り/下りを合わせた10MHzの帯域幅が1000億円と仮定し、当時のユーザー数250万で割ると、1ユーザーあたり4万円の追加負担が発生することになる。また、現状の保有帯域幅30MHzで考えると、オークションコストは同社の累計設備投資額と同等の3000億円となってしまう。こうしたことから、オークションコストの発生が料金の低廉化や設備投資に悪影響を及ぼすことを不安視する。

 資金力のある事業者の寡占化が起き、業界が「一方向に倒れていく」(ソフトバンク)のを危ぶむ声も多く聞かれた。

 ソフトバンクモバイルは、資金が潤沢でない企業や新規事業者とってオークション方式が不利だとし、支配的事業者の周波数独占を防ぐ対策を求めた。イー・アクセスは、大手事業者に比べて新規事業者が保有する帯域幅が少ない状況を説明。オークション導入により大手企業が周波数を買い占め、保有帯域の偏りがさらに拡大すれば、競争力格差は一層広がるとして、制度的な配慮を求めた。

 ウィルコムやUQコミュニケーションズも、大手事業者の買い占めを不安視している。また、ウィルコムは技術力を持たない企業が投機的に電波を獲得することで、電波が有効に活用されなくなることを危ぶみ、転売を防ぐための二次取引規制が必須とも語った。

 オークション導入後の電波利用料のあり方についても意見が述べられた。ウィルコムはオークションによる払込金に加えて電波利用料も支払うのは負担が大きすぎるとの考え。イー・アクセスも、オークション導入と併せて電波利用料のあり方を議論すべきとした。

獲得した電波はどう使うのか

 割り当てられた電波の“用途の自由度”にも、いくつかの意見が述べられた。

 ドコモは、電波を使ってサービスをする際に、周波数が隣接するサービスとの干渉を防ぐ技術的な調整があらかじめ必要なことを説明。帯域の用途を行政がある程度コントロールしないと、こうした検証が難しくなる可能性があることを伝えた。一方で、昨今のITC分野では「免許期間中に、より周波数利用効率の高いシステム、技術が新規開発・実用化される可能性が高い」とも語り、将来的な技術拡張の仕方については検討すべきとした。

 ソフトバンクは、「テクニカルな問題がある」としながら、用途の制限を設けないことが「理想」という考え。特に、通信サービスと放送サービスの融合が進む中で、既存の用途の区別が適切かどうか議論する必要があるとした。

 ウィルコムもサービス内容の自由度を高めることについての議論を求めた。「(大手と)同じようなサービスでは新規事業者は太刀打ちできない」とも語り、自由度のある制度設計が市場活性化につながるとの見方を示した。


 オークション導入の検討が始まった一因として、海外でオークション方式が広く導入されていることがある。しかし、「サービスや価格は海外に引けをとらない」(ドコモ)、「サービスは(国際的な)水準以上」(KDDI)といったように、オークションを導入せずとも市場は十分に発展しているとの考えもある。そのため、ヒアリングではオークション導入によるメリット/デメリットの検証を求める声が多く挙がった。またKDDIが「日本にフィットした制度が必要」とコメントするなど、海外事例を検証した上で日本の市場にあった制度を導入することも求められた。

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