カフェで人を待ったり、銀行や病院で順番を待ったりするとき、置いてある雑誌を読みながら時間をつぶしたことがある人も多いだろう。これをスマートフォンと電子書籍に置きかえ、“1時間だけタダで読み放題”にするのが、「すまほん。」という新サービスだ。
このサービスを展開するのは、モバイルメディアレップ大手のディーツー コミュニケーションズ(D2C)。同社営業本部 営業部で部長を務める澤宏明氏は、「このサービスは来店者だけでなく、店舗やコンテンツを提供する出版社にもメリットをもたらす」と自信を見せる。
同氏に、このサービスの概要とビジネスモデル、サービスが生まれた背景について聞いた。
すまほん。は、店舗や施設の中で1時間だけ、スマートフォン向けの雑誌コンテンツを無料で読み放題にするサービス。スマートフォンユーザーは、すまほん。に対応する店舗にiPhoneやiPad、Android端末を持ち込み、アプリにログインすればコンテンツを閲覧できるようになる。
ユーザーが“その店舗内にいる”ことを示すのは、位置情報と店舗コードだ。ユーザーがアプリを起動すると位置情報が測位され、対応店舗にいるかどうかがチェックされる。この位置情報と、ユーザーがサービス利用時に入力する店舗コードの組み合わせが正しい場合に、コンテンツを閲覧できる仕組みになっている。
7月からカフェやホテル、大手家電量販店、パーキングエリアなど、首都圏約20カ所の“待ち時間が発生する”場所で実証実験を開始。店舗は男性誌や女性誌、新聞など約140誌の中から来店者の属性に合ったコンテンツを選んでサービスを提供している。
このサービスは、「導入店、ユーザー、コンテンツ提供企業のそれぞれにメリットをもたらす」と澤氏。来店者は無料でコンテンツを閲覧でき、店舗は“待ち時間を有効に使える”サービスの提供で顧客満足度の向上を図れる。コンテンツを提供する出版社は、店舗からのコンテンツ利用料が得られるほか、新たな読者の獲得や電子書籍コンテンツの拡販が見込めるというわけだ。
今は“すまほん。”という名の通り、電子書籍のみを配信しているが、正式サービスでは「音楽や動画、ゲームなどのデジタルコンテンツを幅広く取り扱っていきたい」というのが澤氏の考え。扱うコンテンツの種類が多ければ多いほど、多くの店舗で採用される可能性があるためだ。
このサービスでは、店舗が支払うコンテンツ費用が主な収益源となるが、「別のビジネスモデルも考えられる」(澤氏)という。例えば“店舗限定オリジナルコンテンツの配信”といった、プロモーション用途での活用もその1つだ。「店舗と音楽配信事業者が組むことで、その店に行けば先行配信の音楽を聴ける――というプロモーションが可能になり、そういう仕組みによる収益化も可能だと考えている。ゲームなら、チェーン店限定でレアアイテムを配信するような展開も面白い」(澤氏)
このサービスが生まれた背景には、フィーチャーフォンからスマートフォンへの移行に伴うビジネスモデルの変化があったという。
フィーチャーフォン時代は、ユーザーが毎月一定額を支払ってコンテンツを入手するという月額課金モデルが主流であり、「“ユーザーが有料コンテンツを買い、コンテンツを買ってもらうためにコンテンツプロバイダが広告を出し、D2Cが広告を扱う”というビジネスモデルが成り立っていた」(澤氏)。
しかし、スマートフォンの世界は、コンテンツやサービスを無料で提供して広告で収入を得るモデルや、基本的なサービスを無料で提供し、付加機能に課金するフリーミアムモデルが主流となっており、スマートフォンユーザーはフィーチャーフォンユーザーほどには有料コンテンツをダウンロードしない傾向がある。そうなると、従来型のビジネスモデルが成り立たない分野も出てくることから、D2Cでも新たなビジネスモデルの創出に力を注いでいるという。
その中から生まれたのが、“企業がコンテンツの利用料を肩代わりする”という、すまほん。のモデルだったと澤氏。ユーザーの代わりにコンテンツ料を支払った企業が得をするような仕組みを形にできれば、新たなビジネスの創出につながると考えたわけだ。
このサービスは、フィーチャーフォン時代の主要顧客だったコンテンツプロバイダに、新たなコンテンツ活用の道を開けると澤氏。モバイル市場のさまざまなプレーヤーがスマートフォン時代の新たなビジネスモデルを模索する中、このサービスも1つの解といえそうだ。
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