画像認識AR+RFID+メガネ型ディスプレイ――ブラザー展示会で“近未来的現場作業”を体験

» 2011年09月14日 17時57分 公開
[山田祐介,ITmedia]
photo AiRScouter

 メガネをかけると視界の一角に半透明の画像や映像が浮かびあがり、見ているものに関する情報を提供する――。

 こんなSF的な“メガネ型ディスプレイ”の本格的な事業化に、ブラザー工業が乗り出している。同社はこのほど、産業用メガネ型HMD(ヘッドマウントディスプレイ)「AiRScouter(エアスカウター)」を製品化。秋にもNECの現場作業向けウェアラブルコンピューター「Tele Scouter」のディスプレイとして出荷される。メガネを介して作業手順や組み立て解説などを視界に映し出し、作業者をサポートするといった利用シーンが想定されている。

 機能は便利そうだが、実際の視界はどのようになるのか――9月9日に開催された展示会「Brother World JAPAN 2011」で、体験することができた。ブースでは協力企業によるAiRScouterのソリューションや研究も紹介されており、画像認識型ARや小型カメラ、RFIDなどを組み合わせた“近未来的な現場作業”のデモンストレーションもあった。

SVGAの高精細液晶の表現力に驚く

 AiRScouterは、液晶パネルやハーフミラーなどを搭載した映像装置をチタン製メガネフレームの片側に装着して利用する。映像装置からはケーブルが伸びており、外部機器に接続して電力や映像信号を受け取る仕組みだ。ハーフミラーを介して視界の一部に映像が半透明に表示されるのだが、実際に着用してみると、まず映像の高精細さに驚かされる。


photophoto 先端のハーフミラーから映像が目に入ってくる。カメラの撮影(写真=右)でも、映像の鮮明さがお分かりいただけるだろう。画面の中心以外がボケてしまっているが、肉眼では全体が鮮明に写っていた

photo 画面いっぱいに映像が出ると“視野の一角にテレビがある”ような印象なのだが、余白が多いとAR的な印象に変わる

 同社は2008年にメガネ型ディスプレイの試作機を開発し、これまで改良を続けてきた。そして今回の製品版AiRScouterにおける大きな改良点が、光源を従来のレーザーから液晶パネルに変更し、フルカラーSVGA(800×600ピクセル)の映像を実現した点だという。画面には最小12ポイントまでのテキストを表示できるため、細かなマニュアルも難なく読める。


photophoto 映像装置はそれなりに大きいが、重さは約64グラムと軽量。メガネフレームとあわせても約106グラムとなる

photo NECのウェアラブルPCに合わせる形で開発されており、電力/映像のケーブルは独自のコネクタを採用している。そのため汎用機器との接続にはアダプタが必要になるが、要望に応じて改良できるという

 この解像度を生かし、NTTドコモはスマートフォンに保存した映像コンテンツをAiRScouterに表示するデモを行っていた。ドコモでは“10年先のメガネ型ケータイ”を想定しながらAiRScouterのようなHMDの活用を研究しているという。Android端末でゲームのCGムービーを再生し、AiRScouterに映しだすシンプルなデモだったが、キャラクターの髪の動きなど、細かな描写がしっかりと再現され、「ハイビジョン感覚」(説明員)の映像を楽しむことができた。

画像認識型ARで現場作業をサポート

photo 「SupportAR」のデモ

 ドコモの展示はあくまでも参考展示だが、産業用途で販売が予定されているソリューションも2つ展示されていた。1つが、ウェストユニティスが2012年春に提供を予定する「SupportAR」。AiRScouterに小型カメラを付け、視界内の対象物上にARコンテンツを表示できる。会場のデモ機を装着して用意された基板を眺めると、特定の部品の上にテキストの吹き出し表示され、詳細が分かるようになっていた。


photophoto AiRScouterにカメラが装着されている(写真=右)。カメラの映像を認識し、部品のある場所にマニュアルを表示するといったことが可能になる(写真=右:イメージ画像)

 部品の個所に専用のマーカーを貼り付け、カメラを通じてマーカーを検知し、その場所にARコンテンツを表示する仕組み。独自の画像認識技術を利用しており、マーカーを使わずに対象物を直接認識することも場合によっては可能という。同社はHMDを用いた現場作業向けマニュアルシステムを以前から提供しており、SupportARではこうしたノウハウを生かして「見るだけで対象物に合ったマニュアルが浮かび上がる“ARマニュアル”」を提案する。

photo カメラの付いたAiRScouterに加え、RFIDリーダーを内蔵したグローブを装着する「ARピッキングシステム」

 一方、同社のAR技術を活用した「ARピッキングシステム」を開発したのがゴビだ。ゴビではICタグを用いたユビキタス環境における行動予測型サービスの研究などを行っており、今回のARピッキングシステムにもRFIDを活用している。

 ピッキングとは、倉庫などで商品を注文に応じて仕分けする作業を指す。同ソリューションでは、小型カメラを搭載したAiRScouterに加え、RFIDリーダーを内蔵したグローブでピッキング作業者を支援する。展示コーナーでは商品棚からの商品ピックアップを想定したデモが体験できた。


photo

 AiRScouterを装着すると、まず画面上にピックアップすべき商品の棚の位置などが図で表示される。そして作業者が目的の商品棚を前にすると、棚にあるARマーカーをカメラが認識し、商品が入っているかごの場所を矢印で示す。目的のかごを引き出すと、かごに貼られたRFIDをグローブが読み取り、具体的な商品名やピックアップする数などの詳細が画面に表示される。誤ったかごを引き出した場合は、グローブのバイブレーションとAiRScouterの画面で、そのことを教えてくれる。

 こうした機能で、誰もが正確なピッキング作業をできるようにするのが同ソリューションの狙い。すでに顧客への紹介を始めており、引き合いがあるという。


 汎用性のある高機能なスマートデバイスが普及し始めたことで、企業がこうした端末を業務用途で活用する動きが活発化している。AiRScouterはまずNECの専用端末向けに出荷されるが、ブラザー工業ではAndroidやiOS端末などと組み合わせたソリューションの登場にも期待しており、パートナー企業を募っている。また、今後は顧客のニーズに応じてAiRScouterの小型化や軽量化、ワイヤレス化といった改良にも取り組んでいく考えだ。

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