単なる“場所貸し”ではない新しいセカンドオフィス――他者(社)と一緒に働くこと:脱ガンジガラメの働き方
社外にもう1つの職場を――。東日本大震災以降、自社以外で働けるセカンドオフィスに注目が集まっているが、単なる“場所貸し”ではない新しいセカンドオフィスが登場している。
社外にもう1つの職場を――。東日本大震災以降、自社オフィスにしばられるような働き方を見直す動きが目立ってきた。そうした動きの1つがセカンドオフィスだ。これまでセカンドオフィスというと、レンタルオフィスのようなサービスを思い浮かべるが、単なる“場所貸し”ではない新しいセカンドオフィスが登場している。
他力を結集して創発へ――オフィス・コロボックル
5月27日に東京都・赤坂にオープンした「オフィス・コロボックル」もそんなオフィスの1つ。コロボックルとは、オフィスのある「転坂」(ころびざか)に由来し、「KOROBizaka Office by CLoud」から命名した。
低層マンションの一室を改装し、約20坪で5人が同時にデスクワークができる事務室と最大10人が参加できる会議室、ケータリングが可能なキッチンの間取り。クラウド対応した、ホワイトボードや複合機、デジタルペンなどを装備した。ただし、利用できるのは賛同会員企業と個人のみ。現在のところ、サイボウズや米Evernote、京セラミタジャパン、ぺんてる、内田洋行など12社が賛同会員となっている。
デスクワークできる事務室にはパーティションは存在せず、隣の人と肩を並べて仕事をするようなイメージ。一般的なオフィスとしてはありがちなレイアウトでもあるが、異なる点はさまざまな会社の社員が集う可能性があること。会社に閉じこもってデスクワークするのとは異なり、ほかの会社の社員から刺激を得ることもありそうだ。
内田洋行の堀田一芙氏(スペシャルプロジェクトエグゼクティブ)やスタンの近藤紳一郎社長、富山大学の竹村譲氏(非常勤講師)の3人が発起人。
「東日本大震災のような危機にあっても、チャンスは常に存在する。常にスピード感を維持し、機敏に行動するには、信頼できる“他力”を結集し『創発』しやすい環境を整えることが重要だ」(堀田氏ら)。
オフィス・コロボックルはそうした環境を支援したり、実践したりするための「場」として開設したという。
差し入れのお菓子は「一緒に食べる権利がある」――Sprout
そもそも1つの会社にしばられない働き方を目指すためのオフィスも増えてきた。例えば、9時〜17時の業務時間は正社員として会社のオフィスで働きつつ、終業後は仲間と一緒に起業を目指す――というケースだ。
東京・五反田のソウエクスペリエンスという会社をご存じだろうか。本業はアウトドアやフィットネス、旅行や宿泊と言った体験型のギフトを提供する企業だが、社屋の一部をシェアードオフィス「Sprout」として起業家やSOHOの人たちに貸し出している。賃料は3カ月更新で月額2万3000円(3カ月ごとに6万9000円を支払う)。
ソウエクスペリエンスの西村琢社長は「オフィスを借りてみたら広すぎちゃった」と笑う。同社の本社エリアとシェアードオフィスエリアには仕切りもなく、借りた人たちはシェアードオフィスエリアの好きな席に座っていい。もちろんノートPCなどからインターネットも利用できる(ネットワーク自体はソウエクスペリエンスとSproutで分けている)。トイレや電気も利用できるのは当然として、ウォーターサーバーも「ゴクゴク飲んでください」、差し入れのお菓子は「一緒に食べる権利がある」という。
ただし、こちらも誰でも借りれるわけではない。「お互い長い時間をともに過ごすことになりますので、気が合うかどうかが重要」。個別に面談して一緒に働けるかどうかを見極めている。
1月からオフィスを借りている桑田尚紀さんも起業を目指している1人。「自宅か、レンタルオフィスか、シェアオフィスか、選択肢はいくつかありました。レンタルオフィスだと銀座で借りられるけど、ガラじゃないなと思ったんです。レンタルオフィスや自宅だと作業を一人でやる気楽さもあるけど、ポジティブな面で誰かと会いたかった。人がいれば、会話も聞こえてくるし、それに創発されてアイデアもわくかもしれない。何より、社長の西村さんをはじめ、気心を知った仲間もいましたから」
桑田さん自身はこれまで大手国内のメーカーに勤めていた。ところが「残業100時間がいやだったし、できなかった」と長年勤務したメーカーを辞めて、起業を目指したのだ。「自宅からここに職場を変えて、よかったです。ITだけじゃなくて、自動車、金融、いろいろな働き方がある。新しい刺激もあり、クリエイティビティを発揮できそう」という。
シェアードオフィスの新しい形
オフィスを誰かと共有するシェアードオフィスには、いくつかのパターンがある。1)プロジェクトを実施する期間のみ、プロジェクトチームとしてオフィスをシェアリングするプロジェクト型、2)いろいろな職種が集まって1つの業務を分業するアライアンス型、3)インキュベーターが中心になって勉強会を開く、あるいはコンサルするインキュベーター型、4)場所を貸し出すレンタルオフィス型――が代表的だ。
今回紹介した2つのケースは、上記の4パターンとは微妙に異なる。いずれも他者(社)との関わり合いを前提にするという意味では、プロジェクト型やアライアンス型、インキュベーター型と共通する部分もあるが、その一方で、プロジェクト型やアライアンス型のような1つの目的に沿って働くわけではないし、インキュベーターのような明確な支援者がいるわけでもない。個々の才能が集まりつつ、自律的にビジネスを作り出しているような感覚だ。
オフィスの空きスペースを無料で提供する企業と、起業家や個人事業主などをマッチングするサービス「SHARE0(シェアゼロ)」を運営する中川亮氏によると、「東日本大震災以前からこうしたシェアードオフィスの提供や需要は高まっていた」という。震災以降、柔軟な働き方が求められている中で、こうしたシェアードオフィスの需要はますます増えそうだ。
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