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「プリコネ」「グラブル」 Cygames木村専務に聞く「大ヒットを連発できる理由」Cygames木村唯人専務インタビュー【前編】(2/2 ページ)

» 2021年02月15日 16時46分 公開
[河嶌太郎ITmedia]
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極限まで作り込むこと

――ゲームを一度完成させて終わりではなく、世に出してからがスマホゲームをヒットさせる勝負どころというわけですね。クオリティーの判断はどのような体制で実行しているのでしょうか。

 特に明文化されているものではなく、各役員の経験に基づいて見ています。開発経験者が見れば、「このクオリティーではヒットしない」というのが経験則で分かります。もちろん中には、運が良ければヒットするものもあるとは思います。ただ、「運が良ければヒットするかな」くらいの確証しか持てない作品は出しません。ヒットしなかった場合、それまでの開発コストが無駄になってしまいますから。

――ゲーム開発の場合、数億円規模の予算がかかってきますよね。

 例えば、10億円かけて作ってそこそこの作品が出来上がってきたけれど、「あともう一歩」というクオリティーのものだったとします。もうあと2倍の予算をかけたほうが良いものが出来上がるなという手応えがあるときに、「ここで出してしまったら無駄になるな」と思う場面があります。

 普通は予算や納期の面から、そのままのクオリティーで発売する会社が多いとは思います。ところが当社の場合、「だったらもう10億円かけてヒットさせるか」もしくは「開発を止めるか」の2択で考えますね。このように、満足する作品になるまで作り続けていく流れになります。

phot 社内にあるグッズ展示スペース

――やはり開発費用の額が多いだけに、「石橋を徹底的にたたいて渡る。失敗は許されない」という感じなのでしょうか。

 もちろん全てヒットさせるのは無理な話で、注力してもうまくいかないタイトルもあります。ただ、極限まで作り込むことこそが一番の成功する秘訣だと僕らは確信しています。

phot 「グラブル」のバトル画面

――まさに「神は細部に宿る」と言えますね。ゲーム業界ではソフトウェアの開発期間が3年以上かかるケースも少なくないですね。その場合、企画段階からリリースまでにトレンドの変化もあるかと思います。どのように未来を見据えて開発を進めているのでしょうか。

 ゲーム開発に投じる期間も長いので、トレンドが変化してしまう問題もついて回ります。あまり長期間にわたって作り込みすぎてしまうと、トレンドに合わなくなってしまいますね。ただ、クオリティーを追求することと、トレンドをつかむことのバランスは取っていて、慎重に先を見据えて作っています。それに、トレンドの部分はリリースしてから修正や改善をすることによって、ある程度は合わせられると思っていますので、なおのことリリースしてからが重要だと考えています。

 またスマホゲームの場合、はやり廃りの面以外でも、「何年後には端末の性能もここまで上がっているだろう」と予測しながら作っています。ここも実は非常に難しいところですね。

phot Cygamesの第1作『神撃のバハムート』は、ゲームのアップデートを重ねて2020年9月で9周年を迎えた

リリース後いかにして広めるか

――端末の性能が決まっている家庭用ゲームと違い、時代とともに進化し続けるスマホゲームならではの課題ですね。こうした苦労のかいもあってか、実際のCygamesのゲーム作品を見ると、リリース当初よりもそのあとにユーザー数を伸ばし続けている作品ばかりです。

 特に当社ではオリジナル作品が多いので、リリース前の話題性よりも、リリース後にいかにして話題を広めていくかを大事にしています。既にアニメ化もされているような、既存の作品のゲーム化であればリリース前から多くの人に興味を持ってもらえますが、こうした下積みがないオリジナル作品だとそうはいきません。リリース後もどんどん内容を良くしていって、より多くのユーザーに関心を持ってもらえるようにしなければなりません。

 ただ、他社のIPをベースにしたものでも、こうしたブラッシュアップは抜かりなくやっています。共通していえるのは、「コンテンツをIPとして育てていく」という考え方を重視していることで、その考え方に沿う形で運用していますね。

――やはり、自社コンテンツをIPとして育てていく戦略があるのですね。

 そうですね。当社はまだまだ新しい会社でIPを増やしていきたいので、そういう狙いはあります。ゲームだけでなく、アニメのメディアミックスにおいても同じことが言えます。やはりそれぐらいの覚悟を持ってやらないと、ユーザーの皆さんに楽しんでもらえないと思いますね。

phot アニメ「プリンセスコネクト!Re:Dive」

――Cygamesでは、「グランブルーファンタジー(グラブル)」のキャラクターを「プリンセスコネクト!Re:Dive(プリコネ)」に登場させたり、「シャドウバース」に「グラブル」や「プリコネ」のキャラを登場させたりと、社内タイトル間のコラボも精力的に展開しています。ビジネス上の相乗効果は生まれているのでしょうか。

 実際にかなり生まれています。基本的にユーザーはゲームタイトルごとのファンなのですが、相互でコラボすることによって、さらなる盛り上がりを起こせます。また長期的に見て、相乗効果によってCygames全体のファンになってもらえる可能性も期待できます。他のCygamesのゲームも遊んでもらえると、「またあの会社のゲームが出るからやってみようかな」と思ってもらえることも少なくないのです。

――作品間の垣根を越えて、会社そのもののファンになってもらえる期待ができるわけですね。

 そうですね。当社はまだ若い会社ですので、そういう戦略も重要だと考えています。やはり、一つ一つの作品から会社全体のファンになってくれると非常にありがたいですね。

phot 「ウマ娘 プリティーダービー」のキービジュアル。2月24日にゲームがリリース予定。1月よりアニメ2期の放送も始まっていて、現在進行形でCygamesがIPの育成に注力するコンテンツだ
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