――Cygamesではデザイナーやサウンドのスタッフも新卒採用しています。これはまだ他のゲーム会社でも例があるのですが、シナリオライターの新卒採用も始めたことで、話題を集めました。
シナリオは、ゲームにとって非常に大事な要素だと考えていて、シナリオがいいからそのゲームが好きだというファンもいます。だから社内で積極的に人材の採用と育成を進めています。内製中心の企業でも、シナリオは外注する企業も少なくないのですが、やはりより良いゲームを作る上で、自分たちでシナリオチームを持つのは当たり前のことだと思っています。
――新卒でシナリオライターをはじめとするクリエイターを採用しているわけですが、どのように人材の才能を見抜いているのでしょうか。
新卒採用では、総合職と技術職、デザイナー職とサウンド職の4つに大きく分けています。シナリオライターは総合職の中の、専門職という形で募集しています。既に小説やシナリオコンクールで賞を受賞している学生の応募も珍しくありません。絵と同じで、どれだけの量を書いてきているかが1つのバロメーターになりますね。
ただ、採用に関しては応募時に提出させた作品を見て面白いかどうかで判断していますので、デザイナー職やサウンド職などと同様、実力が分かりやすいです。かえってプランナーなどの他の総合職のほうが、大学を卒業して実際にゲームを作れるかどうかの判断が難しいですね。
――シナリオライターは受賞歴も重視して採用しているのでしょうか。
絶対に何か実績がなければいけないわけではありません。作品がきちんと持ち込めて、面白い作品であれば採用することにしています。ただ、既にどこかで作品を発表してきた人が多いですね。
――既に公募で賞を受賞している学生の新卒者を、どのように育成しているのでしょうか。
賞を取っているからといって何でもできるわけではありません。また、小説とゲームシナリオでは書き方も異なりますし、書いてきた作品のジャンルによっても育て方は違います。編集者がいて作品がさらに面白くなる部分もあります。世に出してフィードバックされる回数でも蓄積が変わってくるので、成長の余地はすごくありますね。
育成については、社内でライターチームを独立させていて、勉強会や研修をしています。その中で、ノウハウを積み上げている感じです。
――日本の大企業の場合、社内で育成するために、とがった人材を嫌う風土があると思うのですが、クリエイター志望者には個性的な人も多いかと思われます。
そうですね。もちろん僕らも、すごいモノを作る人であっても、とがり過ぎていない人のほうがいいなとは思っています。特にゲーム開発はチーム作業ですから、あくまでも協調しながら才能を生かせたほうがいいですね。
――貴社は「最高のコンテンツを作る会社」として掲げる3つの標語のうちの1つに、「常に『チーム・サイゲームス』の意識を忘れない」があります。クリエイター集団であっても、チームで作っていくことを重視しているということだと思うのですが、木村専務が組織を作る上で大事にしていることはありますか。
やはりチームでゲームを作るという考え方が全てだなと思っています。チーム、そしてゲーム全体を良くするためにそれぞれが何を頑張っていけるのか、同じ方向を向けるかが非常に大事です。
ただ、その時に何を大切にするかは状況によって異なってきます。若いプロデューサーが関わるタイトルと、役員クラスの人間が先頭に立って進めるタイトルとではチーム作りの在り方からして全然違ってくると思います。ですので、ゲーム開発において「これをすればチームが良くなる」ということは一概には言えないんですよね。
一方で「これをやってはいけない」ことは、どのチーム作りにおいても存在します。
――「やってはいけないこと」は具体的にどういったことでしょうか。
例えば「人の意見を聞かない」のは良くないですね。「否定から始めない」ことも重要ですね。社内で「THE PROJECT」というものがあって、スタッフが守るべき25の行動規範としてまとめています。新卒の社会人がビジネスマナー研修で教わるような、どれも当たり前で基本的なことです。
――個性の強いクリエイター集団をまとめあげる工夫もしているわけですね。
そうですね。やはりチームで良いモノを作ることが大事なんですよね。スマホゲームは今や数人で作れるものではなく、大勢の人数で開発するものになっています。タイトルをリリースして開発がほぼ終了するコンシューマーゲームとは違い、スマホゲームはリリースしてからも運営がずっと続きます。だからスマホゲームはコンシューマーゲーム以上に、チームプレイが非常に重要になってきますね。
――どの分野でも社内で持続的に内製できる強みがクオリティーを徹底的に追求し、極限まで作り続けるスマホゲームの開発を可能にしているわけですね。
それは強く実感します。やはりこちらが思っていることが伝わりやすいし、作り直しもしやすい。スピード感も、クオリティーアップのスピードもとても速いです。外注だとこうはいきませんよね。
――アニメ業界でも、大ヒットアニメ「鬼滅の刃」を制作したufotable(ユーフォーテーブル)が、監督や脚本家も自社で抱えている内製文化色の強い企業として知られていて、「内製だからこそあのクオリティーを生み出せた」ともいわれています。エンタメ業界で内製化の波が来ているようにも思うのですが、どのように感じていますか。
一般論で言うと外注の場合、コンテンツを作るのに長けた企業さんがいて、そうした優良な企業と継続的に組めることによって、はじめて真価が発揮されます。良い企業と組めればいいのですが、組めなかった場合の問題がどうしてもあります。この点で内製のほうが、素早いスピードで良い作品が作りやすい利点があります。
あともう1つ内製の利点で大きいのはスキルやノウハウの蓄積です。一人一人のクリエイターの知見が社内で共有され、継承されていきますので、ここも重要です。このように長期的に考えても内製化は有利だと考えています。
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