はやぶさ2が持ち帰ったのは、リュウグウから採取した5.4グラムの固体物質とガス。固体物質はいわば星のかけらだ。JAXAで現在分析を進めていて、今後は国内のさまざまな研究チームで具体的な成分を分析するという。津田氏は、すでに炭素や水の痕跡が見つかっていることを明らかにした。
「去年12月に帰還してから、半年かけて一粒一粒慎重に分類しました。その分析で、どうやらリュウグウに炭素や水がありそうだという痕跡が見つかっています。科学的な発見は、必ず科学者の専門的なレビューを受けてから認められますので、まだ発表できる段階ではありませんが、本当に価値のあるサンプルだと思います」
当面分析を進めるのは、持ち帰ったサンプルの4割だけで、残りの6割は将来のために保管している。その理由は、未来の研究者に委ねるためだという。
「われわれがこの時代に持っている技術だけでこのリュウグウのサンプルを解析するのは、もったいなさ過ぎるんですよね。10年後、20年後にはもっと分析技術は向上します。きょう会場に来ていただいている小学生や、もっと小さなお子さんが大人になる頃の分析技術であれば、今よりももっとすごいことが分かると思います。6割を保管しているのは、未来に託すためです」
もちろん、9つの世界初を成し遂げるまでには、いくつもの困難があった。リュウグウは直径1キロくらいの小惑星で、そろばんの玉のような形をしている。いざ近づいてみると、着陸できそうな場所は見つからなかった。
「びっくりしたのは、岩だらけで平地が一つもないことです。これは最大の想定外でした。しかも、はやぶさ2の動作もおかしくなりました。18年6月に到着して、10月に着陸する予定でしたが、最初の着陸は4カ月遅らせました」
出発前には何度も着陸の訓練をしてきたが、全く通用しない状況を前に、チーム全員で対策を考えた。そこで600人のチームの約半分を占める科学者たちは、リュウグウの地形のでこぼこを1センチ単位で把握して、着陸する場所を見つけ出した。
技術者たちも着陸精度の向上に取り組んだ。はやぶさ2の当初の性能は、狙った場所から50メートルの範囲内に着陸する精度だった。それを1メートル以内に精度を上げようと取り組み、その結果、世界初となる60センチの精度が達成できたのだ。
津田氏はこのチームを率いるにあたって、メンバーに厳しいことを言わなかったという。ミッションを達成できるチームにするためには、厳しいことをいうよりも事前の準備が重要だった。それも、難しい訓練を重ねて、たくさんの失敗をさせるようにした。失敗を防ぐための分析をしていくことで、自然とお互いが助け合うようになり、チームの結束も高まったという。
「プロジェクトが成功したのはチームワークがあったからです。誰も行ったことがない場所での探査ミッションなので、誰も答えを知りません。チームワークが事前にできていたから、解決できたと思います。こんなにたくさんの人たちと関わることができて、喜びを共有できたのは、本当に何事にも代えがたい経験でした」
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