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ソニーが「UHD Premium」に賛同しなかった理由麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(3/3 ページ)

» 2016年01月28日 13時16分 公開
[天野透ITmedia]
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麻倉氏:その新レギュレーションですが、スペックとしては解像度が3840×2160ピクセル、PQカーブを使用、10bitカラーなどと、標準的なものです。が、液晶とOLEDの各テレビに対して、コントラストのレギュレーションを「Ultra HD Premium」として打ち出し、ロゴを策定したことには実に驚かされましたね。

――その規格から読み取れる意味を教えて下さい

虹色のトロフィーのような「Ultra HD Premium」のロゴマーク

麻倉氏:注目すべきはコントラストに対する数字です。この基準は液晶テレビ向けの「最高輝度1000nits以上、黒輝度0.05nits以下」、OLEDテレビ向けの「最高輝度540nits以上、黒輝度0.0005nits以下」という2段構えで策定されており、いずれもかなり厳しい数字といえるでしょう。日本メーカーの液晶テレビで1000nitsが出て、認定を受けたのはパナソニックが発表した新型「DX900」のみです。これから各社がどんどんフォローしていくでしょうが、この規格が出るまで液晶テレビの最高輝度はだいたい600nitsくらいが標準的でした。

 新型のDX900ですが、パネルには新たにVAを採用しています。というのも、UHD Premium規格における液晶の数値をコントラスト比に換算すると2万:1となり、同社がそれまで得意としていたIPSではネイティブコントラストが1500:1程度しか出すことができないため、たとえ直下型LEDバックライト+ローカルディミンングであっても、到底達成できないのです。規格の数値はサムスンが主張したものですが、数値を現実的に言い替えると「VAパネル、直下型バックライト、ローカルディミングでないと作れないよ(=つまり、ハイエンドの液晶テレビはVA)」となります。実質IPSを蹴落としていると言っても過言ではありません。

――VAはコントラストが出ますが、スイートスポット外の斜めから見ると色が崩れるという視野角の問題を持っていますよね。確かに「ハイエンド」は汎用性よりもピーク性能を狙うべきですから、よりコントラストが出るVAに規格を実質限定してあるというのは、ある意味で正しいといえますが

麻倉氏:この規格は最高輝度もさることながら、黒輝度の縛りが非常に厳しいですね。LGの液晶はIPSですが、LGとしてはやはりOLEDでやりたいところです。OLED規格の考え方としては「標準的には600nits必要だが、1割のマージンを取って540nitsを最低限にすると作れるだろう」というものです。OLEDは上が伸びない代わりに下はかなり沈むという特性を持ったデバイスで、規格の数値をコントラスト比換算すると108万:1となります。

――液晶の2万:1よりもさらに要求水準が高いですね。それと同時に「液晶はパワー、OLEDは深み」という、デバイスごとのキャラクターも読み取れます。設置場所の明るさや、画の好みに合わせてデバイスを選ぶということがしやすくなりましたし、昨年まで言われていた「液晶はもう終わりか?」という問に対してNoと言うための明確な根拠ができた様に感じます

麻倉氏:これら規格の数値をメーカーはどう見るかというというところですが、現状としては「ソニー以外は全部賛成」で、ソニー以外の各CEメーカーは全てこのレギュレーションを採用しました。パナソニックに至っては、同社がこだわり続けてきたIPSを捨ててまで乗ってきています。

――「ソニー以外は全部賛成」ですか? となるとソニーが反対している理由が気になるところです

麻倉氏:ソニーの言い分としては「数値では表せない画質が大事」というところがまず1点ですね。実際のところUHD Premiumという規格はコントラストの上下を決めただけのものなのですが、画質というのは解像度、コントラスト、色、階調、フレームレートといった複合要素の総合的なものです。「UHD Premiumでは高画質の一面しか捉えていない」というのがソニーの主張です。

 また、ソニーの立場としては「ウチは前からプレミアム」なんですよ。一般的に欧米でプレミアムテレビというと、1500ドル以上のモデルを指すのですが、ソニーは赤字が厳しい時にエントリーラインを廃し、ここ2、3年はプレミアムラインに集中して黒字化を達成したという事情があります。よっていまさら「わざわざプレミアムを言う必要はない」というのがソニーの意見ですね。

UHD Premium発表時の賛同各社。その中にソニーの姿はない

――どちらも至極最もな意見ですが、これまでの他分野を見ていると正直「それをソニーが言うか」とツッコミを入れたい……

麻倉氏:さらにUHD Premiumマークは文字通り“プレミアム”ライン限定のもので、エントリーやミドルレンジに対してアライアンスは今のところフォローをしていません。ですが、もちろんミドルレンジでもHDRに対応するものはあるため、そういったものに対して何かしらの言い方をしないといけない訳です。

 そして極めつき。UHD Premiumは、「テレビにしか付かない」という本質的な問題を抱えており、テレビ以外のコンポーネントは規定していないため「その他はどうするの」となります。

――プロジェクターなどの“テレビ以外”は全く考慮されていないわけですか。なるほど、だからわざわざソニー独自の「4K HDR」ロゴを出してきたということですね

麻倉氏:テレビ、レコーダー、プロジェクターなど、映像に関わる製品を「上から下まで」フォローしているソニーからすると、テレビだけに限定したUHD Premiumは扱いにくいことこの上ないだけでなく、商機を作るためのロゴが逆に商機を殺してしまうため相容れないという訳です。ソニーが独自に打ち出した4K HDRマークというのはこういった事情があるんですよ。

ソニーは独自の「4K HDR」ロゴを制定し、テレビに限らず幅広い製品に使用すると発表した

 そのソニーですが、そんなことよりももっとスゴイ技術を今回引っさげて来ましたよ。何と驚愕の4000nitsを叩き出す「バックライトマスタードライブ」です。

――4000nitsとは、今までのものとは桁違いです。それは次回にたっぷりと語っていただきましょう!

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