日本におけるMediaFLOは、現在、KDDIとクアルコムジャパンが共同出資する「メディアフロージャパン企画」と、ソフトバンクが出資する「モバイルメディア企画」が、商用化実現に向けての取り組みを行っている最中だ。年内には総務省が定めたユビキタス特区でMediaFLOを用いた試験サービスが行われる見込みであり、次世代のモバイル向けマルチメディア放送の企画として注目が集まっている。
一方米国では、QUALCOMMがMediaFLO USAを設立し、周波数の確保から放送設備の敷設、映像コンテンツの調達と卸売りまで行っている。2007年3月にはVerizon WirelessがMediaFLOを利用した放送サービス「V CAST Mobile TV」を開始。2008年5月にはAT&T Wirelessも「AT&T Mobile TV with FLO」の提供を開始した。
QUALCOMMの“お膝元”でもある米国でのMediaFLOは、今どのような状況にあるのだろうか。
「米国内のMediaFLOの現況でいいますと、まず対象エリアが拡大し、現在は約1億2千万人程度の人口をカバーしています。われわれは700MHz帯の55チャンネルで周波数の利用免許を持っていますが、アナログ放送が停波し、55チャンネルが空いた州から順次、MediaFLOのサービスを開始しています。2009年2月には全米でアナログが停波しますので、その時には完全に全米で展開できるでしょう」(コード氏)
さらにQUALCOMMは、この55チャンネルの6MHz幅に追加し、新たに56チャンネルの6MHz幅もオークションで購入している。これによりMediaFLOで利用可能な周波数幅は倍になり、チャンネル数の増加が可能になる。
すでにMediaFLOを利用しているVerizon WirelessとAT&T Wirelessでは、両社で共通して視聴できる8つの基本番組のほかに、自社ユーザーのみしか見られない“キャリア独自の番組”も用意している。例えば、AT&TではCNNとSony PIX、VerizonではMTVとESPN Radioなどをオリジナルでラインアップしている。さらに期間限定のキャンペーン番組が用意されることもあるという。こうした柔軟性・拡張性の高さ、さらにキャリアのサービスや競争力との連携のしやすさは、MediaFLOならではの部分と言えるだろう。

米国では現在26の州の50以上の都市でMediaFLOの視聴が可能だ。アナログが停波した地域から、順次MediaFLO商用放送が始まっている。来年2月には全米すべてでMediaFLOのサービスが利用できるようになる。現在放送しているのは、各キャリアに共通のCBS Mobile、Comedy Central、ESPN Mobile TV、FOX Mobile、MTV、NBC 2GO、NBC News2GO、Nickelodeonの8チャンネル。このほかVerizonはMTV Tr3sとESPN Radio、AT&TはCNNとSony PIXが視聴可能。期間限定のキャンペーン放送なども行っているまた、MediaFLOの特長である蓄積型放送「クリップキャスト」や「データキャスト」は米国でもまだ始まっていないが、そちらも商用化に向けたハードルは解決しつつあるという。
「初期のMediaFLO対応端末は、MediaFLOを視聴する際に、アンテナを伸ばす必要がありました。こうした機種の場合、クリップキャストはアンテナをたたんだ状態でバックグラウンドで受信する可能性が出てくるため、受信感度の安定が難しいといった技術的な課題がありました。しかし内蔵アンテナ技術が進歩しており、最近の機種ではアンテナを内蔵したモデルが増えているので、このあたりの問題をクリアする目処が立ってきました。
IPデータキャストもユーザーの使いやすさを鑑みれば、EPG(電子番組表)に内包された形でコンテンツを提供する方法などがいいのではないかと考えています。こういったことをキャリアとともに検討している段階です」(コード氏)
MediaFLOではキャリアのビジネスやサービスとの親和性や連携を重要視しており、新たなビジネスの創出や拡大のためのインフラとしてモバイル向けマルチメディア放送を使ってもらいたい考えだ。
「われわれは『トリガー&アクション』と呼んでいますが、MediaFLOを使ってローコストでコンテンツの大量配信をし、それをトリガーにしてインタラクティブな(ユーザーの)アップリンクを生み出すことが、MediaFLOを採用する事業者にとって新たな収益につながると考えています。


MediaFLOでは、一般的なライブストリーミングによる有料放送のほか、5分から10分程度の映像クリップをあらかじめ端末に配信しておく「クリップキャスト」や、MediaFLOのIPネットワークで天気や株価などの情報を配信する「データキャスト」も用意しており、商用化に向けて準備を進めている。MediaFLOはキャリアのビジネスやサービスとの親和性が高く、連携しやすいこともメリットの1つとうたう。放送で投票などを促し、通信のネットワークを使ってもらうことで通信料収入を増やすといった使い方も可能だ一方で、MediaFLOは(オープンであるための)標準化も重要なテーマと位置づけています。すでに多くの標準化団体との間で標準化を進めており、クアルコムとしてはエンド・トゥ・エンドでMediaFLOのシステム設計ができる体制は整えますけれども、多くのベンダーやサプライヤーが参加しやすい環境作りに力を入れています」(コード氏)
MediaFLOは「携帯電話向けのモバイルマルチメディア放送」を前提に開発された技術であり、すでに商用化されている米国のサービスでも、利用する端末はMediaFLOに対応した専用の携帯電話になっている。しかし、その一方で日本市場を翻ると、ワンセグは携帯電話だけでなく、ポータブルカーナビの新ジャンル「PND」や、ポータブルゲーム機器、電子辞書など、さまざまなデジタル機器に広がり、裾野が拡大している。MediaFLOも将来、“ケータイ以外”に広がる可能性はあるのだろうか。
「PNDの市場はとても重要で、そう遠くない未来にMediaFLO対応のPNDも出てくるのではないかと考えています。われわれ自身もMediaFLOチップを作っていますが、(クアルコムから)ライセンス生産をするメーカーがすでに3社あり、そういったところから、PND向けにMediaFLOが展開する可能性は十分に考えられます。
しかし、MediaFLOの課金には携帯電話キャリアの認証課金システムを使っていいますので、PNDをはじめ携帯電話以外のデジタル機器への展開では、通信機能がない端末でどのように有料課金モデルを提供するかが1つの課題になるでしょう」(コード氏)

フロントシートのヘッドレストにディスプレイを埋め込み、MediaFLOの放送を受信し表示していた。携帯電話向けに開発されたQVGA解像度の映像だが、これくらいの大きさでも十分視聴できる。今後は携帯電話以外へのデバイスへもMediaFLOを広げていくという
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