災害時における「ケータイ」の可能性を考える(3)小寺信良「ケータイの力学」

» 2011年06月20日 21時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 災害時における情報収集・伝達手段として、ケータイと関わりのあるワンセグ(テレビ)、そしてインターネット網の役割と順に筆を進めてきた。今回は携帯電話の基本機能である、通話とメールの話をしたい。

 3月11日に多くの人が経験したように、大規模災害が起こった場合には、携帯電話の通話が不通になる。これは、大量の通話トラフィックが集中することでシステムダウンしてしまうことを防止するため、携帯キャリアが通話制限を行なうからだ。システム全体がダウンしてしまうと、警察や消防などが使用している緊急連絡用回線も使えなくなってしまう。これらを生かすために、キャリアの判断で一般通話に制限をかけるわけだ。

 通話制限されるのは、家庭の固定電話も同じである。一方、公衆電話は優先電話に指定されているので、通話制限されない。ところがご存じの通り、今や携帯電話の普及により、街角で公衆電話を見つけるだけでもひと苦労する状況である。しかもそこに人が殺到するわけだから、自分が使う番になるまで待つぐらいなら別の方法を考えた方がよい。

 どうしても通話連絡が必要な場所としては、各自治体の役所がある。こちらも防災無線や緊急連絡回線は細々と生きてはいたものの、光回線の集約局が流出するなどの被害にあっては、各部署がそれぞれの上組織と連絡を行なう手段もなくなった。

 今回の教訓を生かすとするならば、自治体ごとに何台か衛星電話を契約しておくという方法も検討すべきであろう。現在日本で利用できる衛星電話は、NTT系列のワイドスター、KDDI傘下のイリジウムがある。

 ネットユーザーならば、Skypeで通話するという手段もすぐに思いつくことだろう。ネット回線が生きていてPCやスマートフォンが使えるならばこれは有効な手段であり、実際に震災時にも結構使えたという報告もある。

 ただし携帯電話も含めた一般電話回線にかけるためには、事前にSkypeクレジットを購入しておく必要がある。災害に遭ってから慌ててクレジットを購入しようとしても、決済システムが正常に動くとは限らない。またSkypeクレジットは、使わなければ180日で無効になってしまうため、緊急時に備える目的でクレジットを買っておくと言うこともできない。常時利用している人の間であればSkype同士の通話で事足りるだろうが、緊急時にかけたい相手はおそらく、一般電話回線なのではないだろうか。

 auがSkypeプリインストールの携帯電話をリリースして、競合サービスを取り込んだと話題になったが、「Skype au」は音声回線を使うので通話制限にひっかかる。しかし今後スマートフォンの普及にしたがって、徐々にSkypeの認知も高まっていくことだろう。

 もし携帯電話網よりも先にインターネット回線が復旧した場合は、「フェムトセル」を使って携帯電話をインターネット網に乗り入れさせることができる。フェムトセルは小型基地局と呼ばれるもので、外見は携帯電話のホームアンテナのように見えるが、実際には一般人が設置することはできず、携帯電話基地局免許が必要な移動体通信事業者専用機器だ。

 これを使えば、ごく限られたエリアではあるが、携帯基地局の復旧を待たずして、携帯電話が使えるようになる。今回の震災でもかなり活躍したと聞いている。

リアルタイムとベストエフォートの狭間で

 同じ携帯電話サービスでも、通話に比べればネット接続は、制限されにくい。通話が繋がっている限りある程度の帯域と接続性をずっとキープしなければならないのに比べ、ネット接続はパケットに分解され、送れるときに可能な限り送るという仕組みだからだ。

 基本的にインターネットサービスは、このようなベストエフォートの思想の上に成り立っている。しかし我々は、あまりにも平時の携帯電話網が快適なために、メールにしろSMSにしろ、発信したら瞬時に相手に伝わるもの、という感覚でいる。特に携帯メールはパソコン上で使うメールとは異なり、メール配送エージェントがメール受信したらすぐに携帯端末に送りつける、いわゆるプッシュメール型サービスなので、余計にその傾向が強い。

 今回の震災では、直後に緊急メールが発信されても、届いたのが真夜中だったとして怒る人もいた。しかしインターネット網を利用する携帯メールも本来はベストエフォートなので、不達で戻ってくるよりはマシだと考えなければならない。すでに子供も含め大人までも、メールが遅延する、しかも数時間規模で送れるという経験をしたことがある人の方が少ないだろう。それほどまでにインターネット技術は私達の身の回りの中に自然に存在し、その仕組みを知らなくても困らないほどに洗練されたといえる。もちろん見た目上は、という話だが。

 今回の震災時には、Twitterがサービスが落ちることなく、多くの人の情報共有に役立った。これはTwitter社が大震災という事情を把握し、日本でサービスが落ちないようにかなりのリソースを意識して割り当てたからである。Twitterは元々リアルタイム性はあまり重視しておらず、全員に均等な文字制限を課している。その点で比較的負荷の少ないサービスだと言えるだろう。ただし写真添付などすると、そのぶんだけ別のトラフィックを食う。

 今後はネットリテラシー教育の一つとして、細くなったネット回線をみんなで落とさないように使うという意識も、盛り込んでいくべきなのかもしれない。

 なおMIAUでは6月27日にニコニコ生放送公式番組にて、これら災害時における学校からの情報伝達の課題を、校務のIT化と絡めて考える番組放送を予定している。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は津田大介氏とともにさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社)(amazon.co.jpで購入)。


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