災害時における「ケータイ」の可能性を考える(1)小寺信良「ケータイの力学」

» 2011年05月23日 14時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 今回の東日本大震災は、近年起こった大災害の中では最も多くの映像記録が残ったものだそうである。被災者が目にした災害の様子を映像から分析できれば、より現実的な防災研究が進むだろう。


 そして、これら多くの動画を撮ったのが、携帯電話だということは特筆すべき事項である。大地震が起こったときにも、老若男女が映像記録機器を持って避難しているいう状況は過去に例がなく、日本特有の事情がこれらの記録を残したと言えるだろう。

 先週は各キャリアから新モデルが続々と発表されたわけだが、その華やかさの裏で、今度は身の安全を確保するツールとしての可能性も、検討すべきだと思う。今の携帯電話には、多くのインフラへアクセスする機能が搭載されている。携帯電話網だけでなく、Wi-Fi接続でインターネット網に直接接続できたり、ワンセグでテレビ放送網も受信できる。災害によって避難を強いられた時に、生き残りを賭けて次に取るべきアクションを決定するためには、情報を得ることが重要になるからだ。

 地震と津波によってインフラ設備が受けた被害は様々である。ここでは、携帯電話網、インターネット網、テレビ放送網の3つに分けて考えることにしよう。

 震災直後に比較的早く復旧したのは、テレビである。テレビのインフラは、そのほとんどが有線ではなく電波網でできている。そして一つの電波塔でカバーできるエリアが広い。つまり、被害を受けると一撃で多くの人が受信不能になる一方で、1カ所の設備を復旧させるだけで多くの人が受信可能になる。特にワンセグは、同じ電波を使いながらもフルセグより広範囲で受信できるという特徴を持っている。

 3月12日の報道では、「東北地方を中心に11県でテレビ受信が不能になった」とあった。テレビ放送網で最大規模のNHKでは、4月26日付で発表された第4四半期報告(PDF)の中で特にページを割いて、震災報道に言及している。この報告書によると、テレビが受信できなくなったのは地震による局舎の崩落、中継放送所のアンテナ取付柱の折損、大規模停電などが原因とある。

 通常、放送設備は停電に備えて何重ものバックアップ電源を持っており、多くの基幹設備は放送を継続できた。しかし、その電源設備も地震で壊れたり、中継施設が津波によって流されたところもあったようだ。結果的に最大で約530の中継局で停波が起こったが、3月末の時点ではや19局を残し、復旧している。

情報ソースとしてのテレビ放送網の特性

 災害初期のテレビ放送は、被害状況を伝えるものが中心である。文字情報も相当量流れるが、多くは鉄道、道路などの交通関連の停止情報だ。どこへ行けばいいのかが分からないと意味がないという人もいるが、逆に「あっち方面へ行っても無駄だ」という情報が得られるだけでも、次へのアクションの選択肢が半分になる。

 震災当初は今のようにテレビ局(主にNHK)がTwitterで震災情報を流していなかったので、筆者はテレビを録画し、タイムシフト再生しながら字幕情報をTwitterに書き込み続けた。地名など知らない語句が沢山出てくるので、画面を止めてよく確認しないといけなかったからである。ソースがNHKの放送であることも並記した。

 それがどれぐらい効果があるのかは分からなかったが、しばらくするとテレビが見られないので助かるという返事がいくつも返ってきた。テレビが見られない――という状況はいろいろ考えられるが、津波に遭わず被害が少なかった場所でも、停電のためにテレビが見られなかった人が多かったようだ。例えばiPhoneは、単体でワンセグを受信できないため、早めにスマートフォンに乗り換えた人ほどワンセグの恩恵が受けられなかったという逆転現象が起こった。

 また携帯でのワンセグ受信の弱点は、ものすごくバッテリーを消費するということである。テレビから情報を取るより、安否確認のための通話や現状確認のためのネット検索に労力を割いた人も多かっただろう。

 それもあって、テレビ情報をネットへ流すメリットは、動的な情報を静的なものに変換できるという意味がある。テレビの字幕はどんどん流れて行ってしまうので、そのときにたまたま必要な情報を目にするか、あるいは次に出てくるまでずっと見続けなければならない。しかしTwitterの文字情報であれば、流れていくものを遡って見ることもできるし、検索することもできる。

 異なるインフラ、あるいは異なるメディアは、平時ならば競合相手となるが、緊急時にはお互いの特性を組み合わせることで、より強固な情報網になり得ることが証明されたと言えるのではないだろうか。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は津田大介氏とともにさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社)(amazon.co.jpで購入)。


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