前回のコラムから少し間が空いてしまったが、その間に総務省が公開しているILASの調査結果(PDF)が改定されていた。前回は、青少年のインターネット利用状況調査で、1時間〜2時間未満のデータがどこにもないことを指摘したが、改訂後の資料では凡例の「30分〜1時間」のところが「30分〜2時間」となっている。
あまりのやっつけ仕事に、ちょっと笑ってしまった。本来ならば、新たに1時間〜2時間の要素をグラフに足すことが妥当である。だがそれができなかったところを見ると、これはアンケート時点からすでに、1時間〜2時間の選択肢を設けていなかった可能性がある。
そうなると回答する子供たちも、1時間〜2時間の枠内であったにも関わらず選択肢がないために、仕方なくもっと短く回答したり長く回答したりする可能性もあるわけで、この56%という数字には信憑性がないということになる。
このようなずさんな調査をベースに、これ以上考察を進める意味があるのか疑問が残るところであるが、まあほかのところは大丈夫だと信じるしかあるまい。なお事業者で作る「安心ネットづくり促進協議会」では、この調査とは別に、小中高と保護者を対象にILASテストを実施することになっており、そちらの調査結果が公開されたらまた別途考察を進めたいと思っている。
ILASの調査結果として得られるものは、それほど珍しい結果ではない。これまで多数の方面から子供たちのネットリテラシー調査結果と、ほとんど変わらないものが出る。いわく、
といった事である。このコラムを長年お読み頂いている方には、どこかで読んだ話ばかりであろう。問題は、だからどうしていくべきか、というところであるが、ILASはそれに関して答えるものではない。
(1)に関しては、だからPCを使いましょう、と指導していくのは間違いで、多数の機器を使ってネットを経験した方が、視点が変わって気付きも多いという事である。中でも一番制限が少ないPCの利用者がリテラシーが高いのは、自分のリスクで使うことを承知しており、(2)(3)(4)で示された結論どおり、自ら経験して学ぶことが必要になる環境である、というところが大きい。つまり、過保護な環境でネットを使わせても、いつまでもリテラシーは身につかないという話である。
これはすなわち、「ケータイ持たせない運動」などはまったく子供のためになっていないということである。まだ問題がオオゴトにならない子供のうちに、少しずつ失敗をさせながら学ばせることが必要という、これまでの筆者の持論が改めて打ちされただけに過ぎない。
そして(5)に関しては、保護者の指導が子供には一番効果が高いという、これもMIAU(インターネットユーザー協会)で調査研究し、活動もしてきた結果の裏打ちである。保護者に対して、子供に指導できるに足るネットリテラシーを学んで貰うために、すでに2012年の5月には「保護者のためのあたらしいインターネットの教科書」という書籍を、ネットで募集した協力者とともに出版している。
調査の結果、これらのことをやっていかないといけないことがわかりました、という話が今後沢山出てくるだろうが、すでに教材はあるので、それらを効果的に利用して頂きたいと思う。
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は、ITmedia Mobileでの連載「ケータイの力学」と、「もっとグッドタイムス」掲載のインタビュー記事を再構成して加筆・修正を行ない、注釈・資料を追加した「子供がケータイを持ってはいけないか?」(ポット出版)(amazon.co.jpで購入)。
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