バイト炎上(2)小寺信良「ケータイの力学」

» 2013年09月02日 16時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 前回のコラムから2週間が経過したが、その間にも炎上事件は止まらない。筆者が注意してみていただけでも、いたずら写真投稿による炎上が11件発生している。

不適切なSNS投稿による炎上例
店舗 場所 内容
ピザハット 不明 従業員がピザ生地を顔に貼り付ける
スーパーカスミ 前橋 客がアイスケース内で寝る
家電量販店 不明 客が展示品の洗濯機の中に入る
マックスバリュー 大分 客がアイスケース内で寝る
道とん堀(お好み焼き) 千葉 客がソースとマヨネーズの容器を鼻に突っ込む
精米所 不明 客が精米機の中に入る
北海道警 釧路 男がミニパトカーの上に乗る
大阪市営地下鉄 兵庫 高校生が地下鉄のホームから線路に降りる
スシロー 名古屋 客が醤油差しを口に含む
不明 不明 高3男女が裸で飲酒
公園 不明 大学生が公園の蛇口を肛門に突っ込む

 ただ、事例が発生したのがこの2週間の内なのかははっきりしないものが多い。このブーム(?)に乗ってTwitterの画像を探し回り、過去の事例を見つけて晒しているケースもあるだろう。ここ2週間ぐらいの傾向としては、アルバイト従業員が起こした事件は減少しているように見える。

 被害を受けた店舗側の対応は、誰がやったかという主体と、被害内容によってさまざまである。店舗が雇用している従業員の不始末では、店舗側が謝罪し、商品の廃棄、機器の殺菌、あるいは入れ替えなどが行なわれた。最終的には閉店に追い込まれた例もある。

 自主的に閉店を決めたとしても、店側がそこまでして責任を取る必要があるのか、という意見もある。その一方で、企業がアルバイトという安い労働力を利用するなら、その人間教育を行なわなかったリスクは負うべきとする辛辣な意見も見られる。

 一方で客による被害の場合は、店側の責任ではないため、閉店までには至らないが、やはり商品の廃棄、機器の殺菌、あるいは入れ替えなどが行なわれた。店舗が特定できないケースでは、県内全店舗での備品交換や毎日のクリーニングが義務付けられるなど、対応に追われている。

 被害届を警察に提出した事例もあるほか、被害額の算定が終わり次第損害賠償請求を検討するところもある。未成年者には請求できないため、保護者に請求される事になるだろう。

リスクは回避できるのか

 一連の炎上事件を振り返ってみて、結局何が解決されればいいのか。これには次の3点があるように思う。

  1. バカな写真をネットに上げるなという教育を誰がするのか
  2. そもそもバカなことをするなという教育を誰がするのか
  3. 炎上というネットの動きをどのように抑制するか

 (1)に関しては、ネットリテラシー教育の出番である。一連の事件は、高校生ぐらいの年齢が多い。中学生ぐらいまでは一方的にネットから情報を享受する側だが、高校生ぐらいからSNSを利用しての発信側に移るからである。

 以前に比べると学校もずいぶん方針を転換し、ネットリテラシー教育に取り組むところも増えている。これまでの切り口は、ネット依存や、ネットいじめに対する警戒であったが、今後はSNSへの情報発信リスクも加わる事になる。ただ高校を中退したり、中卒で働いている子に誰がリテラシー教育を施すかという問題が残る。

 (2)に関しては、学校の領域ではなく、最終的には各家庭のしつけの問題に回帰する。そうは言っても若気の至りという言葉もあるように、バカなことをしてしまうこと自体、誰が言ってもなかなか解決するものではない。

 今回の一連の事件は、食品に関する事例が多いが、かつて日本では「食べ物で遊ぶな」というしつけが小さい頃から厳しく行なわれてきた。おそらくは戦後の食糧難の経験から生まれたしつけだろうと想像するが、今の親世代では、それほどプライオリティの高いしつけではなくなってきているという現状もあるだろう。

 雇用する側の責務として、企業が教育を行なうべきという点については、賛同できる部分はある。だがどこまで、あるいはどのレベルから、という範囲決めがなかなか難しい。範囲が広すぎたら研修に時間がかかりすぎて、戦力にならないだろう。アルバイトとは即戦力として投入される労働力であるから、そのあり方と矛楯する。

 ただ、学校でリテラシー教育を受ける可能性のない子の雇用者は、一定の道義的責任はあるように思う。個人経営の店などでは、気骨のある店主が教育を兼ねて、社会からはみ出した子どもを積極的に雇う例もある。立派なことだと思う。

 これまでチェーン店などの企業体では、事件を起こした子を即日解雇するケースがほとんどである。だが単純に切って問題を収集してしまうのではなく、もっと深くヒアリングして問題点を探り、調査結果を公開するほうが、長期的に見て社会全体にはプラスに働くだろう。

 一方で顧客が起こした事件では、企業側は一方的な被害者であり、責任の所在はやはり保護者になるだろう。保護者への啓蒙活動は、PTAや地域NPOなどいろいろな機関が取り組んでいるが、いまだ芳しい成果が出ていない。

 そもそもそのような活動に積極的に参加する保護者は、その時点ですでにリテラシーが高いので、成果が計測できないのである。それよりも本来啓蒙しなければならない層は、学校やPTA、地域活動などに無関心な保護者で、そこにはまだ誰もリーチできていない。

 (3)については、炎上に関係するネットユーザーに、リテラシーがないことが問題である。(1)と(2)が解決されれば炎上は起こらないだろうとする意見もあるだろうが、炎上はなにも子どものアルバイトに限った話でなく、あらゆる事が火種となり得る。

 まず最初に晒し上げを行なう者は、炎上するであろうことを見越して行動しており、その結果を自業自得であると捉え、自分の責任ではないと考えている。また炎上に荷担する者は、気分的にはヤジウマであり、そこが焼け野原になったら見捨てて次の炎上先に集まるだけである。

 それらの人々は、炎上が起こしたその後の影響に興味はなく、教育的な視点もない。自らの溜飲を下げることだけが目的化している。だがそれらの人々にはネット上でリーチできるので、炎上の弊害を訴えることで、炎上NOの機運を醸成することは可能かもしれない。

 最悪のシナリオは、青少年インターネット環境整備法のような形で法規制が入る事である。この法律を、子どもがインターネットを利用することに制限を設けるものと勘違いしている人も多いが、実際は子どもを守るために事業者や保護者といった大人に義務、あるいは努力義務を課すものだ。

 また各自治体には、青少年健全育成条例があり、未成年者の誤った行為を実名、写真入りで広く知らしめることは、青少年の健全育成や社会復帰を阻害するとして、規制の対象になることもありうる。これら条例は地方議会で決まってしまうので、中央の議論の方向性とは無関係に勢いで決まるケースも少なくない。

 少なくとも今のネット社会には、子どもに制裁を加えることに躊躇しない大人が増えているという点に大きな問題がある。ぜひ子どもを育む目線で、何が適切な行動なのかを考えていただけないかと望む。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は、ITmedia Mobileでの連載「ケータイの力学」と、「もっとグッドタイムス」掲載のインタビュー記事を再構成して加筆・修正を行ない、注釈・資料を追加した「子供がケータイを持ってはいけないか?」(ポット出版)(amazon.co.jpで購入)。


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