「アメリカのLTEは高くて遅くて本当に最悪だ」━━T-Mobile買収を前に孫正義社長がアメリカで宣戦布告石川温のスマホ業界新聞

» 2014年03月20日 12時00分 公開
[石川温]
「石川温のスマホ業界新聞」

 3月11日(米国時間)、ソフトバンク孫正義社長がアメリカ・ワシントンDCで講演を行った。アメリカ第4位のキャリアであるT-Mobile US買収を有利に進めたいという狙いがあったようだ。

 筆者もこの講演会を取材しに行こうと思い、招待状は入手したのだが、スケジュールと予算の都合で断念せざるを得なかった(さすがに1時間の講演のために35万円の航空券は買えなかった)。

 ただ、講演の様子はソフトバンクのサイトで配信されており(孫社長の英語スピーチに加え、日本語訳も配信)、また、孫社長はアメリカの複数のメディアに出演していた。

この記事について

この記事は、毎週土曜日に配信されているメールマガジン「石川温のスマホ業界新聞」から、一部を転載したものです。今回の記事は2014年3月15日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額525円)の申し込みはこちらから。


 2012年のSprint買収報道以降、孫社長がアメリカのメディアや公の場に出て、戦略を語るということはなかったはずだ。そう考えると、今回の講演並びにメディア行脚は、積極的に主張を関係者に知らしめたいという狙いがありそうだ。

 やはり、ベライゾンやAT&Tと互角に戦うにはSprint単体では難しい。何とかT-Mobile USを買収して「三つどもえの戦い」に持って行きたいのだろう。メディアから「なぜ、T-Mobile USを買収したいのか」と聞かれ、孫社長は「具体的な話はまだ発表していない」と煙に巻きながらも、T-Mobile USが欲しくて欲しくてたまらないと言った雰囲気を醸し出していた。

 今回の講演やメディア出演を見ていて感じたのが、孫社長の主張が、日本でボーダフォンを買収した頃ととてもよく似ていると言う点だ。あの時と同じような論法で、政府関係者や国民を納得させようとしているのだ。

 講演やメディア出演で孫社長は「アメリカの通信料金は高い。そして速度も遅い。まさにHorrible(実にひどい)だ」と一刀両断。そして、ソフトバンクは、世界一の通信技術を持っており、アメリカを変えてみせると豪語するのだ。ソフトバンクが強みとしているのが、200Mbpsを超える通信技術で、これによってベライゾンやAT&Tといった競合キャリアだけでなく、コムキャストといった固定通信キャリアにも対抗できるとしていた。

 「アメリカは料金が高すぎる。ソフトバンクが安くしてみせる」とぶちまけるあたりは、日本で携帯電話事業に参入する際に「日本のキャリアは儲けすぎている。ソフトバンクが安くする」と息巻いたころに通じるものがある。

 ただ、いまのアメリカを見ると、第4位のT-Mobile USが、料金を下げたり、端末の売り方を変えるなどして、徹底的にAT&Tを攻めている状態にあり、健全な競争環境が起きている。かつてT-Mobileが経営難に陥り、AT&Tから買収提案があったが、FCCなどが「競争が阻害されるので、買収するべきではない」と反対を受けたこともあり、4キャリア体制での競争が継続された。結果、T-Mobile USが復活し、AT&Tを攻め続けている。この状況を受けて、FCCとしては「4キャリア体制で良かった」という評価になっている。

 T-Mobile USを取り込みたい孫社長としては、かなり劣勢に立たされているのは間違いない。ITウェブメディア「re/code」の超有名ジャーナリストであるWalt mossberg氏からも「Sprintよりも小さいT-Mobile USが成功しつつある。FCCの判断は正しかったのではないか」と孫社長に突っ込んでいたが、孫社長は「AT&TがT-Mobile USを飲み込んでいたら、Sprintが死んでいた」と反論。AT&TがT-Mobile USを買収してしまっていたら、アメリカでの通信キャリアでの競争が終わってしまったかも知れないが、SprintがT-Mobile USを買収できたら、正当な戦いができるとした。

 AT&Tとベライゾンと戦うには、スプリントもT-Mobile USも資金面で脆弱であり、基地局や周波数などをひとつにまとめることで競争力が増すと力説していた。

 小さなキャリアを買収し、大きくして2強に戦いを挑むという構図は、まさに日本でウィルコムとイー・アクセスを傘下に収め、周波数と契約者を獲得して大きくなったいまのソフトバンクに近い。まさに、孫社長は日本での成功モデルをアメリカでなぞろうとしているようだ。

 ただ、いまの日本市場を見てみると、ソフトバンク傘下となったイー・アクセスもウィルコムも、かつての「挑戦者」という印象は全くなく、すっかりソフトバンクに牙を抜かれてしまった感が強い。3大キャリア体制になり、ソフトバンクが今まで以上にNTTドコモやKDDIに攻め入っているかといえば、決してそんなことはなく、むしろ、「VoLTE時代を先取りした革新的な料金プラン」では、値上げ方向に持って行こうとしており、他社に先駆けて料金プランを発表することで、他社にも横並びになるようにウィンクを送っている雰囲気すらある。

 孫社長は「アメリカのLTEは遅い。ソフトバンクなら200Mbps以上のサービスを提供できる。固定通信も凌駕できる」とアピールするが、7GB制限があっては、そんな速度が出たところで、一瞬で制限に達してしまう。T-Mobile USを買収し、周波数が増えても、通信容量制限は避けては通れないということを考えると、アメリカ人に夢を与えすぎるのも、どうかと思う。

 とはいえ、T-Mobile USの買収が先になればなるほど、Sprintのネットワーク強化などに投資が必要となる。T-Mobile USの買収がすぐに決まれば、2社で効率の良い投資を選択できるようになるが、先延ばしになればそれだけ無駄金が発生する。時間がかかれば、ベライゾンやAT&Tの背中は遠くにいってしまう。今回のメディア行脚を見る限り、孫社長としても、一刻も早くT-Mobile USを買収してしまいたいという焦りが出ているように感じた。

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