―― ここまでのお話をうかがっていると、Tポイントは非常にいい形で成長して順風満帆に見えますが、北村氏さんの立場で、現在感じていらっしゃる課題や、今後の問題意識があればお聞きしたいのですが。
北村氏 先ほど国民の世帯支出はだいたい300兆円ということを申し上げましたが、実はリアルの小売サービス業に限っていうと、だいたい140兆円か145兆円だと思うんですね。ECすごいね、といわれていても10兆円を超えたところ。
実は去年(2014年)、Tポイントをお付けした対象売上が5兆2000億円くらいなんです。我々はこれを、Tが関わったという意味で、関与率とか関与売上と呼んでいます。今年(2015年)も頑張ってドーンといく予定ですが(笑)、140兆円、145兆円からしたら、まだ微々たるものです。
つまり、個人のお財布に直すと、対象のアライアンス先はだいぶ増えましたが、実際にお付けしている部分はまだ大したことないわけです。最初に始めさせていただいて、会員化率がすごいと言われても、全国民が持っているわけではありません。もっともっと多くの支持をいただいて、みなさんに持ってもらえるカードにしなくてはならないと思っています。
もう1つ、対象アライアンス先が広がってきても、実際お付けしているのはまだ5兆2000億円程度なので微々たるものです。道半ばという認識です。Tポイントが関わる中身をがんばって上げていかなくてはならないですね。
―― ビジネス誌的な視点では、ポイント市場にドコモなど新規参入がどんどん入ってくるので、Tポイントはどう防衛するのか、みたいな切り口になりがちですが、御社としては、ポイントが関与できる市場はもっと大きくなるし、むしろホワイトスペースをどうやって埋めていくか、そちらの方が重要という考えですか。
北村氏 そうですね。今ある会員を取り合ったり切り刻んだりしても、あまり意味がないですしね。正直、CRM(顧客関係管理)を一元化しないと価値が半減すると思います。仮に3社が採用したら、当然、個人情報をマージしたり勝手に使ったりするわけにはいきません。3社バラバラで、顧客戦略も3つに分かれます。
―― CRMで考えると、捕捉できる顧客を自分のお店の中で分断してしまうことになってしまう。
北村氏 A社から見たら、自分のところに付いているユーザー以外は未利用者に見える。けれど、ほかのポイントでは既利用者みたいな判別も付きにくいですよね。
―― CRMが前提のポイントで考えると、複数相乗りになってしまうと、その問題がありますね。
北村氏 Tポイントに1本化しろという覇権主義的なことというよりは、お客様のためにも一元化しておかないと。今ならポイント3倍という販促も、3社に声をかけて統一できたらいいですよ。それも本当にやりにくいですよね。今ならA社ポイント3倍、次からはB社、みたいに販促も基本的にはポイントを採用している各社ごとに分かれますよね。だから、本当に大変だと思います。
―― ポイントをやるメリットの半分以上を捨ててしまうことになりかねないですね。
北村氏 dポイントとPontaさんは、どちらかというとネットのアフィリエイトに近い形に持っていった感じではないでしょうか。
―― そうかもしれませんね。
北村氏 ポイントという効果で来店してくれたらいいと。それから先は割り切られたのかなと思います。
―― 集客ツールとして複数のところと契約して、どこがどれだけいい条件で持ってきてくれるかを競争させようとしているだけかもしれないですね。
―― 先ほど、お客さんが使うお金の中でTポイントの関与率を上げるという話がありましたが、もう1つの視点として、ユーザーをどうやって広げようと考えていますか?
北村氏 既存企業さんに会員を増やしていただくこともあるんですが、既存のお客さんは急に入れ替わるわけじゃないですから、増え続けはしますが、構造上、爆発的には増えないんですね。
会員は、新たなアライアンス先が、まったく違う業種、あるいは地域で入っていただくと、一気に増えることになります。会員を増やしていくという意味では、既存の提携先が地道に会員を増やし続けていただくことと、新規の提携先企業が、自分のところのカード券面で新たなTカードを発行していただくことが一番分かりやすい例です。
―― 高齢者にどう広げていくかが課題かと思ったんですが、ふるさとスマホの話が出たときに、そこに対する戦略的な位置付けかという印象を持ったのですが。
北村氏 結果的にはなるかもしれませんが、ふるさとスマホは協議会でまだ何も決まっていません。協議しながら我々は最大限ご協力しますというところで、数字の読みまでは組み込めていないですね。高齢者については、スーパーマーケットのメインのお客さんは50代から60代以上の方々ですし、ドラッグストアもその傾向があります。日頃付き合いのあるところに頑張ってもらえればと思っています。
―― 今、会員数はだいたい人口の5割弱くらいになろうかというところですが、最終的にはどの程度を目指しているんですか?
北村氏 最終的には100%としかいいようがないですね(笑)。当座の目標だと、6000万人を目指しています。
―― それではけっこうな数をまだ積まなくてはいけないですね。ここまで普及している中で増やすわけですから。
北村氏 大型の提携案件があると理解していただいてけっこうです。今の参加企業に新たに加わらない限り、一気にどんとは増えませんから。
―― 新規の加盟店が入ると、新規の加盟店のユーザーにTカードが浸透する速度や浸透率は高いということですね。
北村氏 それはやはり来店頻度に規定されますね。
―― 確かにそうですね。例えば自動車ディーラーなんかのように数年に1回しか来ないところもあるわけですし、事業者さんのビジネスに左右されますね。
北村氏 来店頻度に規定されるのは仕方がないですね。来ないのに変えようがないですから。
―― 図書館の貸出カードをTカードにして、つまり行政と組んでTカードのプラットフォームを広げようという取り組みをされたと思いましたが、あれの評価はいかがですか。今後、行政カードとして広めていくことについてはどう考えていますか?
北村氏 武雄市図書館に続き、この10月に神奈川県海老名の図書館がオープンします。今、公表させていただいているだけで、これだけあります(画像)。来年(2016年)の春に宮城県の多賀城、そしてまだ日程は決まっていませんが、山口県の周南、岡山県の高梁、宮崎県の延岡でさせていただくことになっています。
図書館など公共施設で、T会員がそのままお手持ちのカードで本を借りられます、という価値を付けることになります。武雄市図書館の場合ですと96%がTカードを選ばれています。今までは単なる図書の貸出カードだったのが、街に持っていくとTポイントがたまる。既存のT会員の方はそのまま図書カードになり、借りた方はTのメリットを受けるということで、非常に喜んでいただいていると思います。
―― 最後に今後のTポイントの将来ビジョンをお聞かせください。
北村氏 先ほど、Tライフドミナントをお見せしたとおり、抜け業種がいくつかあるんですね。全業種、全ドミナントを完成させたいと思っています。これがなかなか難しくて、インフラや公共系が最後に残ってくるとは思うんですが、ご一緒させていただきたいと思っています。
―― そもそも使わない人をどうやって使わせるかというところで、必要性が出てくるかもしれませんからね。
北村氏 例えばの話ですが、1万歩歩いたら100ポイントとか。自治体も図書館だけでなく、地域という視点で見ると、今の地域の維持、そのものが成立しないという発表もあったくらいですから。
―― 私も問題意識を持って地方を取材していますが、硬直なんですよね。人が移動しなくなって、流動性が低くなると経済の流動性も低くなって結果的にどんどん縮小して硬直死するというパターンです。ポイントが動機付けになってくると、事業者同士の競争や集客以外のポイントの価値が生まれるかもしれないですね。
北村氏 購買だけで役立っていたものが、みんなのポイントという視点も持ち始めていますね。東日本大震災のときには、自分のためたポイントが人のために役に立つこともありました。小売流通から始まったポイントですが、広範囲で地方の役に立ったり人の役に立ったりと、厚みを増したところに持っていきたいと思っています。
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