【前編】対談:ドミニク・チェン×近藤玄大が語る、オープンイノベーションで加速する課題解決:Meet Recruit

» 2015年10月28日 06時00分 公開
Meet Ricruit

 スタートアップとしてLINEやSMSなどテキストを中心としたコミュニケーションではなく、画像などビジュアルを中心とした新しいコミュニケーションアプリの開発に取り組みながら、情報環境に関する多数の著書を執筆されているドミニク・チェン氏と、デザインとテクノロジーを駆使した動く義手「handiii」を開発している近藤玄大氏による対談。

 前例がないフロンティアにテクノロジーを駆使して挑戦するお二人は、どのようにサービスやプロダクトを通じて、世界の課題を解決しようとしているのだろうか。スタートアップメディア「THE BRIDGE」でエディターを務める他、「Meet Recruit」 を始め複数の媒体でイノベーションやテクノロジーについて執筆活動を行うモリジュンヤがお二人に話を伺った。

モリジュンヤ(以下、モリ) まずお二人の活動とこれまでの経緯について簡単にお話いただければと思います。

ドミニク・チェン(以下、ドミニク) 「Picsee」というビジュアルコミュニケーションアプリを開発するディヴィデュアルという会社を経営しています。「Picsee」は、従来のメッセージアプリのようにテキスト中心ではなく、画像を中心に置いたコミュニケーションアプリ。また、コモンスフィア(元クリエイティブ・コモンズ・ジャパン)というNPO法人で理事も務めています。大学では学際情報学に関する研究をしていました。

近藤玄大(以下、近藤) 私は大学時代にカルフォルニア大学バークレー校に留学して、在学中はサイバネティクスの研究に取り組み、2011年に東京大学大学院工学系研究科修士課程修了しました。その後、ソニー株式会社に入社して、ロボット研究や新規事業創出に携わり、昨年2014年10月よりexiiiという会社を創業しました。exiiiでは筋電義手や電動義手の開発など、ロボティクスとデザインに関することに取り組んでいます。

デジタルファブリケーションの技術で個性を表現

モリ 近藤さんは、創業される前から筋肉の電気信号を読み取って機械でできた義手を動かすという筋電義手の開発をされていましたよね。最初、この目でプロトタイプを拝見したときは衝撃でした。

近藤 そうですね。2013年に国際デザインコンテストの「ジェームズ ダイソン アワード」で賞をいただいたり、「Gugen」というモノづくりコンテストでも大賞をいただいたりしていました。いろいろな賞を受賞できたことが創業にはつながっていますね。

ドミニク 今回「handiii」を初めて見ました。かなりカッコいいですね。「手がない」という状況をカモフラージュするのではなく、むしろ積極的に個性としていく打ち出していくアプローチはかなり新鮮でした。「handiii」は元々どういった目的で開発しはじめたものだったんですか?

近藤 最初は、3Dプリンターを活用したら、従来よりもコストをかなり下げて義手を作ることができると考えたことから始まりました。

モリ たしかモーターや基盤、センサー以外の部品は全て3Dプリンターでプリンティングされているんですよね。

近藤 そうです。最初はコスト面だけだったのですが、徐々にファッション性や個人に合わせた義手づくりを意識するようになりました。義手は市場が小さいので、なかなか靴のようにいろいろなモデルが登場することが難しいんです。そうすると、自分にフィットする義手を見つけることも難しい。3Dプリンターを活用すれば、低コストでその人の身体に合った義手を開発することが可能いなるなと。展覧会で「handiii」を見た方から「こういう義手がほしかった」とお問い合わせをいただいたりして、嬉しかったですね。

サイバネティックスと義手サイバ

ドミニク 僕は情報学の分野でサイバネティクスと呼ばれるシステム制御理論の研究をしているのですが、この言葉を生み出したノーバート・ウィーナーという学者は義肢などの身体や感覚を拡張する機械の研究も行っていました。今日、サイバネティクスはウェブサイエンスや組織論の世界で使われていますが、その意味で「handiii」は本流のサイバネティクスの具現化ですね。今日見せていただいている「handiii」は筋電義手という呼び方でいいんですか?

近藤 正確にはこれは電動義手ですね。距離センサーとモーターで動かしています。最初に開発していたのは筋電義手というもので、こちらは人の筋電位を計測して、一度スマートフォンで計算処理を行って、その後、義手を動かすというものでした。(筋電位で動かしている様子の映像)

ドミニク 筋電義手のほうが高い技術を用いているようですが、なぜ今は電動義手の開発に?

近藤 筋電位を計測するほうが人の動きを正確に再現可能ではあるのですが、スマートフォンでの計算処理に時間がかかってタイムラグがあったりしたんです。日常的に義手を使おうと思うと、タイムラグがあるのは厳しいですから、今は再現できる動きは少なくとも、すぐに動かすことができる電動義手の開発を行っています。

ドミニク 電動義手は距離センサーを用いているということでしたが、こちらは何の距離を計測されているんですか?

近藤 義手を付ける人の腕の筋肉の収縮距離を計測しています。これで動きを再現しています。基本の動作はグーとパーになりますが、スイッチを切り替えることで、手の形も変更することができます。女性の歌手の方も「handiii」を使ってくれていて、歌手として活動するためには手の動きなどの表現も大切だそうで、その方は人差し指だけ立てるジェスチャーが気に入っているそうです。

世界の感性を取り入れるオープンイノベーション

モリ 筋電義手から電動義手へとシフトしたのは、実用性を意識されたからですか?

近藤 そうですね。シンプルで安い素材を用いて、いかに実用化して多くの人に受け入れてもらえるかに取り組んでいます。

ドミニク 機械の義手というと、かなり男性受けは良さそうな印象ですが、女性からの反響はいかがですか?

近藤 そうですね、男性からの評判はかなり良いものでした。ただ、女性からの受けはそれほどよくなくて……。なので今では「handiii」は男性向けに加えて、女性向けのタイプも開発しています。女性を意識して開発したことで、女性からも関心を持ってもらえるようになってきましたね。

ドミニク ターゲットとする対象を限ってしまうと、実用性や普及からは遠いものになってしまうので、多様性への配慮が重要ですよね。

近藤 メンバーにもデザイナーはいるのですが、これはいろいろなデザイナーの感性が必要だなと考えて、最近発表した「HACKberry」という新型はオープンソース化して開発を進めています。デザインデータや動かすためのアルゴリズムなどをダウンロードして、作るだけではなくて製造したものの販売もOKにしています。「HACKberry」のデータにはクリエイティブ・コモンズのライセンスを付与しています。

モリ クリエイティブ・コモンズ・ライセンスは、インターネット時代のための新しい著作権ルールで、作品を公開する作者が「条件を守れば作品を自由に使って構いません。」という意思表示をするためのツールです。ドミニクさんはクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの普及に取り組んでいるNPO法人で理事も務めいらっしゃいますよね。ドミニクさんから見て「HACKberry」のアプローチはどのように映りますか?

ドミニク ここまでクリエイティブ・コモンズ・ライセンスをフルに活用してもらっている例はないですね。ソフトウェアからデータからハードウェアまで、21世紀型オープンソースのモデルケースだと思います。すでに反響は来ていたりするんですか?

近藤 北海道では特定の人のために作ってあげたいというデザイナーがいて、メキシコにも腕がない人のために作ろうという人がいましたね。ロンドンでは高校生向けの教育に使おうとしているそうです。最初はコピーするだけだと思いますが、そのうちデータを改変してオリジナリティを発揮する人たちが出てきたら面白いですよね。

プロフィール/敬称略・名称順

近藤玄大

exiii株式会社 代表取締役

1986年大阪生まれ。2011年東京大学工学系研究科修士課程修了。在学中は筋電義手をはじめとするブレイン・マシン・インターフェイスの研究に従事する。その後、ソニー株式会社にてロボットティクス技術の研究と新規事業創出に携わる。2013年6月より大学時代の先輩とともに業務外で再び筋電義手の開発に取り組み始め、2014年6月に独立。現在はexiii株式会社を設立。主な受賞歴は、「日本機械学会三浦賞」「JamesDysonAward2013国際2位」「GUGEN2013大賞」「第18回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞」。

ドミニク・チェン

株式会社ディヴィデュアル

共同創業取締役

1981年東京生まれ。フランス国籍。博士(東京大学、学際情報学)。NPO法人コモンスフィア(旧クリエイティブ・コモンズ・ジャパン)理事。株式会社ディヴィデュアル共同創業取締役。主な著書に『電脳のレリギオ:ビッグデータ社会で心をつくる』(エヌティティ出版、2015年)、『インターネットを生命化する〜プロクロニズムの思想と実践』(青土社、2013年)、『オープン化する創造の時代〜著作権を拡張するクリエイティブ・コモンズの方法論』(カドカワ・ミニッツブック、2013年)。

モリジュンヤ

編集者・ライター

1987年2月生まれ、岐阜県美濃加茂市出身。横浜国立大学経済学部卒業後、『greenz.jp』編集部を経て独立。『THE BRIDGE』『マチノコト』など複数のメディアの運営に携わり、編集デザインファーム inquire を立ち上げる。社会の編集と未来の探求をテーマに、幅広く執筆を行っている。NPO法人スタンバイ理事、一般社団法人HEAD研究会フロンティアTF副委員長。


© Recruit Holdings Co., Ltd.

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