KDDIは、1月12日に春商戦に向けた発表会を開催した。ここでは、春モデル4機種と学割の施策が発表されている。春商戦は、1年で最も携帯電話の契約件数が伸びる、いわば天王山だ。auの新商品、新キャンペーンも、この激戦のために投入されたもの。1年の計は元旦にありというが、こと携帯電話に関しては、それが春商戦といえるのかもしれない。
この発表からは、春商戦やそれ以降のトレンドになりそうな傾向を読み解くことができる。1つが、端末ラインアップのミッドレンジ化。もう1つが、増え続けるデータ通信需要と、それに応える学割の存在だ。前者に関しては他社もミッドレンジモデルを発表済みだが、KDDIが春モデルの中でオリジナルブランドの「Qua Phone」を戦略商品に据えたことで、その傾向がさらに明確になった。
学割に関しは、auが25歳まで5GB増量という施策を打ち出したところに他社が追随。先に発表していたソフトバンクが、auに対抗してデータ容量を改定し、6GBに特典を増やすなど、増量合戦の様相を呈している。本連載では端末と学割、2つの側面から、auの発表を振り返っていき、春商戦の競争軸を読み解いていきたい。
4機種が発表された春モデルの中で、KDDIが「戦略商品」に据えたのは、京セラ製の「Qua Phone」だった。Qua Phoneは、auの独自ブランドで展開するモデルだが、「非常にアフォーダブル(値ごろ感がある)」(KDDI 代表取締役社長 田中孝司氏)なのが特徴。ベースとなるスペックは、MVNOなどが取り扱うSIMロックフリーのミッドレンジスマートフォンに近く、チップセットには「Snapdragon 410」を採用。メモリも2GBで、LTEは下り最大150MbpsのCategory4までと、スペックは抑えめになっている。
一方で、田中氏がアフォーダブルと述べているように、2年利用時の実質価格は2万円台前半。一括での価格は5万円台と、通常のミッドレンジモデルよりは少々高いが、10万円に届きそうなハイエンドモデルよりは価格も低くなっている。SIMロックフリースマートフォン市場で近いスペックのモデルは3万円前後だが、ボディにアルミを使い、防水、防塵(じん)、耐衝撃性を持ち、おサイフケータイやVoLTEに対応していることを考えると、許容範囲の価格差といえるかもしれない。
Qua Phoneは、同時に発表されたHuawei製の「Qua Tab」とブランドを統一しており、ホーム画面にも共通のテイストを取り入れている。単にデザインが類似しているだけでなく、スマートフォンとタブレットが連携する「auシェアリンク」にも対応。この機能自体は他のスマートフォン、タブレットでも利用できるが、ブランドやデザインを統一したことで、より2つのデバイスが連携する世界観を訴求しやすくなった。
これまではハイエンド中心だった大手キャリアのスマートフォンだが、最近では徐々にミッドレンジを取り入れるようになりつつある。戦略商品という意味では、ドコモも2015年夏モデルで「AQUOS EVER」を、冬モデルでは「arrows Fit」を用意しているが、auのQua Phoneはそれを一歩進めて、auの独自ブランドで提供するものといえるだろう。au design projectやiidaで独自ブランドのスマートフォンを提供してきた、auならではのやり方ともいえる。
では、なぜこのタイミングでミッドレンジモデルが“主役”に躍り出るようになったのか。背景には、総務省のタスクフォースで2015年末に打ち出された、販売奨励金削減の方針がある。田中氏はQua Phoneを導入した背景を、「販売奨励金の話もあるので、ここ(ミッドレンジ)は重視していかなければならない」と語っている。また、プロダクト企画本部長 小林昌宏氏も「Quaシリーズはオリジナルブランドで、ベーシックラインを構築する流れを作りたい」と語っており、ミッドレンジ強化の方針を示唆している。
販売奨励金が削減されれば、これまでのように、一括価格で10万円に迫るハイエンドモデルを実質0円で販売するのが難しくなる。とはいえ、それだけだと、ユーザーにとっては単なる負担増だ。そのため、ここにもともとの価格が安い機種を入れ、販売奨励金を減らしつつ、負担感を増さないようにすることが求められる
もちろん、ミッドレンジ端末の性能がイマイチということであれば、ユーザーにそっぽを向かれかねない。ただ、今はスマートフォンの性能が全体的に底上げされている。ミッドレンジであっても、一般的な利用に関しては、まったく支障がなくなってきているというのが、こうした話の大前提だ。グラフィックスに凝ったゲームなどを動かそうとしなければ、このクラスの性能のスマートフォンでも、ボリュームゾーンのユーザーは十分満足できるだろう。
市場環境の変化を先読みして投入したミッドレンジモデルだが、試行錯誤であることもうかがえる。1つは、ユーザーがまだハイエンド志向であるということ。田中氏は「まだハイエンドが先に出ていく状況」で、ミッドレンジモデルについては、「何とかビジネスを成り立たせるようにしていきたい」状況だ。Qua Phoneについても、あくまで先行投入のテストケースであると語っている。
また、ミッドレンジモデルというと、どうしても端末の“差”が出しづらくなる。Qua Phoneに関しては、耐衝撃性やスマートソニックレシーバーといった、京セラの独自技術が載っていたり、auが独自にカスタマイズしたUIが内蔵されていたりと特徴は出ているが、ミッドレンジモデルのラインアップが増えていったとき、1台1台をきっちり売り分けられるのかは未知数だ。
こなれたチップセットを載せたミッドレンジモデルが台頭すると、結果としてインフラ側の進化を遅らせてしまう恐れもある。実際Qua Phoneも、LTEはCategory4で、キャリアアグリゲーションにも対応していない。こうした端末の割合が増えると、せっかくLTEに投資し、高速化、大容量化しても、それを享受できるユーザーが限られてしまうことになる。キャリアにとっては、インフラの力でも差が出せないため、今まで以上に、端末開発のかじ取りは難しくなりそうだ。
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