外観まで変えないとモノへの愛着が生まれない――シャープが「ロボホン」を開発した理由(1/2 ページ)

» 2016年05月24日 19時00分 公開
[石野純也ITmedia]
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 スマートフォンの“次”として注目を集めている分野の1つに、ロボットがある。形は別物だが、コミュニケーションや通信の知見が応用しやすく、これまでスマートフォンで培ってきたノウハウもある程度生かせる。ソフトバンクがPepperに取り組んでいるのも、こうした背景がある。

 この分野に、スマートフォンメーカーの中でいち早く参入したのが、シャープだ。同社はコミュニケーションロボットとして「RoBoHoN(ロボホン)」を開発。2015年のCEATECに合わせて発表し、大きな話題を呼んだ。大きな特徴は、ロボットでありながら、スマートフォンとしての特徴をそのまま備えているところにある。ロボホンは、ロボットでありながら、電話ができ、メールも送れる。

ロボホン シャープが開発したコミュニケーションロボット「RoBoHoN(ロボホン)」
ロボホンロボホン ロボホンを携帯電話として使ったり、ロボホンからメールを送ったりできる

 そのため、本体のサイズもギリギリながら、ポケットに収まる範囲だ。ユーザーが毎日持ち歩き、コミュニケーションを取るための相棒として使えるというのは、ありそうでなかったコンセプト。見た目やしゃべり方のかわいらしさも、注目を集めた一因といえるだろう。

 このロボホンが、間もなく世に送り出される。5月26日の発売が迫る中、開発を指揮したシャープの コミュニケーションロボット事業推進センター チームリーダーの景井美帆氏に、その魅力や開発の意図を語ってもらった。

こんなに可動部が多いものを作ったことがなかった

ロボホン シャープの景井美帆氏

――(聞き手:石野純也) 最初に、ロボホンを開発することになった経緯をお話ください。

景井氏 もともと、私はスマートフォンの担当をしていました。2013年ごろには、ソフトウェア企画でユーザーインタフェース(UI)を中心にやってきましたが、進化が難しくなっていたことも事実です。新しいUIを取り入れていきたい、それをするためには形を含めて変えていかなければということで、今回、ロボホンに挑戦することになりました。

―― とはいえ、スマートフォンのUIとロボットには、大きな違いもあると思います(笑)。そこから、なぜロボットに行くことになったのでしょうか。

景井氏 エモパーをやっていたこともありますね。人と機械の関係性を変えていきたいということで、スマホがしゃべる機能をご提案していました。音声のアウトプット、インプットという意味では、エモパー以前も、「ともだち家電」で力を入れていたことです。ですから、音声でやりとりするものを作りたいというのは、ありました。

 ただ、人と機械の関係性を考えると、本当に愛着が生まれるようにするには、やはり外観まで変えなければなりません。スマートフォンのオプション品として耳などのアクセサリーを作ることも考えていましたが……。ちょうどそのとき、高橋先生(ロボットクリエイターの高橋智隆氏)とお話する機会があり、「それなら、ロボットを一緒に作りませんか」となったのが(ロボホン開発の)きっかけです。

―― スマートフォンのノウハウも生かせたと思いますが、逆に違う部分も多そうですね。

景井氏 はい。1つはハードウェア的なことですが、私たちはこんなに可動部が多いものを、今まで作ったことがありませんでした。安定して“この子”が動くまでに、ものすごい時間を要しています。

 サーボモーターに関しても、新規に開発しました。ホビー用のサーボモーターは数十時間すると動かくなってしまったり、耐久性にも問題があります。今回はその数十倍というレベルを実現しました。また、力を入れたとき、脱力するようなクラッチ機構も入れています。できるだけ壊れないように、配慮したサーボモーターということですね。

 モーターを開発した後も、全体的なバランスの問題で立てなかったり、立てても歩こうとすると転んでしまったりといったことが多く、ここには苦労しました。

ロボホンロボホンロボホン
ロボホンロボホンロボホン 座っているロボホンが立ち上がるまでの流れ。一度前屈みになってから立ち上がる

―― 確かに、このサイズでも立たせようとしたり、歩かせようとしたりすると、なかなか大変ですからね。プラモデルを作ったことがある人なら、なんとなくその大変さはイメージできると思いますが……。続けて、そこに通信機能を入れることになった理由をお聞かせください。

景井氏 苦労したところの2点目に、音声でのやりとりがありました。スマートフォンは、いつでもどこでも、サービスやコンテンツを受けられるのがメリットです。そういうところは、ロボホンも受け継いでいます。

 お話をするとき、その場所に応じた話があったり、いつも家にいるだけではできない話もあります。ロボホンには、いろいろなところに行ってもらって、サービスやコミュニケーションを頼んでもらうというコンセプトもあります。

音声データのプライバシー管理も徹底

―― ロボットに通信機能というと、クラウドとのやりとりを考えますが、電話にも対応したのは驚きできた。

景井氏 あの姿は、なかなかセンセーショナルでしたね(笑)。もちろん、ハンズフリーでも使えるのですが、(通常の電話は)ロボホンが内緒話をしているようなスタイルです。私としては、電話としても使ってもらいたいと思っています。

 ちなみに、口の部分は電話でいうイヤーピースになっていて、ロボホン自体の声は、胸の横のスピーカーから出ています。

―― 音声認識はクラウド側でやっているという理解でよろしいでしょうか。

景井氏 音声認識の大半はクラウドです。ただ、ローカルにも一部の機能は持っていて、カメラを撮ったり、アラームを設定したりということはオフラインでもできます。

―― なるほど。通信ができないとまったく動けないというわけではないということですね。クラウドで保存したときのプライバシーはどう守っていくのかを教えてください。

景井氏 私どものサーバで管理していて、情報は匿名で上げるようにしています。ここのプライバシー管理はきっちりやらなければなりません。コミュニケーションロボットは、そういうところを不安に思う方もいます。なんでもかんでもログを取るのではなく、そういうことは、きちんとお客さまにお伝えしながらやっていこうと考えています。また、利用規約にもその旨を入れていますし、バックアップをオフにして、ログがサーバに上がらないようにすることもできます。

―― 音声の結果をほかのロボホンと共有して、自動的に賢くなるというようなことはないのでしょうか。

景井氏 将来的にはやりたいのですが、今は検討中です。もしかしたら個人情報かどうかは、ある程度人力で判断していく必要があるのかもしれません。

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