「スピードテストブースト」は可能なのか?MVNOの深イイ話(2/3 ページ)

» 2017年05月03日 06時00分 公開
[堂前清隆ITmedia]

通信の優先度と破棄するパケットの選択

 ここまでの説明では、回線の容量以上のパケットが流れ込んできた場合(混雑している場合)に破棄するパケットを、赤、緑、青の通信から均等に選んでいました。もし、均等に選ばなかった場合はどうなるのでしょうか?

スピードテストブースト

 この例は、先ほどと同じように機器の右側から赤、緑、青それぞれ毎秒100個のパケットが流れてきて、これを機器左側の容量120の回線に流しているときの図です。先ほどと違うのは、赤の通信のパケットを優先し、できるだけパケットを破棄しないようにしていることです。

 その結果、赤の通信に着目すれば、右側からの流入毎秒100に対し左側へは毎秒80パケット流れ、均等に破棄したときに比べて通信速度の低下が抑えられています。しかしその一方で、緑、青の通信は20のパケットしか流れておらず、均等に破棄した場合よりも通信速度が落ち込んでいます。

 特定の通信を優先することで、その通信の速度低下は確かに抑えられますが、その分他の通信の速度低下が激しくなります。回線の容量が変わらない以上、これは仕方がないことです。

 「スピードテストブースト」という細工がもしあるとすれば、このような状態になっていると推測されます。つまり、スピードテストの通信だけが優先され、ある程度の速度が出る一方で、それ以外の通信がその分遅くなっているという状況です。

通信を特定することでブーストが可能?

 ここまでの説明で、特定の通信だけを優先し、通信速度の低下を緩和することができることが分かりました。しかし、実際に「スピードテストブースト」を行うためには、回線に流れている通信の中でどれが「スピードテスト」に該当するかを特定する必要があります。そのための方法はいくつか考えられます。

 1つ目は、通信先による識別です。スピードテストアプリでは、アプリとインターネット上にあるサーバとの間で実際にデータを流します。測定用のサーバはアプリの開発元が用意していることが多く、アプリの通信を解析することで推定可能です。そのため、そのサーバとの間で行われている通信であれば、スピードテストのための通信だと推定することができます。

 2つ目は、通信の中身を見る方法です。スピードテストアプリと測定用サーバの間の通信は、何らかの特定の形式であったり手順を踏んでいたりすることが一般的です。そこで、各種スピードテストアプリの通信をあらかじめ確認しておき、実際の通信と照らし合わせることで、その通信がスピードテストのものかどうかを推定することができます。

 スピードテストのアプリによっては測定サーバが多数用意されており、通信先だけではそれがスピードテストなのかどうか判断しにくいことがあります。そのような場合でも、通信の中身を見ることでスピードテストの通信であるかどうかを推定できる場合があります。

 また、通信の中身を見ることで、スピードテストに限らず、動画の再生やゲームなど、その通信がどのような目的のものかを識別することができます。

 3つ目は、通信の特徴を捉える方法です。アプリによっては通信を暗号化しているため、通信を中継する機器がその中身を見ることができない場合があります。そのような場合には、通信の特徴を捉えることで、何のための通信かを推定する方法があります。

 スマホが行う通信は、その目的によって特徴的なパターンが現れることがあります。次に挙げたグラフは、Webの閲覧、動画の閲覧、スピードテストアプリの通信のパケットの流れ方のイメージです。

スピードテストブースト

 Webの閲覧では、画面をタップした後に不規則にパケットが流れます。これは、Webを構成するHTMLやCSS、画像などを画面表示に従って随時ダウンロードするためです。

 YouTubeなどの動画の閲覧は、一定間隔で規則的にパケットが流れます。スマートフォンで使われる動画の配信方式(HLSなど)では、数秒単位に分割された動画のデータを、再生の進行に合わせて順次ダウンロードするため、このような特徴が現れます。

 一方、スピードテストアプリは回線の通信能力の限界を図ることが目的ですので、測定が始まると大量のパケットが継続的に流れ続けます。

 このように、通信の中身を見ずとも、パケットの流れ方の特徴から何のための通信かをある程度推定できる場合もあるのです。

 これらの手法を組み合わせることで、回線を流れている通信の中からスピードテストと思われるものが推定できれば、あとはその通信を優先的に流すように制御をすれば良いことになります。

 ところで、ここで取り上げた通信の推定方法はDPI(Deep Packet Inspection)といいます。DPIは特定アプリの通信料を無料にするカウントフリーでも使われることがあります。

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