スマートフォンのAI強化とPC化も面白いが、筆者がSnapdragonで個人的に注目しているのがセキュリティ機能だ。Snapdragon SoCに内蔵型セキュアエレメント(eSE)を構築する「Secure Processing Unite(SPU)」の仕組みはSnapdragon 855で採用されたが、今回の865ではこれがさらに拡張され、デュアルSIMとデュアルスタンバイに対応している。eSEはストレージにセキュア領域を作り出して、この上で独立したプロセスの稼働を可能にする技術だが、eSIMの実装の他、各種“セキュア”なアプリケーションの実行が可能になる。
このeSEで最も重要なのが「ペイメント」や「デジタルID」の仕組みで、決済情報やID情報を保持した状態でセキュアなアプリケーションをスマートフォンのプロセッサ内に同居できる。現在、世界各国でスマートフォンなどのデジタルデバイスにIDを搭載し、これを公的なIDとして活用できる実証実験や法整備が進んでいる。顔認証などを含む、デジタルID推進で最も熱心な国の1つが米国といわれているが、実際に運転免許証などは一部州においてスマートフォン上に搭載されたものも法的に“有効”とされており、今後さらにさらに広がることが期待される。今後Snapdragonを通じてSPUが満遍なく多くのデバイスへと浸透すれば、こうしたデジタルID利用の土壌ができあがる。
スマートフォン内にデジタルIDを格納するメリットとしては、複数のIDをわざわざ財布やポケットに入れずに済むこと、そして紛失や盗難に遭っても再発行が容易という点が挙げられる。失ったデバイスはリモートワイプで消去する、あるいは失ったデバイスのIDを無効化すれば済むだけなので、従来あったような再発行で手間取ることはない。コスト的効果も大きいと思われ、筆者として一番期待している部分でもある。
(取材協力:クアルコムジャパン)
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