新春対談/北俊一氏×クロサカタツヤ氏(後編):解約金1000円の謎、楽天モバイルやMVNOの行方は?(1/3 ページ)

» 2020年01月21日 11時11分 公開
[房野麻子ITmedia]

 2019年10月に施行された改正電気通信事業法によって、モバイル業界のルールが大きく変わった。改正法の中身を決めたり整理したりする場でもあった「モバイル市場の競争環境に関する研究会」に有識者として参加している、野村総合研究所 パートナー(テレコム・メディア担当)の北俊一氏と、企 代表取締役のクロサカタツヤ氏の対談後編では、解約金1000円やMVNOについて語っていただいた。聞き手はITmedia Mobile編集長の田中聡。

「契約解除料1000円」は、なぜ突然降ってきたのか

―― 改正法が決まる直前の議論で、おやっ? と思ったのが、やはり契約解除料の話です。アンケート結果に基づき1000円になったということで、お2人もその根拠に対しては疑問を呈されていました。あくまで政策として行うという確認もされていたと思います。アンケートは建前で、これ自体は根拠になり得ない、かなり弱いものだと思いますが、改めて振り返っていただけますか。

クロサカタツヤ クロサカタツヤ氏

クロサカ氏 先に申し上げた通りですが、アンケートを根拠にするのはやめましょうということです。一方で、あそこで私も突っ込んだ問題提起をして、その結果を総務省にちゃんと受け止めていただけたと思いました。確かに政策決定をする際のエビデンスがなかった。消費者が何に対してどういう反応をするのか、いくらという値段について、どういう評価をしているのかを、定点観測的に調べ続けないと正確な判断ができない。

 エビデンスベースの政策形成といわれている中で、必要なものであるということは理解しました。ですので、限られたリソースの中でだとは思いますが、継続的に市場動向を調べていくことが実践され始めたわけで、そういう契機になったのはよかったという思いはあります。というわけですが、みなさんのご関心の中心は、1000円ってどこからやってきたの? ということなんですよね(笑)。 

解約料 アンケート結果も参考にしつつ、解約金は1000円に下げることが決定した(総務省の資料より引用)

クロサカ氏 どこからやってきたんでしょうね。

―― ユーザーとしては、安くなるのはシンプルにいいんですが、その分、他に何かしわ寄せが行かないのかと懸念していました。結果的に値段は上がらないのでよかったのですが、1500円の差を維持されたまま2年契約プランの料金が上がってしまうという恐れもあったと思います。今、振り返るといい方向に進んでいるという感じでしょうか。

クロサカ氏 通信から少し離れるので参考程度ですが、そもそもこういう形の違約金、解約することに対してお金が発生するということは、一般の消費者契約ではあまり認められていないんですよ。

 いやいや、例えば雑誌や新聞で長期契約をして、途中で止める際に払ったお金が返ってきませんというケースはあると思いますが、あれは立て付けが違います。例えば、雑誌を36カ月買うという前提で、それ自体が1つの商品構成になっているので、それに値段を設定しているという形です。途中で止めようとお金は返せませんという構造になっています。そういった長期サブスクリプションのような構造のサービスが、他の分野でもたくさんあって、それを見ていくと、そんなに簡単にここ(解約)でお金を取れるものではないということは、本質的にあるんです。

 急に1000円が降ってきたことについては、今回の構成員も含めて戸惑いがあったと思います。今後、解約料は基本的になくなる方向でもいいんじゃないかな、というのは、消費者契約の考え方でいうとあり得ると思います。

北氏 2年縛りについては過去数年議論してきて、少しずつ進んではきましたが、かえって複雑で中途半端なプランが増え、ますます混迷していました。今回の完全分離は、回線は回線、端末は端末で選択できるようにしましょうということですが、キャリアを選び直すときにスイッチングコストになるものが数々あります。その代表格が2年縛りの契約解除料9500円であり、それを極力低くしていくことによって、ユーザーが今のキャリアを変えようと思ったときに解除料がかかるから諦めるといった世界をなくしましょうということです。

 ただ、ユーザーの流動性を今以上に高めようとは考えていないのです。これまで、端末が安くなるから、キャッシュバックがもらえるからキャリアを乗り換えるという人がカウントされて高かったMNPの数字、あれは水増しされた数字でした。本来の“真水“分はもっと少ないのです。完全分離によってキャッシュバックができなくなることで、回遊者分のMNPはなくなります。残りは真水のMNP。これをいかに増やすかということになります。

 今回、最初は解除料が3000円くらいで議論が進んでいたんですが、最後の最後に1000円でどうだという話になりまして、一瞬戸惑いました。私はこの際、解除料をなくしてしまう方がいいのではないかと総務省に提案したのですが、先に作った改正電気通信事業法には禁止と書かれていないから、その下の省令やガイドラインで禁止とは書けないのです。そうであれば、もう解除料を取るのはやめましょうという政策的なメッセージとしての1000円という意味合いなら、私の考え方と合致しているからいいと考えました。ただ、3000円というのは、それなりの根拠のある数字ではあったんですけどね。

クロサカ氏 そうですね。一応、ロジックは作れたものだった。

北氏 本当は3000円よりもっと低くしたかったんです。でも、ロジックが作れなかったから3000円で仕方がないと思っていました。アンケートは全く関係ないです。アンケートで金額が決まったら、これからの政策は全部アンケートで決めることになりますから(笑)。

クロサカ氏 あれ(アンケート)は一言、「そもそもやらない方がよかったですね」と。

北氏 安い方がいいに決まっていますからね。ですので、結果的に止めてねというメッセージの1000円。でも、今考えたら100円にすればよかった。

クロサカ氏 うん、ゼロじゃなければいいわけですから。

北氏 そして1000円を取るキャリアが残ってしまった。ちょっともったいないというか、スキッとしません。

―― 3000円のロジックとはどういうものだったのですか? 資料は公表されていませんか?

クロサカ氏 それは公表されていませんね。3社のARPUの平均を前提に、幾つかの時間軸や要素を考慮しながら、導き出したものでした。

北氏 それが3000円から4000円になるかなってところでしたね。われわれも数字を決めるなら根拠が必要ですからね。結果的によかったとは思いますが。

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