デュアルSIM対応iPhoneとPixel 6が、デュアルSIMを運用すると緊急通報ができない場合があるとして、総務省の定める「電気通信機器の基準認証制度における技術基準への不適合等」の対象端末に追加された。
デュアルSIM対応iPhoneとPixel 6/6 Proにて、nanoSIMとeSIMとの組み合わせで、データ通信専用SIMでモバイルデータ通信を利用する設定にしていると、緊急機関(110/118/119)への発信ができないことが確認された。例えばメイン回線でnanoSIMを使い、サブ回線としてデータ専用のeSIMを使っており、モバイルデータ通信をeSIMに設定している場合に起きる。ただし、モバイルデータ通信を音声SIMに切り替えることで、この不具合は回避できる。
なお、Pixel 6 Proは総務省の不適合等リストには加わっていないが、GoogleはPixel 6とPixel 6 Proで緊急通報できない場合がある旨をコミュニティで案内している。
【訂正:2021年12月1日10時30分 Pixel 6 Proが技術基準への不適合等リストに加わっていなため、該当箇所を訂正いたしました。ただしGoogleはPixel 6 Proも不具合の対象と説明していることを追記いたしました。】
では、この「技術基準への不適合等リスト」に加わったことは、何を意味するのか。ユーザーは対象端末を使い続けても問題ないのか。総務省に確認した。
そもそも、「技術基準への不適合」とは何か。この技術基準とは、いわゆる「技適」のこと。技適とは、日本で電気通信機器を使用するために必要な認証のことで、電気通信事業法に基づく「技術基準適合認定」と、電波法に基づく「技術基準適合証明」の2つを略したもの。これらを取得した端末には「技適マーク」が表示される。
技術基準適合認定は、電気通信事業者(固定や携帯の通信事業者)の設備に接続できることが認証された端末であることを示す。携帯電話の他、アナログ電話機やファクスなども対象となる。技術基準適合証明は、電波を発する通信機器が電波法の技術基準を満たしていることを示す。こちらは携帯電話の他、タクシー無線や船舶無線、アマチュア無線などが対象となる。どちらも電気通信事業者の通信設備や通信サービスに混信や通信不能などの影響を与えないことを証明するものだが、技術基準適合証明の方が厳しく、未認証の無線機器を日本国内で使うことは法令で禁止されている。
今回のiPhoneとPixel 6の件は、前者の技術基準適合認定に関するもの。総務省は、技術基準に適合していないのに技適マークが付けられている場合、認証の取得手続きに問題がある場合、認証を取得した設計とは異なる端末を販売している場合などが「不適合等にあたる事例」だとしている。過去には、ASUSの「ZenFone Max Pro(M2)」にて、特定の周波数帯に対応しない不具合が確認されて販売停止になった。その際に不適合等のリストに加わっている。
では、今回のiPhoneとPixelの事例はどうなのか。緊急通報ができないという、ある種致命的な不具合があるにもかかわらず、販売停止には至っていない。ここでポイントとなるのが、総務省は「不適合」と言い切っているのではなく、「不適合等」と言葉を濁していること。iPhoneとPixelは(技適の基準から外れるなど)法令上、不適合というわけではなく、ユーザーにより広く周知するためにリスト入りをしたという。不適合等のリストには、メーカーやキャリアに同意を得た上で載せるようにしており、総務省の独断で決めているわけではないようだ。
デュアルSIM対応iPhoneとPixel 6が技術基準への不適合等リストに加わったが、ユーザーが使用することや、メーカーやキャリアが販売すること自体は「問題ない」(総務省)。緊急通報できないのはデータSIMをモバイルデータ通信に設定している場合で、モバイルデータ通信を音声SIMに切り替えることで不具合を回避できるからだ。
ユーザーとして気を付けておきたいのは、nanoSIMとeSIMを併用している状態で緊急通報する際は、必ず音声SIMをモバイルデータ通信に切り替えること。とはいえ、一刻を争う緊急時にデータ通信の設定を切り替えるのはハードルが高いので、不安な人はデータ専用SIMを使わない方が望ましい。ユーザーの利便性を損なうこの不具合は、1日でも早く解消してほしいところだ。
【更新:2021年11月29日15時35分 「音声SIMとデータSIMを併用している状態」→「nanoSIMとeSIMを併用している状態」と変更しました。】
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