通信料収入の落ち込みをカバーしているのが、上位レイヤーのサービスや法人事業だ。NTTコミュニケーションズを子会社化したドコモはもちろん、KDDIやソフトバンクも法人事業は順調に拡大しており、売上を補った。ドコモは「統合初年でも500億を超える法人事業としての増収を目指す」(井伊氏)と大幅な拡大を目指す。KDDIも法人事業の「NEXTコア事業が業績をけん引した」(高橋氏)という。
コンシューマーに関しては、通信料収入そのものではなく、その上で展開されるサービスでの収益が拡大している。例えば、ドコモは「スマートライフ領域がけん引し、業績予想より80億円ほど上回って着地した」(井伊氏)。KDDIも、付加価値ARPU(1ユーザーあたりの平均収入)」が拡大し、「通信ARPUの減少をカバーしている」(高橋氏)。ソフトバンクは、Yahoo!やLINEが順調に拡大。2社とはやや色合いが異なるが、上位レイヤーの成長は共通項だ。
料金値下げで通信料収入が低下している中、各社が“純増”にこだわるのは、ユーザー数の規模がこうしたサービスの基盤になるからだ。ソフトバンクの宮川氏は、このシナジー効果の一例を次のように解説した。「Yahoo!ショッピングでは、ソフトバンクユーザーの比率が47%と高い。わが社は20数%しか(モバイルの)マーケットシェアがないので、モバイルユーザーが事業の成長に役立っている」(同)。
マルチキャリアで展開している決済サービスのPayPayも、ソフトバンクユーザーの比率は43%に達しているという。宮川氏によると、「ユニバーサルなサービスだが、いったんソフトバンクからの送客で一気に成長させ、他キャリアのユーザーにも根付かせていく」というのがその戦略だ。こうしたサービスの利用が高いのは、「モバイル契約数の増加にも貢献する」(同)。複数のサービスを利用していると、「スマホの解約率が極端に下がる」(同)からだ。通信事業と上位レイヤーでは、相乗効果が高いというわけだ。
結果として、ARPUは低下傾向ながら、各社とも契約者の獲得には注力している。ソフトバンクは、「コンシューマーのハンドセットユーザーがたくさん増えると、Yahoo!やPayPayなど、その他のサービスに与える影響が大きい」ため、「後半戦はアクセルを踏んだ」(同)。KDDIも「当初はモメンタムが落ち、これは大変だと思ってやってきたが、UQ mobileを中心に6月ごろから持ち上がり始め、夏に純増に転換した」(高橋氏)という。
これに対し、ドコモの井伊氏は、「20代、30代の一番狙っている中大容量の層を値上げで獲得できた。全体の基盤の数が増えていくことは大事で、失った収益は(後々)大きくしていく」(井伊氏)としながらも、シナジー効果を出していくためのサービスが不足しているとの見方を示した。「大容量を自由にどこでも使いたいということに見合うサービスやコンテンツを用意しないと、やっている意味がない。課題はまだまだあるが、ソリューションが追い付いていない」(同)といい、今後の強化を示唆した。
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