―― 290円のユーザーが増えても、あまりもうからないように思えてしまうのですが、採算はきちんと取れているのでしょうか。
福田氏 売り方の部分で損をして後から何とかするというような考え方はしていません。創業以来そういう形です。合理的にやっていかないと、どこかで損をした分、大きくもうけなければならなくなります。そうではなく、コストに基づいてプライシングをしていく。本来、通信などの公共性があるサービスはそうでないといけないはずなのですが、そうなっていないのは問題です。その考えは、もっと徹底してやった方がいいと思っています。
例えば鉄道や水道、ガス、電気などの公共的なサービスは、みんなコストに基づいています。だから、今どんどん上がってしまっているということはありますが、それをみんなで負担するというのが公共財としてのインフラです。私どもは、それを一番忠実に守っている。そういったところの考え方や、合理性を徹底的に追求するところは前面に打ち出しています。
その辺を、「いいよね」と思う方が増えているような感じはします。他が普通でうちがおかしいと思われていた時期は長かったですが、いろいろなものが世に出て分かることもあります。
―― MVNEとして日本通信が回線を提供しているHISモバイルも、290円の料金プランを出しています。すみ分けはどうお考えでしょうか。
福田氏 特に考えていません。すみ分けるほど広くはカバーしていないということですね。どちらも全国的に大々的なテレビCMをかけてというわけではないので、リーチできるのは自分たちの顧客になります。HISは確実な法人ルートを持っているので、地道にきちんと浸透しています。そういうルートがあるということは、彼らも徹底的に理解しています。
MVNOがたくさんあるのは、そういうことだと思っています。それぞれが、それぞれの顧客基盤を持っている。HISは旅行のお客さんにもプッシュしていますが、これは日本通信からするとまったく理解ができないルートです。逆にうちは広告も何もしていないので、結果として口コミで人が入ってくる。もちろん、かぶりはゼロではありませんが、バッティングすることはありません。
―― 290円だと、電話用に持つということもありそうですが、そういった傾向はありますか。
福田氏 増えています。ある程度のデータ通信と音声定額をパッケージにしたものは出していますが、シンプル290プランに音声定額を入れる方は結構いらっしゃいます。使い方が2回線目なので、ほとんど電話ばかりという方もいますね。データ通信はバックアップ用という考え方です。2台目や2回線目となると、メイン回線より使い方の幅が広くなります。
―― その意味で、フィーチャーフォンからの乗り換えにも適しているような印象はありますが、契約している方の年齢層はいかがですか。
福田氏 年齢の幅は本当に広がりました。都道府県の分布も広くなり、さらにMNPの比率が上がっています。かつてのb-mobileと比べると、そこは明確に出ています。そういった意味では、受け入れられている気がします。
主要サービスを日本通信SIMにリブランディングを図ったあと、どちらかといえば中容量や音声通話定額で攻めていた印象のある日本通信だが、2月に投入したシンプル290プランは、タイミングのよさもあり、契約を伸ばしているようだ。福田氏が語っていたように、楽天モバイルの0円プラン廃止後は、特にその傾向が顕著になった。eSIM対応も絶妙な時期にスタートしており、他社が諦めた2回線目需要を、しっかりカバーできた格好だ。
一方で、現時点では国際ローミングのデータ通信が実現できていないのは、MVNO共通の課題だ。1つのSIMカードでローカル5Gとキャリアのパブリック5Gの両方に接続できるようなサービスも、今の接続形態だと提供が難しい。音声接続の申請は、こうした課題を解決するためのもの。そのようなサービスを提供するのが、音声接続を申請した狙いだ。交渉がどう決着するかは未知数だが、成り行きに注目したい。
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