理由の1つには、KDDIローミングがありそうだ。新ローミング協定で、都市部などにパートナー回線エリアを拡大することができ、建物内などのカバーがしやすくなる。こうした場所でのローミングはこれからスタートする。提供時期は2026年9月までとされており、それまでの期間は、KDDIのネットワークに頼ることが可能だ。同じような場所に、二重でコストをかけてまで基地局を建てる必要はないというわけだ。投資が後半に集中するとしていた、楽天モバイルの主張とも整合性が取れる。
楽天モバイルが獲得した700MHz帯は、制約も多い。もともとこの周波数帯は、ITS(高度道路交通システム)や特定ラジオマイクが利用しており、そのガードバンドを一部削る形で捻出されたものだ。他の無線と周波数が隣接しているため、出力が高いと干渉も起こる。そのため、楽天モバイルに割り当てる際の条件として、基地局と端末の距離を適切に設計し、上りの周波数を抑える対応が求められている。高い鉄塔を建て、広い範囲を一気にカバーするにはあまり向いていないといえる。
また、先に述べたように、この700MHz帯は、3MHz幅と帯域幅が狭い。ガードバンドからひねり出したためだ。帯域幅が狭いと、そのぶん収容できる端末数が減り、理論値の速度も低下する。4Gがスタートしたころより技術が進んでいるため、下りで30Mbpsまでは出せるものの、これは2レイヤーのMIMOをアンテナに使い、変調方式を256QAMにした場合の話。特に後者は、通信環境が悪いと実現しづらい。現時点では他の周波数とのキャリアアグリゲーションにも対応していないため、やみくもに増やすと“パケ詰まり”の原因にもなる。
ただ、あまりに展開が遅いと、3MHz幅の700MHz帯ではユーザーが収容しきれなくなる恐れもある。楽天モバイルは、2024年末までに800万から1000万契約を目指すとしているが、ドコモが当初、この周波数帯でカバーできる契約者数を試算した際の収容数は1100万。早ければ2025年に、このキャパシティーを超えてしまう恐れがある。結果として通信品質が下がってしまうのは本末転倒だ。現時点では品質への評価は高いだけに、その売りを手放してしまうことにつながりかねない。
出力を抑えながら密な展開をしなければならない一方で、時間がかかりすぎるとユーザーの拡大に追い付かない可能性もあるというわけだ。貴重なプラチナバンドではあるが、そのかじ取りはかなり難しそうに見える。さらに楽天モバイルの場合、投資を抑制しながらという条件もつく。開設計画はあくまで最低限の予定だというが、基地局設置のペースを上げていくには、クリアしなければならない課題も多そうだ。
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