KDDIが7月24日、JR東日本(東日本旅客鉄道)やローソンなどのパートナーと共に、TAKANAWA GATEWAY CITYで「あなたに気付く街 みんなで築く街」をテーマにした実証実験を開始した。高輪を「未来への実験場」と位置付け、そこで得られた知見を他の都市や地方へ横展開することを目指す。
KDDIは、22年ぶりの本社を移転した。その移転先である高輪は、1872年に日本で初めて鉄道が海上を開通した場所であり、イノベーション発祥の地として知られる。KDDI 代表取締役社長 CEOの松田浩路氏は「通信も今やつながるのが当たり前まで発展してきた。この、つなぐ力をさらに進化させ、新しい価値を生み出す実験を行う」と意気込みを語った。
街に訪れる人に対しては、個人の好みや状況に合わせた「ハイパー・パーソナル体験」を提供する。その核となるのが、「デジタルツインプラットフォーム」や「WAKONX SmartCity」のアセットを活用したデータ収集・分析基盤だ。
デジタルツインプラットフォームは、現実世界の都市(今回はTAKANAWA GATEWAY CITY)からさまざまなデータを収集・分析し、サイバー空間にその都市の「双子(ツイン)」を再現する基盤のこと。WAKONX SmartCityはWAKONX(ワコンクロス)の取り組みの1つで、データの収集・分析やAI活用により、街の持続的な発展を推進するもの。
ハイパー・パーソナル体験は、高輪を訪れた人の利便性や満足度の向上を図るもの。「あなたに気付く街」という新しい体験の提供を目指す。
高輪ゲートウェイ駅の改札を通過すると、そのときに開催されているイベントや店舗の混雑情報など、個人に合った情報をスマートフォンに配信する。今後はSuica以外の非接触インタフェースも対象にしていく。
オフィスワーカーは、あらかじめ社員証をスマホアプリに登録しておくことで、オフィスのフラッパーゲートを通過する際に、その人に合った情報をスマホに配信する。例えば出社時にはおすすめの社食メニューを通知、退社時にはコンビニのおすすめ商品を通知するといった具合だ。
AIで分析した属性情報や個人の好みに合わせて商品を配送する回遊ロボットも導入する。防犯カメラのデータを用いて来訪者の属性や状況をAI分析し、その結果に基づいてロボットが来訪者の好みに合わせたサンプル配布や商品販売を行う。
例えば、子ども連れの家族が通ると、ロボットが子どもむけのジュースを運んだり、ベビーカーのレンタルを勧めたりすることを想定している。来訪者のスマートフォンのバッテリーが残り少ないと、充電を促したり、近隣の充電スポットやそのクーポンを案内したりといったことも実現できるという。
電車運行情報案内ロボットでは、電車の運行状況に応じて回遊ロボットが役割を変更し、音声ガイダンスで運行情報を伝えることで、利用者は予定の変更が可能になる。
おもいで3Dは、街に訪れた人が自身を3Dモデル化し、まちアプリ上で高輪限定コンテンツと連携できるサービス。思い出をデジタルコンテンツとして残す。
なお、個人の好みに合わせた体験を提供する際、収集したデータをどのように管理するのかは気になるところだ。KDDI ビジネス事業本部 ビジネスデザイン本部 ビジネスイノベーション推進2部長の保科康弘氏によると、例えばカメラを使って情報収集する際、個人を特定する情報は取り除き、解析情報だけを蓄積しているという。データ自体はローカルなインターネットに出ることのない安全なサーバで取り扱っているとのこと。
回遊ロボットが運ぶ商品については、最初はマーケティング用とで協賛企業のサンプル品を配布し、その後に販売につなげていく予定。店舗はまずはローソンから始め、その後、他の店舗に展開していく。オフィスでは、従業員と一緒にエレベーターに乗って、商品を届けるシーンも想定する。
上記施策のターゲットはauユーザーに限定せず、高輪を訪れた全てのスマホユーザーが対象となる。
一方、街で働く人には、潜在能力を最大限に引き出し、共に街を築き上げていく「ハイパー・パフォーマンス体験」を提供する。
その一環として、KDDI本社内に、オフィス特化型「Real×Tech LAWSON」を開設した。本社専用の「オフィスローソン」アプリを活用したスマホレジによる無人決済や、配送ロボットによる店舗以外の場所での商品購入が可能となる。これにより、店舗やエレベーターの混雑、移動時間や待ち時間のストレスを軽減し、オフィスワーカーの生産性向上につなげる。
6月下旬のReal×Tech LAWSONがオープンしてから約1カ月がたったが、「非常に購入がスムーズで、感動したという声をいただいている」「滞在時間は平均約2分で、レジの待ち時間は0分」と松田氏は成果を話す。
執務室内の配送ロボットは、セキュリティゲートやエレベーターと連携し、社内便、社食、ローソンの商品、来客用の水などを配送する。これにより、庶務業務をサポートし、創造的な業務に集中できる環境を整える。
社内外のパートナーとの共創を促す拠点として「TSUNAGU BASE」も開設した。ここでは、KDDIのビジョンや先端技術、アセットを組み合わせた課題解決に関する取り組みを展示し、ワークショップやイベントを通じて共創を促進する。キャンプ場がモチーフの「Knowledge Camp」をはじめ、部門や会社の垣根を超えたコラボレーションを促進するコワーキングエリアも設置している。
働く場所を業務内容に応じて選択できる「Activity Based Working(ABW)」も推進する。活発な議論を行う「Groove」エリアと、落ち着き・集中のための「Chill」エリアをフロアごとに交互に配置する。
健康経営の推進にも力を入れる。ウオーキングマシンやバランスボールの設置、食生活、睡眠、マインドフルネスに関するイベント開催などにより、社員の健康リテラシーを高める。栄養バランスに配慮した健康メニューを提供する食堂や、社内外の交流を促進するナイトパブも設ける。
KDDIは7月1日の本社移転を契機に、約1万3000人のKDDIグループ社員をモデルケースとして実験を進めていく。将来的には実験で得た知見をもとに他の都市や地方へと横展開していく方針だ。
他の地域への展開について、具体的なことは決まっておらず、今回の高輪の事例を「そのまま全国に展開していくことは考えていない」(松田氏)とのこと。今回の実験はパッケージとして展開しており、その中に含まれる施策をモジュール化して他の地域に組み込むことは可能。これは2025年度から横展開していくという。例えばオフィスローソンは、「都市型、オフィス型、地域型で組み込みしやすいので、ローソンと話をして展開していく」(松田氏)。
ユーザーの情報を収集するカメラについても、全く新しい設備を入れる必要はなく、既存のカメラにAI分析の機能を追加するといった採用もあり得る。今は、「子ども連れの親子」や「子ども」など、あらかじめ属性データをプリセットしたカメラを使っているが、今後は、より正確に状況を把握できるよう、条件で画像を検出するといったAIを取り入れたモデルも検討していく
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