老舗MVNOの1社として知られるIIJだが、近年では、SIerとしての売上比率が急速に高まっており、規模自体は拡大しているものの、相対的にモバイルサービスの割合は減少している。また、個人向けのIIJmioも、回線数の伸びは以前から鈍化している。一方で、第1四半期の決算では、再び個人向けサービスの回線数が大きく伸びていることが話題を集めた。
日本航空とタッグを組んだ「JALモバイル」や、3月に実施したギガプランの一部容量や料金を改定したことで、競争力を取り戻しつつあるように見える。個人向けMVNO事業と並行して好調なMVNEや法人事業もあるが、会社全体をけん引しているのはやはりSI構築や保守運用だ。IIJがモバイル事業をどのようにかじ取りしていくのか、その方向性が注目される。
このような状況の中、同社は4月に社長を交代。総務省の通信政策をリードしてきた“大物官僚”として知られる谷脇康彦氏が、副社長を経て代表取締役社長執行役員(Co-CEO&COO)に就任した。谷脇氏はIIJのモバイル事業をどのような方向性に導いていく方針を打ち出しているのか。
―― SI事業などが好調で伸びが大きいのですが、改めて、御社にとってMVNO事業にどのような意義があるのかを教えてください。
谷脇氏 もともとIIJはネットワークの会社で、ネットワーク事業が事業基盤です。ですから、ここは今後とも大事に伸ばしていくのが基本になります。そもそもなぜMVNOが存在しているのかにも関係していきますが、固定の世界は昔から自前の回線を持っていた「旧一種」の方がいて、そこにプラスしてその回線を使って事業をする「旧二種」の事業者が山のように存在していました。その切磋琢磨(せっさたくま)が、料金やサービスの多様性を生み出しています。
他方で、モバイルは自前回線が中心で、電波の割り当てを受けているのは、かつては3社、今でも楽天モバイルを入れて4社だけです。それだけだと寡占で終わってしまう。MVNOという事業形態が存在することで、サービスの幅が広がったり、場合によっては料金の低廉化が促されたりするといった“競争のメリット”をお届けできます。
もともと私は、固定や移動、有線や無線といった違いはなくなっていくと考えていましたが、実際にその違いはなくなってきており、モバイルの世界でも民主化やマーケット化が進むのは必然です。それが進まない状況においては、ルールの見直しも行われてきました。それがようやく、花開き始めていると思っています。
ようやくというのは、モバイル1回線ではなく、複数回線持つことも極めて普通のことになりましたし、eSIMのようなものも出てきたので加入の壁も低くなりました。さらに、IoTのようにモバイルサービスのニーズがいろいろなところに出てきています。今は、ようやくMVNOが伸びていく環境が整いつつあるという状況だと思っています。
―― 法人事業のベースになるのは分かりますが、個人向けはどのような役割だとお考えでしょうか。
谷脇氏 MVNOとしてIIJmioを伸ばしていくのは、大事な仕事だと考えています。JALモバイルのように、リブランディングなりOEMなりで付加価値をつけ、満足してもらうことはできますし、いろいろなアイデアはまだまだあります。また、MVNEとしての役割も大きいですね。
(総務省時代に)もともとMVNOを日本でもと考えたときには、他業界からいろいろな人が入ってきて新しいサービスを生み出すことを想定していました。例えばアメリカだと、高齢者向けのモバイルが存在していてボタンを押すとナースコールの代わりになったり、イギリスだとスーパーマーケットがMVNOをやったりしていましたが、日本にはありませんでした。
そういったものは、どんどん増えてくると思いますし、どんどん出てくると楽しいですよね。(JALモバイル以外で)引き合いをいただいている企業の中にも他業界の方々がいますが、そんなお手伝いをしていければと考えています。
―― 本格的に他業種に広がり始めているということでしょうか。
谷脇氏 今までもマーケットは伸びてきたという意見はあると思いますが、いろいろなニーズを見ていると、IoTも含めて本格的に動き始めているという感じがあります。それに伴ってMVNOが伸びていくには、これからです。
―― 格安スマホや格安SIMにとどまらないものも出てきそうですね。
谷脇氏 私自身は格安スマホという言葉がそれほど好きではなくて(笑)。昔はPHSが格安ケータイといわれていました。あれも本当は小セルのシステムでデータ通信に強いという特徴がありましたが、結局料金競争だけと捉えられてしまい、残念ながらマーケットから出ていくことになりました。料金はもちろん大事なのですが、サービスの多様性なども重要です。IIJにはフルMVNOとしてわれわれ自身の通信サービスを提供するノウハウがあるので、そこで深みを出していき、よりニーズに応えられるようにしていきたいですね。
―― PHSはAXGPとして、今でもLTEの中でコンセプトが生き続けているような気がします。ソフトバンクのネットワークが強いのも、その小セルを引き継いだからという見方がありますが、次の世代で生きてくるということはありますよね。
谷脇氏 MVNOがまだほとんどなかったころ、MIT(マサチューセッツ工科大学)がやっていた「Project Oxygen」というプロジェクトがありました。モバイルが酸素のようにどこでも使えるようになってくる世界ですが、ようやくそういった環境が手軽に、手に入るようになってきました。むしろネットがつながらないといろいろと不都合が起きる。ネット前提でデータをやりとりして、ビジネスが成立する世界がようやくやってきました。MVNOにとって、第二の飛躍期になると思います。
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