対するソフトバンクは、同じ大容量化でも「一番重要なのはアップリンク」(佃氏)と力説する。スマホのAIが一般化すると、クラウド上のAIに、テキストだけでなく、カメラで撮った写真や動画をアップロードすることが増えてくるからだ。佃氏は、「AIという脳にコンディションを与えるのは、今だとテキスト入力や音声だが、今後はカメラで人間の目に相当する入力をすることが出てくる(増えてくる)」と語る。
実際、スマホに搭載されるAIはマルチモーダルが当たり前になった。例えば、Androidに標準搭載されるGeminiでは、ストリーミングをしながらAIにその映像に写ったものを問いかけることができる。こうした使い方がより一般的になると、ダウンリンクを優先していたモバイルネットワークの在り方を変えていく必要も出てくる。
「広帯域の周波数とアップリンクの品質をもっともっと高めていく」(同)というのが、ソフトバンクの戦略だ。そのためには、まず5Gの周波数帯域を増やし、「キャリアアグリゲーションを実装することで、大容量化を実現する」(同)。アップリンクは、「ローバンドも足すことで徐々に5G側に持っていき、5Gでサービスしている周波数をサポートする」(同)方針だ。
各社が対応する、送信出力を上げるHPUE(High Power User Equipment)も、そのためのものという位置付けだ。HPUEは、もともと「ソフトバンクとChina Mobileで提唱したもの(仕様)だが、通信速度が30%〜40%も上がる」のが特徴。端末からの送信出力が弱いとアップリンクが確立せず、通信そのものができなくなってしまうことがあるが、こうした事態も防げるため、結果としてパケ詰まりの抑止にもなる。
広帯域化とアップリンクを強化した基地局は、「中央に頭脳に当たる部分(BBU)を集約して、現場にはアンテナとアンプに当たる部分だけを置き、クラスタ単位で基地局をハーモナイズさせる」(同)予定だ。このような構成は、2026年度に導入する。「どこかの基地局がパンパンになったら、他がオーバーレイして助けてあげることで、全体の使用率が上がってパンクやパケ詰まりしない」(同)のが集約化のメリットだ。
この基地局のクラスタ編成は、「AIによるリアルタイムな最適化」(同)を行う。「今まではルールベースでパラメーターをセットしていたが、AIでダイナミックにパラメーターを変更できるものを目指している」(同)という。
将来的に、ソフトバンクは「AI-RAN」の導入を目指す。GPUを組み込んだ基地局で無線の性能を向上させつつ、その処理能力をMEC(Multi-access Edge Computing)サーバに使ったり、サードパーティーのAIアプリを駆動させたりするための計算資源にするというものだ。慶應大学の湘南藤沢キャンパスでは、実際に基地局を設置し、実証実験を進めている。近いコンセプトにはドコモも取り組んでおり、引馬氏は「ネットワークのためのAIと、AIのためのネットワークがある」と語る。
前者の一例として、引馬氏はドコモがNTTやノキア、SKテレコムと共同で行ったAIによるネットワーク制御の研究を紹介。基地局と端末の双方で電波の伝搬環境を推定し、補正を行うことでパイロット信号を削減でき、通信速度が18%向上したという。5GはSA化が本格化したばかりだが、その面展開が始まったことで、各社とも次のステップに移りつつあることがうかがえる。ソフトバンクやドコモが示したように、ネットワークと融合したAIが6G時代の鍵の1つになることは間違いないだろう。
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