アップルは“空気を読まない”:元麻布春男のWatchTower(1/2 ページ)

» 2008年03月04日 11時20分 公開
[元麻布春男,ITmedia]

1.8インチHDDを“あえて”採用したアップル

MacBook Airを発表するスティーブ・ジョブズCEO

 前回の連載で触れたように、Macのハードウェア構成にはアップル(あるいはCEOであるスティーブ・ジョブズ氏)の哲学のようなものが反映されており、他者/他社との協調よりも優先される。今風の言葉で表すと、アップルは“空気を読まない”会社だ(ジョブズCEOがプレゼンおよびスピーチの達人であることを考えれば、「読めない」会社でないことは明らか)。

 例えば1月に発表されたMacBook Airだが、ストレージデバイスとして、SSDのほか1.8インチHDDが採用されている。しかし、国内PCベンダーの2008年春モデル(新しいボディを採用したモデル)で、1.8インチHDDを内蔵したものはない。NECのLaVie J、富士通のFMV-BIBLO LOOX Rしかりだ。従来と同じボディを使った東芝のdynabook SS RX1、パナソニックのLet'snote LIGHTシリーズなど、すべて重量が1.5キロを切るモバイル機であるにもかかわらず、2.5インチドライブを採用している(Let'snoteは以前から3.3ボルト駆動の2.5インチドライブを独自に搭載してきたが)。

 国内PCベンダが1.8インチドライブを回避したのは、性能面への配慮というより、1.8インチドライブの将来性に不安があるからだろう。NANDフラッシュメモリの低価格化に伴い、1.8インチ以下のHDDの未来には疑問が投げかけられている。有力なサプライヤの1つだった日立グローバルストレージテクノロジーズ(HGST)は撤退する意向を示し、参入の意向を示していた富士通は参入自体を見送ってしまった。加えて、インタフェースの更新(SATA化)、大容量化が急速に進む2.5インチドライブに対し、1.8インチドライブでは滞りがちな点も、気になるところだ。こうした動向を見た国内ベンダーは、重量やバッテリー駆動時間の点では不利になることを承知でHDDの2.5インチ化に踏み切ったのではないかと思う。

左からNECの新LaVie J、富士通のFMV-BIBLO LOOX R、パナソニックのLet'snote LIGHT CF-W7。いずれも2.5インチHDDを内蔵したモバイルPCだ

 だが、アップルはMacBook Airに敢然とパラレルATAの1.8インチドライブを採用してきた。確かに同社はiPod classicで1.8インチドライブを大量に採用する、最大手ユーザーに違いない。その意味では1.8インチドライブを最も良く知ったベンダーである。しかし、iPod用はCE-ATAインタフェースのドライブであり、ドライブそのものはPC用とは別物だ。このあたり、ドライブ業界やほかのPCベンダーの動向(空気)を読むより、自社のデザインコンセプト(世界で一番薄いPC)を優先するアップルの姿勢が現れているのではないかと思う。

封筒CMがおなじみのMacBook Air(写真=左)。世界一薄いPCを誇示する。MacBook Airでは64GバイトSSDと1.8インチHDDモデルが用意される(写真=右)

Mac Proに見るアップルの美学

 また、今年の1月に発表された45ナノメートルプロセスルールによるXeon搭載のMac Proは、性能強化の意もあってFSBを1600MHzに引き上げている。ところが、この時点においてFSB 1600MHzに対応したXeon搭載システムを発表していた大手ベンダーはアップルのみ。他社はすべて、従来のMac Proと同じ1333MHzにプロセッサのFSBを据え置いていた(現在はHPがFSB 1600MHzのXeon搭載サーバを発表済み)。

 45ナノメートルプロセスのXeonに対応したチップセット(Intel 5400)には、FSBに応じてメモリクロックを合わせなければならないという決まりがあり、FSBを1600MHzに引き上げるとFB-DIMM 800MHzを採用しなければならない(2枚でFSBと帯域がそろう)。つまり、旧Mac Pro用のメモリは、新しいMac Proには流用できない。しかも、十分普及していないメモリは、入手性が悪い上に価格も高くつく。

 一例を挙げると、DRAMメーカーであるMicron Technologyのメモリ直販子会社であるCrucialによるFB-DIMMの直販価格は、次の表のようになっている。

CrucialによるFB-DIMMの直販価格(大型ヒートシンク付のMac Pro用)
製品名 PC2-5300 PC2-6400
2Gバイトキット 139.99ドル 319.99ドル
4Gバイトキット 259.99ドル 479.99ドル
8Gバイトキット 819.99ドル 1049.99ドル
2Gバイトキットは1GバイトDIMMの2枚セットで、ほかも同様。

 インテルのプラットフォームだと、FSB 1333MHzのCPUであればPC2-5300のFB-DIMMを、FSB 1600MHzのCPUであればPC2-6400のFB-DIMMを使うことになる。上記の価格差は、ハイエンドの8Gバイトキット(4GバイトDIMMの2枚セット)でこそ小さいものの、2Gバイトキットと4Gバイトキットではかなり大きい。

 一般的なPCベンダーだと、こうしたメモリの価格差や入手性、ユーザーの手元にあるメモリ資産に配慮して、通常モデルのFSBは1333MHzに据え置きつつ、ハイエンド向けのオプションとしてFSB 1600MHzのモデルを用意することが多い。しかし、アップルはここでも自らの美学を貫き、FSBは1600MHzのみに絞っているのである。

2008年1月に登場した新型Mac Pro(写真=左)。45ナノメートルプロセスルール採用のクアッドコアXeon 5400番台(標準構成は2.8GHz)を2基搭載する(写真=中央)。800MHzで動作するFB-DIMMを採用しているのが目を引く(写真=右)

寄り添うのはどちら?

 ちまたには、薄型ノートPCということで、MacBook AirとThinkPad X300を比べる声もある。確かに、低電圧版のCPUを使い、1.3〜1.4キロの重量と13.3インチのワイド液晶ディスプレイ、SSDに対応、拡張スロットやメモリカードスロットを持たないことなど、両者には機能的に類似する部分も少なくない。だが、無線を除けば実質的にUSBを1ポートしか持たないMacBook Airに比べて、ドライブベイにバッテリーオプションを用意し、内部にminiCardスロットを2個半(フルサイズ×2とハーフサイズ1つ)持つX300には、ユーザーのニーズに寄り添おうという姿がある。MacBook Airの場合、寄り添っていくのはユーザーの方だ。

MacBook Air(写真=左)とThinkPad X300(写真=右)

 こうしたアップルの姿勢、自分の美学や正義を貫こうという姿は、共感も呼べば反感も買う。ほかに媚びない孤高の姿勢にしびれれば「信者」と呼ばれ、独りよがりで自己中心的だと感じれば「アンチ」となる。好き嫌いの分かれやすいゆえんだろう。

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