WR8700Nのアンテナは、送受信にそれぞれ2つずつのアンテナを使う2×2 MIMO構成である。これは、下位モデル WR8500Nの3×3 MIMO構成よりカタログスペック上では劣るととらえられる。ただ、本機がサポートする最大300MbpsのIEEE802.11nは、同時に送受信するストリーム数は送受信それぞれ2つ。ちなみに(2010年5月現在の)3×3 MIMO対応機器であっても、そのうちの1対は“より電波をとらえやすくするため”などといったの補助的な役割となるため、理論上の最大送受信速度は同じである。
なお、ほぼ同じ住居環境で計測した同社のテスト結果によると、近距離での通信速度はWR8500Nにわずかに若干劣るが、距離が離れ、障害物が増えた環境においては大幅に上回るという。
では通信速度の実パフォーマンスを検証しよう。無線設定は2.4GHz帯、5GHz帯ともにIEEE802.11nのデュアルチャネル接続とし、WL300NE-AG+ノートPCを有線LAN接続した“クライアントA”(WR8700N−WL300NE-AG間が無線接続、WL300NE-AG−ノートPC間がギガビット有線LAN接続)と、ノートPCに内蔵するIntel WiFi Link 5100AGNモジュールを利用する“クライアントB”(WR8700N−ノートPC間が無線接続)を用意。WR8700Nとクライアントの距離を、同室内で2メートル、壁1枚隔てた別の部屋(直線距離で8メートル)、同じく壁2枚を隔てたさらに別の部屋(同約15メートル)の3パターンで行った。合わせて、同条件化でクライアントB(Intel WiFi Link 5100AGN)におけるIEEE802.11a/g環境の測定値も併記するので、参考データとして見てほしい。
AtermWR8700Nの通信速度テスト | 1回目 | 2回目 | 3回目 | 4回目 | 平均 | 速度低下率 | 同テスト内最速値との パフォーマンス比 |
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同室内 (約2メートル) |
クライアントA | 2.4GHz帯IEEE802.11n | 93.0 Mbps | 94.3 Mbps | 95.2 Mbps | 96.1 Mbps | 94.6 Mbps | ─ | 93% |
5GHz帯IEEE802.11n | 102.2 Mbps | 102.9 Mbps | 100.8 Mbps | 100.1 Mbps | 101.5 Mbps | ─ | ─ | ||
クライアントB | 2.4GHz帯IEEE802.11n | 75.6 Mbps | 73.5 Mbps | 74.0 Mbps | 75.3 Mbps | 74.6 Mbps | ─ | 73% | |
5GHz帯IEEE802.11n | 75.3 Mbps | 73.9 Mbps | 74.3 Mbps | 73.1 Mbps | 74.1 Mbps | ─ | 73% | ||
クライアントB (参考テスト) | IEEE802.11g | 20.6 Mbps | 20.5 Mbps | 20.9 Mbps | 21.0 Mbps | 20.7 Mbps | ─ | 20% | |
IEEE802.11a | 22.0 Mbps | 22.2 Mbps | 22.0 Mbps | 22.1 Mbps | 22.1 Mbps | ─ | 22% | ||
隣室 (木造壁1枚、直線距離約8メートル) |
クライアントA | 2.4GHz帯IEEE802.11n | 69.0 Mbps | 68.9 Mbps | 67.6 Mbps | 65.6 Mbps | 67.8 Mbps | 72% | 90% |
5GHz帯IEEE802.11n | 75.9 Mbps | 74.8 Mbps | 77.0 Mbps | 75.1 Mbps | 75.7 Mbps | 75% | ─ | ||
クライアントB | 2.4GHz帯IEEE802.11n | 39.7 Mbps | 42.8 Mbps | 40.2 Mbps | 40.6 Mbps | 40.8 Mbps | 55% | 54% | |
5GHz帯IEEE802.11n | 53.2 Mbps | 54.0 Mbps | 52.4 Mbps | 51.5 Mbps | 52.8 Mbps | 71% | 70% | ||
クライアントB (参考テスト) | IEEE802.11g | 19.1 Mbps | 19.1 Mbps | 19.9 Mbps | 19.6 Mbps | 19.4 Mbps | 94% | 26% | |
IEEE802.11a | 20.6Mbps | 20.9 Mbps | 20.7 Mbps | 20.8 Mbps | 20.7 Mbps | 94% | 27% | ||
隣々室 (木造壁2枚、直線距離約15メートル) |
クライアントA | 2.4GHz帯IEEE802.11n | 20.9 Mbps | 22.4 Mbps | 22.4 Mbps | 20.1 Mbps | 21.5 Mbps | 23% | 94% |
5GHz帯IEEE802.11n | 23.7 Mbps | 23.3 Mbps | 22.3 Mbps | 22.3 Mbps | 22.9 Mbps | 23% | ─ | ||
クライアントB | 2.4GHz帯IEEE802.11n | 4.0 Mbps | 4.0 Mbps | 3.8 Mbps | 3.6 Mbps | 3.9 Mbps | 5% | 17% | |
5GHz帯IEEE802.11n | 17.3 Mbps | 17.7 Mbps | 17.3 Mbps | 17.1 Mbps | 17.3 Mbps | 23% | 76% | ||
クライアントB (参考テスト) | IEEE802.11g | 3.8 Mbps | 3.4 Mbps | 3.3 Mbps | 4.0 Mbps | 3.6 Mbps | 17% | 16% | |
IEEE802.11a | 9.5 Mbps | 9.8 Mbps | 10.0 Mbps | 9.5 Mbps | 9.7 Mbps | 44% | 42% | ||
※クライアントA:WR8700N−WL300NE-AG間が無線接続、WL300NE-AG−ノートPC間がギガビット有線LAN接続) ※クライアントB:WR8700N−Intel WiFi Link 5150 AGN搭載ノートPC間が無線接続 |
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同室内の近距離通信においては、クライアントAが5GHz帯で100Mbps以上、2.4GHz帯で94.6Mbps、クライアントBも5GHz帯/2.4GHz帯ともに74Mbps台となり、なかなか満足のいくパフォーマンスが得られた。クライアント別の速度差は、無線チップベンダーごとの差と考えられる。IEEE802.11nは正式制定されたとはいえ、無線チップベンダーごとに独自の高速化機能が実装されていたりする。このため、同じ無線LANチップ(Atheros製)同士のWR8700NとWL300NE-AGの接続の方が高いパフォーマンスを発揮するようだ。
ともあれ、IEEE802.11a/gより3〜5倍も高速で、100Mbps近く出るならば「データコピー時など、速さを求めるときだけ有線LAN接続する」ことも、もはやほぼ不要になる。
親機から離れた別の部屋での利用においても傾向はだいたい同じだ。今回の測定環境が木造家屋であることは鉄筋コンクリート建築よりいい方向に影響するのは確かだが、本来回折しにくく、障害物に弱いとされる高周波数な5GHz帯の方が良好な結果だった。今回行ったテストにおいては、クライアントAが75Mbps超、クライアントBも50Mbpsを超えた。IEEE802.11a/gとの差は、こちらは大きな落ち込みがまだ少ないためかやや縮まったが、それでも2倍以上は高速だ。
ちなみに、この環境でWL300NE-AGとバッファロー「LinkTheater LT-H90」(レビュー:DTCP-IP対応でAV機器の仲間入り、バッファロー「LT-H90」を試す)を用い、レコーダーでTS録画(約25Mbps)したBSデジタルのハイビジョン番組をDLNA経由で再生するテストにおいて、2.4G/5GHz帯ともまったく問題なく行えることも確認した。
さらに、もう1枚壁を隔てた部屋に移動しても、クライアントAは2.4G/5GHz帯ともに20Mbps以上をキープした。一方、クライアントBは2.4GHz帯が一気に4Mbpsほどまで落ち込んだが、これは別の無線LANアクセスポイントで設定してあったIEEE802.11n(2.4GHz)との干渉により、接続が自動でIEEE802.11gに切り替わってしまったことが原因と思われる。こちらは、マンションなどの集合住宅で利用する場合──に置き換えてもらってもよい。一方、干渉要因がほぼない5MHz帯においては、17Mbps超をキープした。こういったところに、やはり5GHz帯で運用するメリットを見いだせる。
5GHz帯は周波数が高いため、2.4GHz帯と比べると障害物に弱いとされる。ただ、IEEE802.11nのMIMOは反射波も活用するので、一概に階上の部屋越しなど一般家庭の利用においては使い勝手が大きく落ちない。また、2.4GHz帯でのIEEE802.11nで倍速モードを利用するとなると、近隣の別IEEE802.11nアクセスポイントからの干渉も避けられない。もともと2.4GHz帯は、完全に干渉を排除できるチャネル数は4つ分しかないのに、倍速モードはそのうちの2つが必要だからだ。これらの点は今回の検証結果にも反映されたといえ、WR8700Nを導入したなら「もう、PCでの高速無線LAN環境は5GHz帯で運用する」と決めてしまってよいと思える。
WR8700Nの特徴をひとことで言い表すなら、「オールマイティ」だろうか。多機能で、高機能でありながら導入は極めて容易であり、セットモデルであればイーサネットコンバータも無線LANの接続設定済みである。2.4G/5GHzの同時利用が可能なので、クライアント側の用途やロケーションに合わせて周波数帯の使い分けもできる。もちろん初期設定のまま利用しても無線LANのセキュリティはほどほど確保されており、家庭用ゲーム機での利用も容易な自動接続設定が利用できる。それでいてルーター、無線LAN機能ともに“玄人好み”でもある詳細な設定が可能であり、すでに触れた通り、さまざまな利用シーンに対応が可能だ。
つまり、今購入する無線LANルータは「今後数年に渡って使うもの」。となると、機能にスキがないことは“将来を見据えた場合”に重要なポイントだ。
あえて本機に欠けている機能を指摘するとすれば、VPNの着信機能がある。この機能がないなら選ばないという人も存在するとも思うので、ハイエンド製品ならばやはり装備してほしかった。また、USBストレージ機能もインターネット側からのアクセスに対応してくれると利用シーンはさらに拡大すると思う。家庭からインターネットへのゲートウェイだけではなく「家庭とインターネットを結ぶハブ」としての機能の充実を、今後の製品には特に望みたい。
ともあれ、AtermWR8700Nが現状で極めて魅力的な無線LANルータであることに間違いはない。そのスペックを考慮すると、価格も十分手ごろ感があることも含め、IEEE802.11n対応ルータの購入/買い換えを検討しているなら候補の筆頭に上げてよい製品だろう。
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