「libretto W100」誕生秘話――なぜ2画面タッチパネルのミニノートPCなのか?完全分解&ロングインタビュー(3/6 ページ)

» 2010年10月12日 16時00分 公開
[前橋豪,ITmedia]
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あえて、超低電圧版Pentiumでパフォーマンスに重きを置く

CPU-Zの情報表示画面。CPUは超低電圧版Pentium U5400を採用する。定格動作クロックは1.2GHzで、2コアで共有する3Mバイトの3次キャッシュを内蔵している

―― 2画面タッチパネルも個性的ですが、スペックも普通ではないですね。現状でミニノートPCといえば、大半がAtomを採用している中、あえて超低電圧版Pentium U5400(1.2GHz)を選択したのはなぜでしょうか?

三好 これには技術的な観点と、マシンのコンセプト的な観点の2つがあります。技術的の観点とは、Atomのシステムでデュアルディスプレイ環境を構築することが予想外に難しいということで、危うく26周年モデルになってしまいそうでした(笑)。コンセプト的な観点としては、librettoである限り、通常のノートPCに近いWindowsのパフォーマンスを獲得できることが必須条件だったので、Netbookより上位ランクのCPUを選びました。

 インテル以外のプラットフォームも検討したのですが、グラフィックス機能の開発を考慮した結果、結構早い段階でPentiumの採用が決まったと記憶しています。Pentiumなら(CPU内蔵グラフィックスのIntel HD Graphicsなら)デュアルディスプレイ環境が開発しやすいという見極めができたので、どうせなら全体的にサクサク動くマシンを狙おうと考えました。

―― CPUに超低電圧版Pentiumを選択した時点で、Atomに比べて高性能な半面、熱設計がかなりシビアになり、完成後のイメージは当初のものから大きく変わったと思います。実際、当初ターゲットにされたサイズや重量はAtomを考慮されたものですよね。Pentiumの採用が決まってから、サイズや重量の落としどころはどうなりましたか?

高橋 超低電圧版Pentiumを選んだことで、全体のバランスとしては性能を重視する方向に決まりました。つまり、ミニノートPCとしては高い性能をキープしつつ、サイズやバッテリーライフ、発熱の部分では、これまで東芝が培ってきた技術によって、Atom搭載機に近いレベルを目指すべきだ、とあえて自分たちに高いバーを掲げてみたわけです。これはもう開発者の意地ですね(笑)。

上條 パフォーマンスを少しでも上げるというのは、このマシンにおいては正解だと思います。2画面タッチパネルでの操作になるため、CPU性能が低く、画面に触れてからのレスポンスがかなり遅れるようでは、大きな問題になるからです。

バッテリー駆動時間とデザインの調和を考える

―― 超低電圧版Pentiumと、外部映像出力を常に使い続ける2画面のタッチパネル液晶、この2つの要素はバッテリー駆動時間にも大きな影響を与えていますね。

上條 そうですね。Pentiumの採用で性能が上がるのはいいことですし、2画面のタッチパネルもほかにない特徴ですが、やはり日本の販売サイドとしてはバッテリー駆動時間をもっと延ばしたいという要望が強く、ここは最後まで粘って調整してもらいました。

 公称2時間駆動の標準バッテリーパックだけだと、本格的にモバイルしたい人には厳しいです。なので、公称4時間駆動の大容量バッテリーパックも標準で付属して、状況に応じて好きなほうを使ってもらえる仕様にしました。価格は少し上がりましたが、アニバーサリーなモデルなのでここは許してもらえるかなと思っています。

―― 長時間駆動を狙うなら、底面全体を覆ったり、カバーと一体化するような大容量バッテリーも用意できたと思うのですが、このサイズに大容量バッテリーをまとめたのはなぜでしょうか?

三好 開発初期に2倍容量の大容量バッテリーを用意するのは決まっていて、大容量バッテリーを装着してもこのフォルムと持ちやすさは崩したくないと、デザイナーと話をしていました。実際、装着しても外観があまり変わらない大容量バッテリーができたので、ここは狙い通りです。

大容量バッテリーを装着した状態でも、液晶を開いて1枚板として違和感なく使える

上條 2画面タッチパネルのスタイルなので、大容量バッテリーを極端に厚くしてしまうと、液晶を広げてフラットな1枚板の状態にしたり、縦位置で使う場合に2枚のディスプレイ部で段差が大きくなって、違和感が生じてしまいます。大容量バッテリーをこのサイズに収めたのは、使い勝手を保つ意味もあるのです。

―― 確かに、大容量バッテリーを装着してもボディデザインは一体感があります。重量は増しますが、グリップ感はむしろ大容量バッテリー装着時のほうがいいと思えるほどです。バッテリー以外を見ても、天面のヘアライン加工や底面のテクスチャーなど、よく見るとかなり凝ったデザインですね。

三好 開発時にノートPCの次のデザイントレンドはメタル調が来るのではないか、特に上位ラインアップでその傾向があると見ていました。そこで今回は同時発表の「dynabook RX3」とともに、金属のヘアライン加工で魅せるブラックの天板にしています。細かいところですが、底面の模様は東芝の「T」の字になっていて、ちょっと遊びました。

上條 狙って統一したわけではありませんが、25周年記念モデルはみなブラックになりました。ただ、日本では売れ筋のカラーがいくつかあるので、今後もメインストリームのノートPCでは基本的に好きなカラーを選んでいただけるカラバリ展開を続けていくと思います。今回のようにコンセプトが明確な製品はブラックでまとめるなど、製品に合ったカラーをその都度採用するという考え方です。

高橋 ちなみに天面はマグネシウム合金を採用しています。ご存じの通り、デザインや質感といった点以外にも、放熱を助け、本体を薄くしつつ、強度を持たせやすいといった特徴があります。ほかの面は樹脂製ですが、強度などのテストは社内基準をクリアしていますので問題ないです。

ボディカラーはブラックでまとめているが、表面仕上げは場所によって異なる。天面はマグネシウム合金のヘアライン加工だ
底面のバッテリーには細かいテクスチャが施されている。装着しているバッテリーは厚みがある大容量タイプだ

ファッション誌の付録感覚でうれしいサプライズを提供したかった

―― デザイン面では、付属の専用ケースもブックカバーのようでユニークですね。

三好 そこは隠れたポイントで、気付いてくれてうれしいです。開発中にlibretto W100用のブックカバーが欲しいという話をデザイナーにしたら、本体のデザインと一緒にカバーも作ってきてくれました。最近は女性向けファッション誌などを中心に、豪華な付録が受けている風潮がありますよね。ここからヒントを得て作りました。

 コストを考えると、衝撃から本体を守るようなキャリングケースまでは付けられませんが、付録だったら楽しいな、ちょっといいな、と思っていただけるようなケースをきちんと作りたいという思いはありました。ケースは紙製ですが、外側は表面加工で高級感を出して、内側は起毛で赤に仕上げています。実はここに至るまで、20個くらいサンプルを作っていて、当初の予定よりだいぶ手間がかかりました。

上條 例えば、高級な腕時計を買うと、上質なケースの中に入っています。今回の専用ケースはそういったイメージですね。本当は購入してパッケージを開けると、専用ケースに収まった本体が現れるという演出をしたかったのですが、そこまでは無理でした。

三好 国内市場向けのモデルに付属するカバーは標準バッテリーを装着した場合に使えるもので、大容量バッテリー装着時はきつくて基本的に使えません。一方、海外市場向けモデルは大容量バッテリーがメインなので、大容量バッテリー装着時にぴったり収まるカバーを付属しています。今回はカバー1つを取っても苦労しましたね。

書籍のカバーをイメージした専用ケースが付属。内側は赤く塗られていて、表面の黒とのコントラストが印象的だ

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