「libretto W100」誕生秘話――なぜ2画面タッチパネルのミニノートPCなのか?完全分解&ロングインタビュー(4/6 ページ)

» 2010年10月12日 16時00分 公開
[前橋豪,ITmedia]
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東芝が培った実装技術を存分に生かした内部設計

天面側の液晶ディスプレイを外すと、マザーボードが現れる

―― 見た目にたがわず、中身も相当変わっていますね。天面側に基板類、底面側にバッテリーを配置した内部設計にしたのはなぜでしょうか?

高橋 上下のディスプレイ部にバランスよくパーツを配置しないと、ヒンジを開いたときにフラットな一枚板になりません。通常のノートPCと同じように底面側に基板もバッテリーも内蔵してしまうと不格好になってしまうので、libretto W100では思い切ってマザーボードを天面側に、バッテリーを底面側に配置することにしました。

 こうすることで、上下の重量バランスはうまく取れたのですが、開発にとって今までの常識が通用しない世界に突入したので大変でした。クラムシェル型のノートPCとしては、わざわざ天面側にマザーボードを内蔵した設計はほかにないと思います。

三好 最初に基板を天面側に収めると決めたとき、社内からは大丈夫なのかという声もありましたが、実際よく収まったと思います。一昔前だったら、下手したら液晶ディスプレイ部だけでも同じくらいの厚さがありましたが、ここにマザーボードまで入っているのだから時代の流れを感じます。

―― 天面側の限られたスペースに収めるため、マザーボードは相当コンパクトに作られていますね。基板のレイアウトや小基板の構成もかなり工夫が見られます。

高橋 メインボードと小基板をフレキシブルケーブルで結んで、パーツを散らしていますが、Pentiumのシステムが載ったメインボードでこれほど小さいものはないと思います。この8層基板は現状で東芝の実装技術の最高峰といえるものと自負しています。

実装密度が高いlibretto W100のメインボード。CPUにヒートパイプとファンが装着されている。フレキシブルケーブルで結ばれた小基板に無線LAN/WiMAXモジュールを備える

―― 内部パーツの配置はどうなっているのでしょうか?

高橋 メインボードにはCPUの超低電圧版Pentium U5400(1.2GHz)をはじめ、Intel QS57 Expressチップセット、メインメモリ、ハーフサイズのMini PCI Expressスロットを実装していて、Mini PCI Express型の62GバイトSSDモジュールをここに装着しています。メモリは2Gバイトをオンボードで両面実装していて、増設用スロットなどはありません。2画面のタッチパネル液晶は、外部映像出力でデュアルディスプレイ構成としています。

 それとは別に、小基板側にハーフサイズのMini PCI Expressスロットをもう1基設けて、無線LAN/WiMAXモジュールのCentrino Advanced-N + WiMAX 6250を装着しました。この小基板とメインボードを固定する場所には段差ができているので、フレキシブルケーブルで段々になるようつないでいます。25周年記念ということで、できることは何でもやりましたよ。

―― データストレージの採用については、当初からこうした小型SSDモジュールに的を絞っていたのでしょうか?

三好 データストレージは、やはり小型のSSDだろうと最初からイメージしていましたが、実はもう1つSDメモリーカードをメインに使うという案もありました。SDHCやSDXCも含めてSDメモリーカードの大容量化と低価格化はかなり進んでいるので、将来的にもっと大容量のカードが安価に入手できるようになったら、ユーザーが交換できるような仕組みも面白いなと考えたのです。

 しかし、購入時のストレージ容量や持ち運ぶときの耐久性、電力消費なども総合的に考えた結果、SSDに落ち着きました。

62GバイトSerial ATA SSDは、メインボードのMini PCI Expressスロットに装着されている
無線LAN/WiMAXモジュールのCentrino Advanced-N + WiMAX 6250は小基板上のMini PCI Expressスロットに装着されている

出荷ギリギリまで調整を重ねた放熱性と静音性

天面のヘアラインに沿うよう吸気用スリットがある

―― 超低電圧版Pentiumや2画面タッチパネル液晶をこれだけ狭いスペースに詰め込むとなると、放熱面と静音性のバランスは相当苦労されたのではないでしょうか?

高橋 ここは本当に苦労しました。メインボード周囲の放熱は、基本的にヒートパイプと小型ファンを使っています。ファンの形状自体は普通ですが、厚さは約3ミリと非常に薄いところが特徴です。この薄型ファンを狭い筐体内で回すだけでは、エアフローを確保するのが非常に厳しく、最終的には天面に吸気用の穴を開けて放熱することにしました。天面に穴を開けるのに抵抗はありましたが、とにかく安全に放熱させることを優先させた結果です。

三好 放熱の基本設計は、天面側の液晶ディスプレイの下部にある大きなスリットから吸気し、上部の穴から排気する仕組みです。天面に穴がなくても、ボディ発熱の社内基準においてほかのノートPCと同等のレベルはクリアしていたのですが、libretto W100は天面を握って縦向きにして使ったりするので、そうした利用シーンではボディに触れていて少し熱いのが気になりました。そこで、天面のヘアラインに沿うようスリットを入れてフォローしたわけです。

高橋 最初から縦位置のブックスタイルで使う場合に、熱源が握った手から遠くなるような基板レイアウトにはしていたのですが、それでも実際に使ってみると温かい部分に手が触れないとはいえません。温度を下げることに関しては、品質部門から徹底して注意するようにといわれていたこともあり、こうした放熱機構に落ち着きました。

上條 天面にマグネシウム合金を使っているので、熱が伝わりやすい半面、熱く感じやすいというのはありますね。最初の試作機では排気口からかなり熱風が出ていましたが、調整によってかなり抑えられました。

高橋 ボディ表面の温度とファンの騒音については、製品出荷の直前ギリギリまで調整しました。発熱する部分が弊社基準値内に収まるかどうかを常に監視してファンコントロールをするわけですが、このチューニングには力を入れたところです。自分の設計人生の中で、本当に最も苦労しました。

天面側のメインボード上に薄型のファンを装備

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