ユーザーインタフェースの未来はどっちだ?2011 International CES

» 2011年01月14日 15時28分 公開
[登丸しのぶ/Shinobu T. Taylor,ITmedia]

PCはマウスとキーボードが1番?

 多様化するユーザーインタフェース(UI)の進化の行く先はどこにあるのか。「From Touch Screens to Mind Control」と題したパネルディスカッションでは、UIの現状を認識することからスタートした。

CESでは、特定テーマを取り上げるパネルディスカッションが多数行われる。その1つがここで紹介するUIを討論する「From Touch Screens to Mind Control」だ

 多様なUIが開発されているにもかかわらず、PCのUIが依然としてマウスとキーボードが主流なのはなぜか、という問いに対し、タッチスクリーンなどの開発を手がけるSynaptics テクノロジーストラテジストのアンドリュー・シュー氏は「デバイスは進化してよりスマートになったが、人間はほとんど変わっていない。長年使い慣れたインタフェースが最も使いやすいと考えている」とコメントした。しかし、そのようなバックグラウンドのない子どもたちの世代では、新しいインタフェースもスムーズに受け入れられていくだろうとしている。

 ソニーでPlayStationの開発を手がけるUS R&D部門リサーチャーのリチャード・マークス氏もまた、「ゲームの世界では新たなインタフェースの導入でよりリッチな体験ができるため、ユーザーは喜んで受け入れるが、例えばWebブラウジングなど、キーボードを使って15秒でできる操作を、15分もかかる新しい方法で試したくはないだろう」と指摘した。

 一方、Hewlett-Packard ワールドワイドマーケティングマネージャーのゼイビアー・ロウワート氏は「HPはタッチスクリーンを3年前に始めたが、当時は技術的な制約が多く、できることに限りがあった。しかし、現在はマルチタッチをサポートするWindows 7がPCに標準で導入されるようになり、光学式タッチパネル用のカメラも進化している。このような環境でUIの開発がより簡単になり、今後5〜6年におけるUIの進化はこれまでと比べものにならないほど速いスピードで進むだろう」という見解を示した。

Synaptics テクノロジーストラテジストのアンドリュー・シュー氏(写真=左)。ソニーでPlayStation開発を手がけるUS R&D部門のリサーチャーのリチャード・マークス氏(写真=中央)。Hewlett-Packard ワールドワイドマーケティングマネージャーのゼイビアー・ロウワート氏(写真=右)

自然なUIとは何か

Loquendoで音声認識技術の開発を手がけるビジネス開発 兼 マーケティングマネージャーのパオロ・パストリノ氏

 UIを語るとき、しばしば“より自然であること”が焦点になるが、この点についてもそれぞれの参加者が持論を展開した。音声認識技術の開発を手がけるLoquendo ビジネス開発 兼 マーケティングマネージャーのパオロ・パストリノ氏は、「新しいUIの開発には、常にデバイスからの要件がある。例えば電子ブックはページをめくる必要があるし、キーボードがない小さなデバイスではタッチ操作が便利だ。また、ユーザーがタッチ操作をできない場合、例えば運転しているときなどは音声で操作するしかない」と、デバイス側から見た“自然な動き”に言及した。

 一方、マークス氏は“自然であること”に固執することに異議を唱える。「多くのユーザーは、ごく自然な感じでそこにあり、存在を感じさせないUIがいいといっているが、私はそうは思わない。むしろ、UIはユーザーをより楽しくさせ、より優れたアプリケーション体験を実現するべきものであると思う。タッチスクリーンを使ったWebブラウジングを好むユーザーが多いのは、単純にマウスより楽しいからだ。また、ゲームでは“ギターヒーロー”や“ロックバンド”のように楽器を実際に演奏している気分になれるUIは、ボタンを押すよりもはるかに楽しい。また、ダンシング系のゲームでは手に何も持たないのが望ましい。これら異なる体験をすべて満足させる、たった1つの完璧なインタフェースの開発は非常に困難だ」

ボタンは有効で信頼性の高いUIだ

MicrosoftでWindows Phoneの開発を手がけるモバイルエクスペリエンスデザイン ディレクターのアルバート・シャム氏

 多様なUIの登場、そして普及によって、キーボードを含めた従来の「ボタンを押す」操作は消滅していくという意見もあるが、すべてのパネリストは「ボタンは有効なUIであり続ける」という立場を取った。

 マークス氏は「ボタンを押すという操作は非常に単純で、誰でもできるし、信頼性も高い。これを置き換えるのは非常に難しい。より多くのことをしようとすれば、もっと複雑なインタフェースが必要になるが、1つの目的を実行しようとする場合、ボタンに勝るものはない」と、ボタンの有効性を強く訴えた。

 MicrosoftでWindows Phoneの開発を手がけるモバイルエクスペリエンスデザイン ディレクターのアルバート・シャム氏は「インタフェースを変更する場合には、常に何が最適かを考えなければならない。ボタンの数を少なくして操作性が悪くなってしまっては意味がない。ただボタンを減らすのではなく、より効率的な操作ができるように、ほかのUIとバランスを取っていくことが重要だ」とコメントした。

UIの未来像はマインドコントロール?

 最後に、未来のUIについて参加者が意見を述べた。パストリノ氏は「同じコンテンツを複数のデバイスで扱う時代になり、タブレットPCにはタッチスクリーン、車載機器では音声制御、PCはおそらくマウスとキーボードのまま、そして、巨大なスクリーンの前に立ったときはどんなアクションでもできる、といったようにデバイスによって最適なインタフェースを選ぶようになるだろう」とコメントした。

 ロウワート氏は、次のUI革命として、“マインドコントロール”(編注:脳波や視線など、人間の活動を検知して手に触れずに操作を行う意味でこの言葉を使っている)が来ると予測したが、マークス氏はこれに異議を唱える。「個人的には、自然とはいえないマインドコントロールのファンではない。UIには常に身体の一部を使っていきたいと考えている。現在実用化されているインタフェースにもいくつかの課題がある。その1つが“アイトラッキング”だ。コンピュータは人がどこを見ているのかを正確に把握することが難しい」と、さらなる改良の余地があることに言及した。


 UIの進化をテーマとしてこのパネルディスカッションでは、(旧システムと新システムとの)「バランス」と(ユーザーの)「文化的許容性」という言葉が繰り返された。このキーワードから、開発側が、技術革新のスピードとユーザー側の受け入れのスピードとのギャップに悩み、開発に苦労している状況がうかがえた。斬新なUIが開発されてもなかなか製品化されない、という状況が今後も続くのかもしれない。

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