地震、火災、津波――災害に見舞われたHDDは復旧できる?失われたデータを求めて(番外編)(2/2 ページ)

» 2011年04月06日 10時25分 公開
[後藤治(取材協力:iPR 奥川浩彦),ITmedia]
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突然の停電で論理障害を起こすRAIDシステム

データ復旧事業部の中でも精鋭ぞろいのRAID復旧を担当する西原世栄氏

 今回の大震災は、電力不足から実施された計画停電でも多くの人に影響を与えている。通常、HDDを単体ドライブとして使っているのであれば、突然の停電でHDD障害が起こることは少ない。ただし、NASをRAID構成で運用している場合は、パリティ計算にエラーが生じてファイルシステムが壊れてしまうことがある。RAIDシステムが夏場に故障するケースが多いのは、熱による耐久性の低下とともに、落雷による不意の停電も原因の1つだ。

 東京電力関内の一部で計画停電が実施されたことから、日本データテクノロジーでは停電が原因で故障したRAIDシステムの持ち込みが増えているという。

 「停電をしないと聞いていたのに突然停電してNASが起動しなくなった、という問い合わせが多いですね。不意の停電に備えてUPSを使う方法もありますが、そもそも電源のオン/オフ自体がよいことではないので、古い年代のHDDを使っていると正常にシャットダウンしても立ち上がらなくなる可能性はあります。3年から5年継続利用しているHDDは気をつけたほうがいいかもしれません」(西原氏)。

 ちなみに、停電が原因で故障するRAIDシステムは基本的に論理障害になるため、メーカーを問わず約95%という高い復旧率を誇る。特にバッファローやアイ・オー・データ機器の製品など、市場に多く出回っているモデルに関してはほぼ100%に近い数字になるという。もっともこの数字は、海外トップクラスのデータサルベージ企業と密に情報交換を行い、日本有数の技術力を持つ同社の中でもわずか一握りのRAID復旧チームでこそなせるわざだろう。

 事実、日本データテクノロジーには“難物件”と呼ばれる難しい復旧作業を伴う依頼が多い。これはリビルドに失敗したRAIDシステムを、複数のデータサルベージ企業が復旧できずに、最終的にユーザーが同社へ持ち込んできたものだ。

 「基本的にRAIDの復旧は経験の積み重ねによる部分が非常に大きいです。メジャーな製品であれば多くの同業者が復旧できると信じたいですが、一般にあまり出回っていない製品や特殊なファイルシステムなどはかなり難しくなるでしょう。また、他社では原因を特定せずに作業に入るところもあると聞きます。私たちは“いちかばちか”で復旧する会社ではないので、必ず原因を特定し、分からなければ交流のある海外企業や専門家から情報収集して、復旧できるという見込みを持ってからスタートします。ほかのところで復旧できなかった物件が入ってくることは非常に多いのですが、本来なら簡単に直せたはずのものが、間違った診断や作業によって難しくなっているものもありますね」(西原氏)。

RAIDの復旧作業風景。数字が並ぶディスプレイの画面を眺めながらエンジニアがメモを取っている。画面は1億以上のセクタを16進数で表示したもので、この数字から何台構成のRAIDシステムで何番目のディスクに該当しているか、という情報を引き出していく。いわばなぞ解き。メーカーやファイルシステムで特定のパターンがあるため、経験を積んだエンジニアなら、すべてに目を通さなくてもざっと見ただけで“なぞ解き”ができるという。そこからパリティを計算して、本来あるべき場所にデータを書き戻していく。新人がまずはじめに習得する“聞きHDD”にものけぞったが、選りすぐりのRAID復旧チームは真性の変態だと確信した(もちろんほめ言葉です)。ちなみにRAIDチームの作業場にはHDD 24台構成の非常に高価なサーバが無造作に置いてある。“難物件”の復旧を依頼されたとき、同じ環境を作って検証するために購入したものだという

 「ただ、難しい物件が集まってくることで、逆に『ここで直せなかったら2度とデータを取り戻せない』というプレッシャーと同時に、使命感も感じています。難しければ難しいほどコスト度外視で動いてしまうようなところはありますね。今回の震災に関しても非常に多くの方から問い合わせを頂いていますが、HDDが壊れて困っている人がいるのなら、どこへでも行って復旧したいという気持ちはあります。クリーンルーム内の作業を前提としているために出張復旧はしていませんが、弊社でしかできない技術を求められれば、現場の人間一同、可能な限りお手伝いしたいと考えています」(西原氏)。

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