“やりたくないのにやらされる”フルモデルチェンジ!牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)

» 2011年10月14日 10時30分 公開
[牧ノブユキ,ITmedia]

ボディデザイン変更はフルモデルチェンジにあらず

 メーカーが新製品を発売するとき、ボディデザインをがらりと変えることを「フルモデルチェンジ」、ボディのデザインは変えずに小改良にとどめることを「マイナーチェンジ」と呼ぶ。携帯電話や家電、さらには車の世界では、何回かのマイナーチェンジを経てフルモデルチェンジに至るのが慣例だ。例えば、フルモデルチェンジは4年に1回、その間は1年に1回のマイナーチェンジでつなぐ、といった具合だ。

 実際にはボディ、つまり外見だけでなく中身まで含めてフルモデルチェンジか否かを判断しなければおかしいわけだが、ボディデザインの変更の有無でそれを判断する傾向が強い。メーカーもそれを逆手に取って、中身はほとんど変わっていないのにボディデザインを変更してフルモデルチェンジに見せかけたり、それとは逆に、マイナーチェンジといっているのに中身が大幅にパワーアップする「羊の皮をかぶった狼」状態になることも多い。

機能の制約がなければ現行ボディが安全

 フルモデルチェンジというのはメーカーにとって大きな賭けだ。これまで売れている製品のボディデザインをあえて変更すると、マイナスに作用して売上が落ち込む可能性もある。デザインを変更しなくても構わないなら、メーカーとしてはなるべくボディデザインの変更は行いたくない。

 コストの問題も大きい。ボディデザインを変更すれば、デザインの費用はもちろん、強度設計などさまざまな工程を最初から行う必要があるし、デザインがほかの製品の意匠を侵害していないかどうかをチェックする必要もある。これらはすべて製品の原価に跳ね返ってくる。

 量産にあたって金型代がかかるのも大きな問題だ。金型代は1セットあたり数十万から数百万円までと幅が広いが、形状が複雑になればそれだけ点数も増え、コストも上がる。ロットが少ない製品であれば、償却までにかなりの台数をさばかなくてはいけないので、ここでもフルモデルチェンジのハードルはそれだけ高くなる。

 しかしなにより恐ろしいのは、ボディを変更するきっかけとなった新機能や、それにと伴って変更された機構が想定通りのパフォーマンスを発揮せず、場合によってはリコールの対象となることだ。例えば、冬場にテストを行って発売した新製品が、放熱性能の問題で夏場に熱暴走するケースがある。従来のボディデザインであればすでに運用実績があるのでこうしたケースは起こらないが、気温の高い環境でのテストが十分ではないがゆえに、こうした不具合が発覚してしまう。2010年にあったiPhone 4のアンテナ問題は、ボディ変更にあたって検証が不十分だった実例の1つといえるだろう。

 特に、開発サイドの意向でフルモデルチェンジを行う場合は、「新しい機能を付け加えるためにボディも新しいデザインに変更したい」という理由で企画会議を通していることが多いため、多少の不具合が発覚してもあとに引くことは難しい。従来製品の生産を終了させて、すでに新しい製品のために生産ラインを組み替えてしまったりしていると、なおさら後戻りは難しくなる。

 以上のようなリスクを考えると、メーカーとしては、ボディデザインを変更するほどの新機能の追加がなく、いま市場に出ている現行製品のボディがほぼそのまま使えるのであれば、それを使ったほうが安全ということになる。画期的な新機能が搭載されないことで大ヒットには至らないかもしれないが、従来製品のクセを知り尽くした上で改良が加えられることから、製品の完成度は高くなる可能性が高いし、デザインがユーザーの好みにマッチしないということもない。少なくとも、中身はほとんど変わっていないのにボディデザインを変更してフルモデルチェンジに見せかけるのよりはずっといい。

 問題があるとすれば、新製品としてのインパクトが落ちることでマスコミの評価が下がったり、「ボディデザインが変わる=フルモデルチェンジ」と信じているユーザーの関心を引きにくくなることだろう。結果としてこれらマイナーチェンジモデルの発表にあたっては、カラーバリエーションを追加投入したり、なんらかのキャンペーンを組み合わせるなどして、話題を提供するといった形を取る。

部材の事情が、フルモデルチェンジを遅らせる

 こうした事情とは別に、ボディのデザインをがらりと変更したくても変更に踏み切れない場合がある。理由は主に2つだ。

 1つは、従来製品の部材が余っていて、その在庫がはけるまではボディデザインを変えようにも変えられないという場合だ。例えば「内部の基板やネジ類は適正在庫の範囲内なのに、ボディの部品だけ半年分以上の在庫が山積みになっている」という場合だ。仕入れは部材単位で行い、アセンブリは自社で行なっているメーカーでは、仕入先それぞれでロットが異なるため、こうした事態がよく起こりうる。倉庫に在庫はないものの、契約書上であと何万個仕入れなくてはいけないといったコミットをしている場合も同様だ。

 余っている部材が次の新製品でも使えるのであれば何の問題もないが、これがボディの部品そのものだったりすると、廃棄するだけで百万単位、多いときには億単位という金額になってしまい、社内で責任問題に発展するのは不可避だ。原価が安く廃棄も容易な説明書やパッケージが余ったように廃棄稟議書を書いて処分するのとは違う。薄利でもうけが少ないメーカーであれば、こうした事情がフルモデルチェンジを遅らせる要因の1つになることはよくある。

 このほか、バッテリーやACアダプタといった付属品、本体ケースなどのアクセサリの在庫も問題だ。組み合わせの対象となる従来製品がフルモデルチェンジによって終息してしまい、新製品には適合しないとなると、これは確実に不良在庫になる。再生して別製品に仕立てるという手が使える場合もあるが、廃棄しか選択肢がない場合は、なるべく従来製品を延命させてアクセサリの在庫をなくそうする。余談だが、純正品メーカーが付属品やアクセサリを長期欠品させているときは、本体のモデルチェンジが迫っていると見ることもできる。

 とはいえ、売り上げが予測しにくい未知のジャンルの新製品でもなければ、このあたりの仕入れは資材管理や購買の部門がしっかりと管理しており、製品のロードマップを改変するほどの事態になることはあまりない。ただし、企業の規模が小さく、こうした予測の立案や仕入れ交渉が不得意なメーカーであれば、こうした問題に陥ることはままある。

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