新しいアップルと、デザインが持つ本当の意味WWDC 2013所感(後編)(1/5 ページ)

» 2013年07月02日 11時39分 公開
[林信行,ITmedia]

WWDC 2013で発表された8つの新製品

WWDC 2013基調講演の壇上に立つティム・クックCEO

 アップルは「デザイン」の会社だ。本稿の前編でも触れたように、WWDC 2013基調講演の冒頭と最後に紹介したビデオで、ティム・クックCEOはこのことをより鮮明に打ち出した。現在、これらのビデオは、アップルのWebサイトで公開され、CMは日本のテレビでも放映されている。

 前編では、これこそがWWDCで1番大事なメッセージだときちんと伝えるために、たくさんあった新製品の発表にはあえて触れなかったが、後編では実際に発表された製品についても少しは触れるようにしたい。もっとも、1つ1つの発表内容が何であったかまで掘り下げるつもりはない。

 WWDC 2013では基本的に8つの新製品の発表があった。

 これらについては、アップルの公式ページに、すでに基調講演よりも詳細な情報が掲載されている。しかも、iWork for iCloudとiTunes Radioの2つ以外は、すでに日本語の公式ページができあがっており、MacBook Airについてもすでに大勢の人が手に入れ、レビュー記事もそこかしこに掲載されている。

 また、iWork for iCloudとiTunes Radio以外の部分については、同じITmediaにて、ジャーナリストの神尾寿氏が4ページにも渡る詳細なリポートで発表内容のおさらいをしてくれている(関連記事:あの感動、再び――Appleは新たな時代に踏み出した)。

 この記事で製品の紹介を再び繰り返す必要はない。この記事では、みなさんが上記の発表についてすでにある程度は知っているという前提に立って、筆者の考察を述べていきたい。

プロ用デスクトップPCをゼロからデザイン

 「これが私たちのサイン――Designed by Apple in California」と語るアップル。今回のWWDC 2013で一体、何のデザインを発表したのか。

Mac Pro

 まず1つ目は新しいハードウェアのデザインについて語ろう。

 新MacBook Airは、新型CPUの搭載とIEEE802.11ac対応無線LAN、そしてiPadに負けない10〜12時間駆動のバッテリーライフが主な変更で、欲しいと思っていた人にはより魅力的な存在となったが、デザイン的に見て圧倒的に面白いのはやはりMac Proだ。

 その詳細に切り込む前に、まずは「デザイン」という言葉について、ハッキリさせておきたい。「デザイン」と聞くとイロカタチのことだと思っている人がまだまだ多い。これは世界的にリスペクトを集めるデザイナーの多い日本として非常に残念なことだ。

 OS Xに標準搭載された三省堂のスーパー大辞林で「デザイン」という言葉を引くと「作ろうとするものの形態について、機能や生産工程などを考えて構想すること。意匠。設計。図案。」と書かれている。

 筆者としては、企業が、その企業と消費者の接点となる商品の狙いを定めること、ブランド、保有技術、人材、生産設備、流通といった制約の中で、それをどう具体化するかを突き詰めて考え、プランに落とし込んでいくこと、といった意味で考えている。

 それでは、Mac Proはそもそもどういう製品なのか。おそらくアップルは「デスクトップ型のMacが欲しい」と思っているほとんどの人の願いを、液晶一体型のiMacでかなえているはずだ。

 その一方で、コストパフォーマンスを重視したiMacでは満たせないものもある。例えば、映像や3D、科学計算などに求められる非常に高い処理能力、価格よりも何よりもまずは「性能第一」という、プロフェッショナルの要求だ。

 本体が高価でも、マシンの性能が高ければ、その分、試行錯誤の回数やこなせる仕事の量が増え、投資を回収できる人々が世の中にはいるが、Mac Proはまさにそんな人たちをターゲットにしている(以下、技術的に細かい話が続くので興味がない人は適当に読み飛ばしてもらってかまわない)。

 最高の性能を提供するため、新Mac Proは最大12コアのXeon E5と1866MHzのDDR3メモリを搭載したほか、4K画質(フルハイビジョンの4倍の解像度)の映像を表示可能なAMDの最新鋭GPU、AMD FireProを2つ搭載し、最大3つの4K映像を表示できるという、映像編集機としての夢をかなえるマシンになっている。

 また、どんなに高速なCPUやGPUを搭載しても、価格競争によるコストダウンの影響から、内部に少しでも足を引っ張る“遅い”部品があると、結局、本来の性能を生かせず、ムダな処理待ちの時間が増えてしまうのがPCだ。だからアップルは、地味なハードウェアの構成要素1つ1つを大事にし、Mac Proにはそうしたもたつく構成要素が入り込まないように、PCI Expressと呼ばれる規格で接続されたフラッシュストレージに至るまで、細かくこだわって仕様を決めている。

 新たに搭載されたThunderbolt 2も、そうした仕様の1つだ。実はこのThunderbolt 2、現行規格のThunderboltと比べると、データ転送の総量は1チャンネル当たり10ギガビット/秒で変わりはない。ただし、2つのチャンネルを束ねることで20ギガビット/秒を達成している。これにより4K画質の映像を複数表示しつつ、外部ストレージなどから高速にデータを転送できることが強みとなっている。

 この高速通信のインタフェースを備えたことで、新Mac Proでは、これまでのMac Proやその前身のPower Mac G5のように、本体基板上の拡張スロットに直挿ししなくても、現在必要とされるほとんどのニーズを外部接続で満たせる(そもそも、すでに特殊な拡張スロット向け製品を作るというビジネス自体が、数年前からフェードアウト気味だ)。

 であれば、2013年で10年目を迎えた旧Mac Proのあの巨大なボディはもはや必要ない。プロフェッショナルが欲しいのは巨大なマシンではなく、性能が高いマシンなのだから、もし小さい本体できちんと高いパフォーマンスを発揮できるなら、むしろそのほうが喜ぶはずだろう。

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