現在日本を含む一部地域ではOEMメーカー各社のWindows 10 Mobile製品が一気に出そろい、ちょっとしたWindows 10スマートフォンのムーブメントが巻き起こりつつある。予想だが、日本国内を中心として、一時的に同OSのモバイルOS全体に占めるシェアが拡大するだろう。
しかしブームは長く続かず、早ければ2016年後半にもこの動きは収束してしまう。現在のところ、新デバイスの話題以外で市場全体を引っぱる要素が不足しているからだ。これは特にコンシューマー市場に顕著で、「新しいモノ好き」の層に一定数以上デバイスが行き渡ることで、収束のタイミングがやって来る。これは新製品を投入したOEM各社やMicrosoft自身も自覚しており、この一時的ブームが去った「次」を見据えている。
今回、KATANAシリーズを出したFREETELとNuAns NEOのトリニティがMWCに出展していたが、これは海外に製品を紹介して潜在的な需要や顧客を探し出し、海外進出の足掛かりとすることが狙いの1つにある。特にNuAns NEOはスマートフォン製品単体で見ても非常にユニークなデバイスであり、提案型の商談に持ち込みやすいだろう。日本国内での需要が一巡することを見据え、その活動領域を少しでも広げるのは1つの手だ。
対して、大手メーカーと呼ばれるOEMやMicrosoftが狙っているのが「法人需要」だ。日本国内だとVAIOの「VAIO Phone Biz」が明確にこの市場をターゲットとしているが、今回のMWCで発表されたHPの「Elite x3」もまさにこの市場を主力としている。
Elite x3はSnapdragon 820を搭載するハイエンドモデルで、競合製品がそうであるように「Continuum」機能をセールスポイントの1つとし、実際に展示ブースでのデモもこの機能を主役に据えている。外部にノートPC型のキーボード+ディスプレイの「Mobile Extender」を組み合わせれば、Elite x3をノートPCのように操作することも可能だ。
またContinuumでは実行可能なアプリがUWP(Universal Windows Platform)に限定されるという問題があるが、「HP Workspace」を使ってクラウド経由の仮想デスクトップ環境を呼び出せば、既存のWindows向け業務アプリケーションをあたかもPCのように利用でき、本当の意味でElite x3をPCワークステーションとして活用できる。
将来的には業務アプリケーションがUWP対応したり、Edgeなどの新型Webブラウザへの対応が進むと思われるが、仮想デスクトップやリモートデスクトップ機能を組み合わせることで、プラットフォームや互換性の問題を考えずにWindows 10 Mobileを本格活用できるのは大きいだろう。
さらにWindows 10 MobileはMicrosoft IntuneによるMDM(モバイルデバイス管理)や、Azure ADによるアクセス権限管理など、競合のモバイルOSプラットフォームに比べて管理機能が使いやすいという特徴がある。アプリケーションの豊富さや開発者の層の厚さという面での難点こそあるものの、これらは企業ユーザーに製品を売り込むうえで大きなセールスポイントとなる。
このように、比較的大手のメーカーらはWindows 10 Mobileの当面の市場をエンタープライズに見いだしており、Microsoftとともにキャンペーンで製品展開していくとみられる。
今回興味深かったのが、中国メーカーの雄であるHuaweiの動向だ。同社はモバイル端末メーカーとしてもトップ3の一角を占める強豪でありながら、MWCに合わせて開催された同社の発表会では「MateBook」というWindowsタブレットのみを紹介し、モバイル端末は一切発表していない。
MateBookは同社がWindows PC市場に初参入する製品で、「プロフェッショナル」「ビジネスユーザー」を主なターゲットに掲げている。コンシューマーよりもむしろ、エンタープライズ市場にこそ需要があると考えているようだ。
このように、OEM各社の目は一斉に法人のスマートデバイス需要へと向いている。今後数年のWindows PCとWindows 10 Mobileの動向を占ううえで、重要なポイントになるだろう。
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