見どころは「ワッパ」? AMDの新型ハイエンドCPU「Ryzen 9 7950X3D」の実力をチェック!(1/4 ページ)

» 2023年02月27日 23時00分 公開
[迎悟, 井上翔ITmedia]

 AMDが1月4日(米国太平洋時間)に発表したデスクトップ向け新型CPU「Ryzen 7000X3Dシリーズ」は、先行して登場したデスクトップ向けRyzen 7000Xシリーズをベースに、「3D V-Cacheテクノロジー」を適用することでL3キャッシュを大幅に増量したものだ。

 シリーズの上位モデル「Ryzen 9 7900X3D」「Ryzen 9 7950X3D」について、同社は国内発売日時が3月3日11時となる旨を発表した。税込みの想定販売価格はRyzen 9 7900X3Dが9万5800円、Ryzen 9 7950X3Dが11万1800円となる。

 過去にテストした「Ryzen 7 5800X3D」では、さまざまなCPU命令を駆使するようなアプリにおいてL3キャッシュ増量の効果は顕著に表れた。新しいCPUアーキテクチャに移行したRyzen 7000X3Dシリーズでも、この傾向に変わりはないのだろうか?

 発売に先駆けて、シリーズの最上位製品であるRyzen 9 7950X3D(4.2GHz〜5.7GHz/16コア32スレッド)の実力をチェックしてみよう。

【訂正:3月1日17時30分】初出時、L3キャッシュの容量に一部誤りがありました。おわびすると共に、該当箇所を修正します

Ryzen 9 7950X3D Ryzen 9 7950X3Dのパッケージは、3D V-Cacheテクノロジーを適用していることを示していること以外は既存のRyzen 7000Xシリーズと変わりない

L3キャッシュは合計で144MB! 増量分はどう実装している?

 先述の通り、Ryzen 7000X3Dシリーズは3D V-Cacheテクノロジーを適用することでL3キャッシュを大幅に増量したことが特徴だ。今回は、その適用方法にちょっと面白いポイントがあるので簡単に紹介しよう。

 本来、Ryzen 7000/Ryzen 7000XシリーズのCCX(Core Complex:CPUとL3キャッシュを搭載したダイ)は、最大で32MBのL3キャッシュを搭載している。16コア32スレッド構成のRyzen 9 7950XのCCXは2基なので、“素の”L3キャッシュ容量は64MBとなる。

 Ryzen 9 7950XのL3キャッシュの容量は合計で128MBなので、3D V-Cacheによる増分は64MBということになる。「ということは、それぞれのCCXに32MBのL3キャッシュを追加したのかな?」と思いたくなるが、そうではない。64MBの追加L3キャッシュは、全て片方のCCXに実装されているというのだ。

 言い換えると、今回のRyzen 7000X3Dシリーズは2基のCCXのL3キャッシュ容量に偏りがあるということになる。2基のCCXに32MBずつ増量しなかった理由について、AMDは以下の通り説明している。

  • 2基とも3D V-Cacheを搭載するとコストがかかる
  • L3キャッシュを大量に使うゲーム(アプリ)におけるパフォーマンス減少は軽微
  • 3D V-Cache未搭載のCCXはオーバークロック耐性が高くなる

 端的にいうと、L3キャッシュの偏重搭載は、性能や価格のバランスを取った結果ということだ。

144MB! Ryzen 9 7950Xは144MBのL3キャッシュを搭載している。追加分の64MBは、半分に分けた上で2基のCCXに上乗せしていると思いきや……
片方 片方のCCXにのみ増量を行ったという。L3キャッシュが効くアプリは3D V-Cacheを搭載したCCXに、稼働クロックが効くアプリは3D V-Cacheを搭載しないCCXに処理を回すことでパフォーマンスを最適化しようという発想のようだ

 そうなると「どちらのCCXに処理を割り当てるのか」を判定する仕組みが重要となってくる。そこで最新の「AMD Chipset Driver」では、以下の新たな仕組みを導入している。

  • AMD 3D V-Cache Performance Optimizer Driver
    • リアルタイムでシステムの挙動を開始し、優先して割り当てるCPUコアを切り替え
    • L3キャッシュが必要と判断すると、3D V-Cache付きCCXにあるコアを優先割り当て
    • クロック周波数を優先すべきと判断すると、通常CCXにあるコアを優先割り当て
  • AMD PPM Provisioning File Diriver
    • ゲームの起動を検出して、稼働させるCCXを1基のみに制限
    • 休止させるのは、原則として通常のCCX(L3キャッシュ容量を優先するため)
    • スレッドの負荷が高まった場合は、休止中のCCXの動作を自動的に再開可能

 Ryzen 7000X3Dシリーズは、既存のSocket AM5搭載マザーボードで稼働する(※1)。ただし、そのパフォーマンスを“適切に”発揮するには最新のチップセットドライバーと、最新版の「Xbox Game Bar」を用意する必要がある(※2)。

(※1)新しいチップセットドライバーに関連する機能を適切に動作させるには、UEFI(BIOS)のアップデートが必要となる場合もあります
(※2)ゲームを起動しているかどうかを判定するために、Windows 10/11の「ゲームモード」を利用するため

最新ドライバー 最新のチップセットドライバーに含まれる「AMD 3D V-Cache Performance Optimizer Driver」は、どちらのCCXに優先して処理を割り当てるか判定する
AMD PPM Provisioning File Diriver 「AMD PPM Provisioning File Diriver」は、片方のCCXを意図的に動作休止させることで“ブレずに”適切なCCX(CPUコア)へと命令を送り込める
新ドライバー 新しいドライバーでは、オーバークロックをしやすくなるオプションも提供される

 AMDは、Ryzen 7000X3Dシリーズにおける消費電力当たりのパフォーマンス(俗にいう「ワッパ」)を強調している。競合の「Core i9-13900K」とCINEBENCH R23におけるマルチコアテスト実行中の消費電力を比べた場合、Ryzen 9 7950X3DはCore i9-13900Kの最大で2倍近くの効率を持っているという。3D V-Cacheのない「Ryzen 9 7950X」と比べた場合も、わずかではあるが効率は向上している。

 同社は「頂点に立つ結果を残すために、電力をくうプロセッサはいらない」としており、3D V-Cacheを搭載するRyzen 7000X3Dシリーズに自信を持っているようだ。この辺は、この後のベンチマークテストで本当かどうか分かるだろう。

ワッパ見るよ! AMDはRyzen 9 7950X3Dの「ワッパ」の良さをアピールしている。CINEBENCH R23で同じスコアを残すために、半分近い電力で済むということである
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