インタビュー
» 2009年07月17日 17時25分 公開

iモードは“黒船”が追いつけない領域に進化している――ドコモの阿佐美氏ワイヤレスジャパン2009 キーパーソンインタビュー(3/4 ページ)

[神尾寿,ITmedia]

iモードは「先に行く」

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ITmedia ここまでのお話をうかがって感じるのが、「ドコモのエコシステムが質的にも変化・拡大している」ことです。今までのデジタルコンテンツやネットサービス、ゲームだけではない、本当の意味で“生活とオーバーラップするような”インフラになってきている。これはドコモが“おサイフケータイを推進してきた”ことが大きな役割を果たしているのでしょうけれど、公共交通事業者や銀行、流通小売りをはじめ、(ICT産業以外の)異業種との関係を深めて、そこにまでエコシステムを広げている。

阿佐美 それはまさに我々の大きな強みですね。

 例えば今、AppleやGoogleなどの企業が携帯電話業界にどんどん進出しており、みなが口をそろえて「ドコモさんは大丈夫ですか」と言うわけです。しかし海外の企業は、コミュニケーションと(デジタルコンテンツを含む)情報サービスまでは容易に提供できるでしょうが、生活支援や行動支援の分野に踏み込むのは難しいでしょう。

ITmedia 生活支援や行動支援はローカル性が重視されるので、彼らがビジネスの前提にしている「グローバルで収益力を高める」という前提が通用しない領域です。例えば、AppleやGoogleが各地の公共交通事業者や地元のスーパーと直接協業できるかというと、それはちょっと難しいでしょう。

 AppleやGoogleのエコシステムは、コンテンツやアプリなどの情報プラットフォームの部分までは(グローバル戦略で各国に)展開できます。ですから、ドコモのiモードも、ゲームなどデジタルコンテンツやネットサービスといった領域では、今後グローバルプレイヤーとの競合が起こるでしょう。しかし、生活支援と行動支援領域のビジネス化は、ドコモのように地域密着で「社会インフラに責任を担う企業」だからこそできる。

阿佐美 そこに住んで、フェイス・トゥ・フェイスでしっかり議論ができて――という関係があるからこそ、生活支援や行動支援のサービスが提供できるのです。

ITmedia モバイルのサービスが生活に密着し浸透するほど、ローカル性が大事になってくる。だからこそ、グローバルなエコシステムでは対応しきれない領域が出てくる、という見方もできるわけですね。

阿佐美 まさにそのとおりです。

ITmedia AppleのApp StoreやiTunesを筆頭に、グローバルで規模を作っている新興プラットフォームは、コンテンツプロバイダのビジネスにとって魅力的になってきています。手持ちのコンテンツやサービスがグローバル展開できる企業にとって、グローバルでビジネスできる(デジタルコンテンツの)場所に参加しない手はない。

 そうした流れが加速する中で、“iモードは大丈夫ですか”という議論になるわけですが、生活支援や行動支援はドコモのようなドメスティックな企業でなければできない部分であると。ここで先行していることが、ドコモの優位性になっている。

阿佐美 実際そうですね。いってみれば市場が成熟したおかげで、我々はそういう方向へ走ることができたわけです。

 デジタルコンテンツの料金回収代行としてのiモードの発展は、コミュニケーションと情報アクセスの部分が注目されがちですが、実際のところ我々のエコシステムはその先へと発展しています。生活支援と行動支援にしっかりと取り組むことが、お客様をiモードにつなぎ止められる一番のポイントだと思います。

ITmedia iモード全体が進化し、領域が拡大する中で、Appleなどと競合する領域は、iモードから見れば部分的であると。

阿佐美 iPhoneは確かにUIが優れているなどよくできたデバイスですが、“それでできること”を見るとドコモが通り過ぎてきたところにある。デジャヴュ(既視感)を感じますね。

Photo コンテンツ流通のインフラとしてスタートしたiモードは今や、コミュニケーション、サービス、ビジネスのインフラに進化(左)。進化に伴い、パートナー企業の幅が広がった(右)

ITmedia 確かにiPhoneで儲けている日本のコンテンツプロバイダは、かつてドコモのiモードでやっていたことをiPhoneでやっている、という印象はあります。iモードバブルのころに似た状況が、北米市場を中心に世界で起きている――。それはそれでビジネス的に見れば、とても重要なことではあります。

阿佐美 ドコモは基盤を作った上にまた新しい基盤を乗せて、それが新たなパートナリングを生むような仕組みになっています。いうなれば、iモードは先に行っている。

ITmedia デジタルコンテンツだけのビジネスというのは、すでに「通りすぎた世界」で、ドコモは“その先”に進んでいる、と。

 しかし、その一方で、デジタルコンテンツの部分も市場としては重要なわけですけれども、ここ(iモードのコンテンツプラットフォーム)を、もっとモダン化してグローバルのオープンな仕様に適合させるようなことは考えていますか。

阿佐美 国内でも、コンテンツプロバイダの方々には各キャリアごとに最適化したコンテンツを作らなければならないといったところでご迷惑をかけている。ここは反省しており、もっとよくしなければならないと思います。また、端末の性能もまだまだ上がるので、コンテンツの領域もさらにリッチ化する可能性があります。

 また、これまではコンテンツを増やすことが重要だったのですが、今ではそれが増えすぎて、お客様から「何があるのかよく分からない」という声が挙がっています。ここは我々もしっかりとフォローしたいと思っています。各ジャンルごとに検索機能を入れるなどの施策で、なるべくサイトにアクセスしやすくなるよう工夫しています。

 iメニューそのものも、通常のものからタッチパネルタイプ、ユニバーサルタイプなど、カスタマイズによってパーソナル化できるよう取り組んでいます。お客様が違ってケータイが違えば、それはもう、それぞれに違うiメニューなのです。

ITmedia 発想としては、ユニバーサルな1つのメニューではなく、ユーザーに合わせてフロントインタフェースを変えていくということでしょうか。

阿佐美 同じケータイを好みに合わせて自由に変えられるというのも重要な要素だと認識しており、パーソナル化にもかなり力を入れています。自分好みのケータイにカスタマイズできると愛着もわきますし、利用率も上がります。

 また、「信頼・安心・安全」というのが弊社のブランドでもあるので、そのブランドとシナジー効果が高いお預かりサービスについても、iコンシェルや電話帳お預かりサービスなどを介して注力して取り組んでいます。

ITmedia ユーザーのデータを預かり、付加的なサービスや価値を提供する。これはクラウド型サービスの世界で、とても重要な要素になってきていますね。

阿佐美 データを預かると付加価値を付けられるんですね。電話帳を預かったら(補完的に)住所を入れられるし、トルカを預かったら定期的に新しいクーポンに更新できます。2009年の秋冬モデルあたりからは写真も預かれるようになる予定で、プリントも可能になります。

 データを端末の中にしまったままでは何の可能性も生まれない。しかし、ネットワークで預かることで、PCからチェックしたり、リアルな世界とつなぐことができるようになる。ここは大きな流れとして、これからのドコモが重視していく部分です。

ITmedia ユーザーがとても大切な、パーソナルな情報を預けるという流れになると、信頼性という観点で、ドコモブランドの強みが出るかもしれませんね。例えば、私はGoogleに自分のパーソナルな情報をすべて預けるということに微妙に不安を覚えるんです。

阿佐美 抵抗があるという方がいるのは事実ですね。

ITmedia ドコモは日本企業ですし、第一種電気通信事業者として事業法で強い規制を受けている。データの管理や保全、通信の秘密義務に関して責任を負うレベルが、ドコモとGoogleは全然異なります。自分のパーソナルな情報を預ける場合は、サービスの先進性や使いやすさが大切なのはもちろんですが、それ以上に信頼性が重要になる。

 ごく普通の人がクラウドサービスを使う時代になるには、やはり信頼性が鍵になるのではないか、と考えています。お金と同じくらい、パーソナルな情報というのは大切ですから。そう考えると、クラウド分野で先行するGoogleやAppleの動きも重要ですが、ドコモのように“日本市場で信頼されている企業”が、いかに幅広いユーザー層に使いやすいクラウドサービスを提供できるかが、この分野の発展と広がりにとって重要と言えるでしょう。

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