10月25日に開催されたイベント「mobidec 2009」の基調講演に、今年もドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルでコンテンツ分野のビジネスを率いるキーパーソンが登場した。三者とも自社サービスの現状を分析するとともに、新サービスへの取り組みや今後の方向性について、さまざまなデータや事例を挙げながら紹介。各社の戦略面の特徴や、トレンド面で共通するキーワードが見えてきた。
女性向けコンテンツの動きが活発化しているというのが、3キャリアのコンテンツ動向で共通するトレンドだ。NTTドコモ コンシューマーサービス部 コンテンツ担当部長の原田由佳氏は、ゲームジャンルの動向を紹介する中で恋愛シミュレーションゲームを取り上げ、「去年、恋愛ゲームが伸びていると話したが、さまざまなバリエーションが出てきて今は2倍になっている」と説明。この分野のゲームはほとんどが女性向けだという。
KDDI コンテンツ・メディア本部 コンテンツビジネス部長の竹之内剛氏は、デジタルコンテンツ流通額で「コミュニケーション(SNS)」「電子書籍」「ナビ実用系」のジャンルの伸びが顕著だというデータを示し、「伸びているサービスは、女性がメインに利用しているものが多い。この10年間のデジタルコンテンツの世界は男性がリードしてきたが、最近は女性。特に20〜30代女性ユーザーが中心のコンテンツは、こちらで予想しているよりも伸びている」と説明した。
ソフトバンクモバイル マーケティング本部 副本部長の蓮実一隆氏は、「選べるかんたん動画」の「テレビのニュースでは物足りない人に向けて作っている」「インターネットのリテラシーが低い人たちでも簡単に見られるようなサービス」というコンセプトを紹介しながら、「女性をテーマの1つとしている」点もポイントであるとし、「コスメ」「グルメ&レシピ」「占い」といった女性向けの動画コンテンツを充実させていることをアピールした。
2009年の大きなトレンドとして挙げられるのは、通信キャリア各社が、モバイル向けサービスや機能のパーソナル化に本腰を入れ始めた点だ。
原田氏は、ドコモが“ケータイパーソナルツール化戦略”の軸とするiコンシェルが、冬春モデルの一部から電話帳やスケジュール、トルカに加えて位置情報なども預かるようになったことを紹介し、「登録情報からユーザーの趣味嗜好を把握できるので、欲しい人に欲しいコンテンツを届けられる。iコンシェルを育てていって、パーソナルツール化の第2歩へと進めていきたい」と意気込んだ。
「今までのiモードメニューリストは、多くの人にアプローチできるコンテンツを揃えてきた。パーソナルツールになって、それぞれの趣味嗜好に対応できるものや住んでいる場所、例えば地元のスーパーや、社長が言っていたようなパン屋さんなど(笑)、身近な情報をケータイで入手できる方向に行くと思う」(原田氏)
竹之内氏は、地域別のコンテンツ利用特性を示す興味深いデータを紹介。東北地方でデジタルコンテンツがよく使われているというデータを示し、「セグメンテーションに地域の色が出始めている。今後は地域別に考えていくのがいいのではないか」との見方を示した。
また、auが展開する「EZニュースEX」について、速報性や情報量で「EZニュースフラッシュ」を上回るとともに、“アンビエント社会”の方針に沿うような個人に向けた配信ができるのが特徴だとし、「ここを新しいメディアとして確立させようとしている」ことを強調した。
ソフトバンクモバイルの蓮実氏は、新たに始めた「とくするクーポン」について、「現在はGPSやユーザーの嗜好とは連携していないが、リアルなサービスをやるからには、近い将来、連携を視野に入れている」と、パーソナルツール化への取り組みに意欲を見せた。
“従来のビジネスモデルの延長では、コンテンツ市場の拡大も利用者増も見込めない”という共通の見解を示したドコモの原田氏とKDDIの竹之内氏は、それぞれ新たな視点やアプローチを提案する。
原田氏はその1つとして、企業との連携強化を挙げる。「企業のモバイルサイトは作りがきれいで、デジタルコンテンツも取り入れてくれる。コンテンツと企業のキャンペーンなど、いろいろな窓口をからめて、企業を入口としてコンテンツの活性化を図っていくのが、これからはいいのかなと思っている」(原田氏)
竹之内氏はコンテンツ事業を拡大するために、「ユーザーとのタッチポイントの拡大・強化」「オープン領域へのビジネス拡大」「パートナーシップの一層の推進」という3つの視点を示した。
タッチポイント拡大のためには挙げるのは、auショップの活用だ。ただ、なかなかリーチできなかった層にコンテンツの利用を直接すすめられるというメリットもあるものの、「このコンテンツを利用すれば端末を割引する」というような“値下げの原資”に使われている状況もある。これについては「本意ではない。至急改善を図っている」と明言した。また、地方との連携を強化し、キャリアからは見えない流行や人気のコンテンツを把握して、地域特性に合ったアプローチにつなげるとした。
オープン領域へのビジネス拡大については、今まで垂直統合モデルで培ってきた資産を各レイヤーに分けて提供していくと述べ、課金プラットフォームや著作権管理などの配信プラットフォームを含む「キャリアプラットフォーム」を解放し、EZwebや放送などのアクセスラインを多様化する考えだ。LISMOやGPSなどのアプリケーション、携帯端末やPCなどのデバイスも解放し、ユーザーがあらゆる生活シーンで多種多様なサービスをシームレスに利用する環境を実現するとしている。
一方で「ただオープンプラットフォームを持ち込んだだけでは、国内ユーザーは受け入れない」との考えも示し、オペレーターパックを搭載して事業者向けにカスタマイズするような形での提供や、推奨するUIのガイドラインの策定、セキュリティ対策を行うなどして、「ユーザーが安全で安心して利用できるようにコーディネートしていく」とした。
ソフトバンクモバイルの蓮実氏は、テレビ業界からモバイル業界に移ってきた異色のキャリアを持つ人物。「ソフトバンクモバイルのコンテンツ戦略」をテーマに、「S-1バトル」や「選べるかんたん動画」などの動画サービスを中心に、ソフトバンクのコンテンツ戦略について説明し、その中で、テレビとは異なるケータイ動画サービスのあり方を、コンテンツの作り方を例に挙げながら紹介した。
選べるかんたん動画では、前述の通り、女性向けに「コスメ」のコンテンツを配信している。「Beauty通信」というコンテンツでは、メイクアップテクニックのポイントを紹介しているが、これがテレビであれば、強烈な個性を持つメイクアップアーティストが、体験者を美しく大変身させるというエンターテインメント色の強いコンテンツになると蓮実氏はいう。しかし、「このサービスでは逆。非常に真っ当なアーティストが、一般的なタイプの顔の人を、誰でもできるメイクの方法で直すという(実用的な)内容になっている。僕がテレビのプロデューサーだったら、ふざけるなという内容」とし、「モバイルとマスメディアはここまで違うものか」と強く認識した事例だと振り返った。
さらに、あくまで個人的な考えとしながらも、「ケータイでリッチコンテンツというと動画だといわれるが、動画元年の次は、動画じゃない世界に行くと、実は少しだけ思っている」と明かした。
かつての映画とテレビの関係が、今のテレビとケータイで繰り返されていると蓮実氏は指摘する。“テレビが映画に憧れていたように、今、ケータイはテレビの世界に憧れている”が、テレビは、映画ではできない連続ドラマやニュース、スポーツ中継などを放映することで、その価値を高めた。ケータイも同様に、テレビとは違ったアプローチで、「ケータイならではの部分と動画をどう組み合わせるかが重要になってくる」と蓮実氏は断言する。
「間違いなく、ケータイでしかできないことに寄ってくる。それがコミュニケーションであったり、SNSとの連携であったり、オークション、あるいは発信できるツールとしての部分だったり、携帯電話ならではの部分と動画がどう結びつくのかがポイントになる。まだ答えはわからないが、間違いなく、そちらの世界に行くと思っているし、そこに対する準備やスキームを考えている」(蓮実氏)
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