ワイヤレスジャパンの「コンテンツビジネス戦略最前線」と題した講演に、ドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルの各キャリアでコンテンツ部隊を率いるキーパーソンが登場。それぞれの立場からコンテンツ戦略の現状と今後について説明した。
ドコモはコンシューマサービス部 コンテンツ担当部長の原田由佳氏が登壇。「iモードのこれまでの10年間は、一気にかけ上がってきた成長期だった」と振り返り、今後は“いかにiモードを使ってもらえるか”がさらなる成長の鍵になると述べた。
端末市場の飽和や割賦販売制度の導入などによる影響で、端末の販売台数が急降下している中、原田氏は「“コンテンツも飽和期”などと言われているが、ページビューは伸び続けている」と、市場が成長し続けていることを強調。新端末の購入時期にコンテンツにアクセスすることが多いミドル、ライト層のアクセスが若干落ちてきているものの、ヘビーユーザーの利用量が上昇しており、それがカバーして成長を維持していると説明した。
コンテンツのジャンルではコミュニティ、レシピ、グルメ、動画、着せ替えツール、デコメ、電子書籍などが昨年からの1年間で大きく成長し、特にコミュニティはGREEの急速な利用拡大などを背景に、月額課金で前年比2倍、個別課金では3倍という伸びを示しているという。また、レシピコンテンツでは「モバレピ」が前年比5割増、動画コンテンツでは「BeeTV」がヒットし、約2カ月で50万契約を獲得するなど、新しいジャンルの大きな伸びが、iモードの利用を底上げしているとした。
ほかにも健康、ビューティ関連や女性向け恋愛シミュレーションの人気が高まるなど、利用率が大きく伸びたジャンルのほとんどが、女性をターゲットとしたものであることが特徴的だと原田氏。「これまでのエンターテインメント、ダウンロード中心から、レシピ、地図などの実用系コンテンツが伸びた1年。これからは女性ユーザーをいかに囲い込むかが重要」とし、携帯電話向けコンテンツビジネスにおける女性ユーザー層の重要性を強くアピールした。
iモードの進化については「iコンシェル」を取り上げ、サービス開始からすでに約170万契約を獲得していることや、約2カ月で対応サイトを2倍に増やすなど、急速に普及し利用率が高まっていることを紹介。その背景として、これまでの“生活支援”から一歩進んだ“行動支援”をサポートすることで、携帯電話のパーソナライズが進んだと分析し、iコンシェルによって携帯電話でしか実現できないサービスが可能になったことを紹介した。
なお、現在のiコンシェルはまだまだ発展途上であり、今秋にはGPSによる位置情報を利用した地域密着型サービスの提供やお預かりデータの利用拡大、2010年以降にはスケジュール帳や画像の共有、自動ルーティングへの対応など、順次サービスを拡大していく予定としている。
原田氏は「ここにきて、お客様のパイを広げていかなければならなくなってきた。企業がリアルの場にお客様を集めるきっかけとしてiコンシェルを活用していただきたい」とコンテンツプロバイダーに呼びかけ、これからの10年間で携帯電話を、より生活に根ざしたパーソナルツールにしていきたいと意気込んだ。
KDDIは取締役執行役員常務 コンシューマ商品統括本部長の高橋誠氏が登壇し、コンテンツビジネスの現状と今後のオープン化への取り組みについて解説した。
高橋氏はau契約者の高いパケット利用率について述べ「au契約者の80%以上がWIN契約者で、さらにその中の70%以上がパケット定額に加入している。これほど高いパケット定額プラン加入率は弊社だけ」とし、加入純増率においてもIP接続(いわゆる通常の携帯電話)ではauがトップであることを強調した。
データARPUも好調に推移しており「1ユーザーが(買い替えずに)端末を保有する期間が延びていることから、コンテンツの売上が減少するのではないかと思ったが、今のところは横の広がり(1ユーザーの利用量の増加)によって好調を維持している」と分析。実用系やコミュニケーション系、電子書籍などのジャンルが大きく成長していると述べた。
コンテンツビジネスのオープン化については「今年から来年にかけて広がっていくのではないか」と見ており、EZ Webに代表されるキャリア主導のインターネットコンテンツの世界とiPhone、Windows Mobile、Androidなどによるオープンインターネットコンテンツの二極化が進むと予測する。また、“オープン化”という言葉そのものの定義の曖昧さにも言及し、「オープンであるかどうかよりも、コンテンツプロバイダのビジネスモデルが作れる仕組みを用意することが我々にとって最も重要」と述べ、オープン化という言葉ばかりが先走りする風潮にくぎをさした。
インフラ面では、同社の通信方式であるCDMA2000 1X EV-DO Rev.Aがドコモなどが採用するHSDPAに通信速度の面で遅れを取っていることに触れ、現在の通信方式を拡張したマルチキャリア Rev.Aを早期に導入して巻き返しをはかると説明。また、コンテンツについても、利用状況をみながら、現在1.5Mバイトまでに制限しているコンテンツのダウンロード容量を10Mバイトまで引き上げる可能性があるとした。
ソフトバンクモバイルは、テレビ朝日出身で現在はソフトバンク マーケティング本部で副本部長を務める蓮実一隆氏が登壇。放送と通信の2つの業界を見てきた立場から、携帯電話市場におけるコンテンツビジネスのあり方について意見を述べた。
蓮実氏は「今はコンテンツ前夜。突然、コンテンツの時代がやってきた感がある」と、携帯電話のコンテンツビジネスがまだまだ黎明期であるという見方を示した。割賦販売制度の導入によって割賦支払金がARPUの中の大きなウェイトを占めるようになった一方で、音声通話収入が大幅に減少し、それを穴埋めする形でデータ通信を伸ばさざるを得ない状況にあると説明。その上でソフトバンクモバイルが2008年をインターネットマシン元年、2009年をインターネットコンテンツ元年と位置付けたことに触れながら、コンテンツビジネスの戦略について説明した。
戦略のキーワードとして蓮実氏は「より多く」「より専用」「より簡単」の3つを挙げ、これらは「テレビではできないこと」であることを強調。その例として「S-1バトル」を挙げた。「今、テレビで一番視聴率が取れるのはニュース、ドラマ、そしてお笑い。今までのコンテンツではたどりつくまでが大変だったが、S-1はメール登録だけで済むなど簡単にアクセスできる手段を用意している。ケータイ専用コンテンツであるために機種ごとに動画を用意でき、出し分けが可能なのもメリット」として、動画のメール配信というアプローチがコンテンツのニーズに合っていることを強調した。
ほかにも野球番組を例に挙げ「テレビでは野球は視聴率を取れず、“どうやって放送時間を短くするか”ばかりが議論されていた。これが『選べるかんたん動画』なら、勝った時だけ配信でき、どんなチームでも1分30秒たっぷり視聴できる。こんなに長く視聴できる番組はテレビでは絶対にない」と、利用者のニーズに合わせた配信が可能な点が“通信の強みになる”と述べた。
同氏はまた、テレビと携帯電話が持つ性質の違いにも触れ、テレビは一方通行ながらも高い制作能力を持っており、携帯電話はレコメンドやライフログ、課金プラットフォームといった仕組みの強みがあると説明。「地殻変動が起き始めている。ケータイはおさがりからオリジナルコンテンツへ、テレビは放送外収入へ」と向かっていると述べ、両業界が連携への模索を始めていることを示唆した。
今後の展望については「これまでは、どこかで“テレビに近づけよう”という流れがあったが、そこから脱出する時期に来ている。テレビ型ではないコンテンツモデルを集約していく」とし、テレビのようなドメスティックな世界にとどまらず、よりグローバルな展開を目指すとした。
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