「iPad」を電子カタログ端末、接客のサポート端末として利用する店舗が、昨今増えてきた。その多くは、顧客の利便性の向上、あるいは企業の先進性をアピールできるといった点に魅力を感じ、端末を導入しているようだ。しかし、“リアル店舗+タブレット端末”という組み合わせは、このほかにもさまざまな可能性を秘めている。
その一端を見せてくれるのが、コンサルティング企業であるアビームコンサルティングが提案する「営業力強化ソリューション」。SAPをはじめとする基幹システムの構築に長けた同社は、iPadと基幹システムを連携させ、iPadに“電子カタログ以上の付加価値”を持たせようとしている。その取り組みが評価され、ソフトバンクモバイルが主催した「第1回スマートフォン・タブレット端末ソリューション公募」では最優秀賞の1つに選ばれた。
流通業の基幹システムには、グループ店舗を含めた商品の販売実績管理から、顧客の購入履歴、さらには口コミの分析機能まで、小売店向けのさまざまな機能が用意されている。こうした情報は従来、PCで“腰をすえて”見るものであり、現場の販売スタッフがリアルタイムに情報を活用することは難しかった。しかし、iPadの電子カタログがこうした基幹データと連携すれば、最新情報を常に手元で確認できるようになり、これまでにないスタイルの接客が可能になるという。
「アビームコンサルティングはERP(Enterprise Resource Planning:統合型基幹業務システム)の構築が強み。ERPはこれまで主に企業の本社部門で利用されてきたが、営業力強化ソリューションでは、ERPの活用を“現場”にまで広げようとしている」(同社執行役員 プリンシパル プロセス&テクノロジー事業部 SCMセクター 渡辺巌氏)
では、基幹データを現場が利用することで生まれる接客スタイルとは具体的にはどのようなものか――。例えば、商品の売れ行きがiPad上でリアルタイムに分かることで、「テレビショッピングのような接客が可能になる」と、渡辺氏は話す。接客中に商品のデータを呼び出し、「今日はこの商品が特に売れています」「今、売れました」といった会話をはさみこむことが可能になり、より説得力のある接客が可能になるというのだ。
また、同ソリューションが実現する“顧客の購入履歴参照機能”も接客の幅を広げてくれそうだ。会員登録された常連客に対して接客する際、その顧客が以前どんな商品を購入したのかをiPad上から簡単に確かめられるという。こうした機能により、例えばアパレルショップなら、過去の購入商品とのコーディネートを考慮した商品提案が可能になる。また、購入傾向から好みのジャンルを推測するといったことにも役立つだろう。「ショップスタッフ個人の記憶に頼るのではなく、よりシステマティックに顧客情報を活用することによって、質の高い接客ができるようになる」と、渡辺氏は力を込める。
もちろん、タブレット端末活用のメリットは基幹システムとの連携だけでない。よく言われることながら、高い処理能力を生かした表現力豊かなアプリ、インタラクティブなアプリを活用できるのも魅力だ。同社ではアパレル向けアプリの例として、iPad上で商品を着せ替えてコーディネートをシミュレートするといった機能を例として提案している。
また、導入企業のニーズに応じて、クレジット決裁などの決済機能をアプリに持たせることも可能だという。小売店ではレジの行列による販売機会損失もしばしば問題視されるが、こうした問題の解決にもiPadソリューションが役立つと同社はみている。商品のレコメンドから、在庫確認、受注、決済の処理までをiPadで実現する――そんな接客も夢ではなさそうだ。
基幹システム構築の実績を持つ同社だが、一方でECサービス企業などのコンサルティングを通じて、Webサイトなどのフロント系サービスと基幹システムとをつなぎこむノウハウを磨いてきた。同社執行役員 プリンシパルの梶浦英亮氏は、「フロント系とバックエンド系では文化や技術基盤の違いもあり、双方をつなぎあわせられる企業は多くない」と語り、「アビームコンサルティングでは、ビジネスパートナーなどの協力も得ながらフロントからバックエンドまでをチームとして一気通貫で提案できる」と自信を見せる。特に、将来のフロント系システムの変更時にもバックエンドを変更しなくてすむような、疎結合による連携ノウハウや、SOA(service oriented architecture:サービス指向アーキテクチャ)に関するノウハウは「一歩リードしている」(梶浦氏)と胸を張る。
また、こうした体制を駆使したフットワークの軽い開発も強みという。実際に動くアプリを試作して企業に提示できるのはもちろん、「バックとフロントを一体にしたチームで一気に開発するため、比較的短納期で機能追加の要望に応えられる」と梶浦氏は説明する。さらに、「現場の業務を分かっているのがコンサルティング企業の良さ」と梶浦氏。システムに合わせた業務プロセスの提案もセットで行い、導入効果の最大化を図っていく。「端末を導入しても、業務の仕方が変わっていなければ意味がない。ITと業務、その双方で提案をしていきたい」と、梶浦氏は意気込んでいる。
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