営業のコツというのはそんなもんなんだ感動のイルカ(2/2 ページ)

» 2009年06月16日 13時15分 公開
[森川滋之,Business Media 誠]
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 浩は、この1週間アポ取りの電話をかけるのに精一杯で、周囲を観察している余裕はまったくなかった。なので素直に分からないと答えた。

 「アポ取りの電話を掛けまくってはどんどんアポを取っていくやつと、ほとんど電話をしないやつと2通りいるだろう」

 そう言われたら、そんな気もする。

 「どんどんアポを取れるやつは、確かに口がうまい。オレでもなんでこんなにアポが取れるんだろうと思うやつもいる。でもなあ、これは長続きしない」

 浩は、啓太の話に引きこまれていった。

 「なぜかというと、常に新規を自分で探し回っているからだ。これは大変な労力だ。なんだかんだ言って効率が悪く、体力が続かない。分かるだろう?」

 自分のことで身に沁みている。浩は黙ってうなずいた。

 「一方でアポ取りの電話をほとんどしないのに、売っているやつらがいる。これはどうしてか分かるか?」

 「想像もつきません」

 「こいつらもまったくアポ取りをやろうとしないわけじゃない。しかし、それよりもお客さんのほうから電話が掛かってくるんだ」

 どんな魔法を使ってるんだろうと浩は思った。

 「魔法なんかじゃないんだ」。まるで浩の心を読んだかのように啓太は言った。

 「リピートや紹介の電話が掛かって来るんだよ」

 なんだそんなことか。

 「なんだそんなことか、と思っただろう」。啓太は人の心が読めるのだろうか?

 「アポ取りの電話をかけまくっている連中と電話が掛かってくる連中の違いが分かるか?」

 「分かりません」

 「売ったらそれで終わりと思っているか、売ったあとが勝負だと思っているかの違いだ」

 「売ったあとのフォローが大事ということですね」

 「そうだ。だけど……。ちょっとしゃべりすぎてのどが渇いた」

 啓太のグラスが空いていたので、浩は継ぎ足した。啓太は一息で飲み干した。

 「ここからが肝心なんだ。リピートしてもらおう、紹介してもらおうという下心はもちろんあっていいんだが、そればっかりが透けて見えるようじゃダメなんだ」

 「どういうことです?」

 「猪狩。人って出会いで変わるんだよ。人生って誰と出会ったかなんだ」

 なんだ、精神論か……。

 「精神論だと思ったろう」。また読まれた。

 「しかしな、本当の秘訣というのはそんなもんなんだ。お前が、アポ取りの電話であってもこれが出会いの始まりだと本気で思えるなら、それだけで楽しくなってくる。楽しい気持ちは相手にも伝わるだろう。たったそれだけのことでアポが取れる率がまず変わってくる」

 浩は、再び真剣に聞く気を取り戻した。

 「実際にお客に会ったときもそうだ。お前がつまらなそうにしていたら、向こうもつまらない。お前が楽しそうなら、向こうも気分が変わってくるだろう。成約率も変わってくる」

 啓太は、手酌でビールを継ぎ足し、また一息であおった。

 「商談のときから、買ってくれたあとのことまで真剣に考えて提案していけば、その気持ちは必ず伝わる。そして、その通りにフォローしていけば満足してくれる。そうしてはじめて紹介してくれるようになるんだ」

 そうか、やってみよう。

 「そのときに大事なのは、お客様のためと本気で思えるかどうかなんかだ。そして本気で思うためには、出会いを大切にする気持ちを普段から持ってるかどうかなんだよ。それは、お客を好きにならないとできない。お客が好きというのが営業の最大の秘訣なんだ」

 そういって一息つくと、啓太はさらに浩が驚くことを言った。

 「お前は口ベタだから、営業に向いている」

 「え? 逆じゃないんですか?

 「口ベタなヤツのほうが、信頼できると思わないか?」

 「そうでしょうか?」

 「うん。だってお客の言うことを真剣に聞いているように思われるじゃないか」

 その通りかもしれない。

 「お前は口ベタの天分を生かして営業しろ。そのためには出会いを大事にする気持ちを一生忘れるな。お客を好きになれ。それさえできれば、お前は絶対に成功する。がんばれ」

 浩は、うつむいてしまった。目から涙がこぼれはじめたからだ。「オレは理解者と出会えた」――そういう涙だった。

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著者紹介 森川滋之(もりかわ・しげゆき)

 ITブレークスルー代表取締役。1987年から2004年まで、大手システムインテグレーターにてSE、SEマネージャーを経験。20以上のプロジェクトのプロジェクトリーダー、マネージャーを歴任。最後の1年半は営業企画部でマーケティングや社内SFAの導入を経験。2004年転職し、PMツールの専門会社で営業を経験。2005年独立し、複数のユーザー企業でのITコンサルタントを歴任する。

 奇跡の無名人シリーズ「震えるひざを押さえつけ」「大口兄弟の伝説」の主人公のモデルである吉見範一氏と知り合ってからは、「多くの会社に虐げられている営業マンを救いたい」という彼のミッションに共鳴し、彼のセミナーのプロデュースも手がけるようになる。

 現在は、セミナーと執筆を主な仕事とし、すべてのビジネスパーソンが肩肘張らずに生きていける精神的に幸福な世の中の実現に貢献することを目指している。


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