ユーザーの過度依存症とIT部門の没我的愛情症情マネ流マーフィーの法則(20)

基幹系システムに蓄積されているデータを、ユーザーが利用しやすいように整理・公開し、ユーザー自身が任意の切り口で検索・加工できるEUC。しかし、運営を誤ると目的に反した結果にもなる。今回は、EUCに関する法則を紹介する。

» 2009年10月26日 12時00分 公開
[木暮 仁,@IT]

 EUC(エンドユーザーコンピューティング)の分野の1つに、DSS→情報検索系システム→データウェアハウスのような利用形態がある。

 名称は異なるが、基幹系システムで収集・蓄積したデータを、ユーザーが利用しやすいように整理して公開し、簡易ツールを提供することによって、ユーザーが任意の切り口で検索加工できるようにする形態だ。

 この目的には、ユーザーが多様な情報を容易に得られること、基幹業務系システムが簡素化されること、IT部門の負荷を削減することなどがある。

 ところが、その運営を誤ると、目的に反した結果になることがある。ここでは、ユーザーの過度依存症と、IT部門の没我的愛情症について考察する。

情マネ流マーフィーの法則その119

昔、ユーザーはAI付き・音声応答付きのコンピュータを持っていた


 AくんはIT部員である。流通部門にいるBくんから電話があった。

 「オーイA、遠くに運んでいるケースをリストしてくれ」。Aくんも流通部門では流通コストの削減が大きな課題になっていることを知っているので、これだけで、過去1年間にトラックによる輸送データを距離別にソートして、長距離輸送の上位20程度について、出荷地・得意先・荷物とその量・輸送金額などを出せば良いことを理解する。

 いかにデータウェアハウスの機能が向上しても、Aくんというコンピュータにはかなわない。

情マネ流マーフィーの法則その120

ユーザーの過度依存症、IT部門の没我的愛情症


 Bくんのような要求は頻発する。しかし、それにすべて応えていたのではIT部門がたまらない。そこで、EUCの普及活動をするようになる。整理されたデータベース群とアクセスツールを提供すれば、ユーザーは任意の切り口で検索加工できるし、パソコンの表計算ソフトと連動すれば、多様な二次加工ができる(はずである)。

 ところが、AI付き・音声応答付きのコンピュータに慣れているユーザーは、“簡易”ツールであっても覚えようとしない。「サービスをするのはIT部門の任務だ」という。IT部門も「ユーザーに面倒なことをさせるのは可哀相」だという。そこで、「1をクリックすれば○○集計表、2を押せば△△分析表」というような「個別処理メニュー提供方式」を採用することになる。

 この方式による提供は便利なので急速に普及する。利用度の増加に喜んでいる間に、深刻な副作用が発生する。副作用とは、メニュー作成要求が殺到し、「作りますけど、順番は101番目です。半年後には使えるようになるでしょう」という状況だ。ユーザーは「IT部門に頼んでもなかなかやってくれない」と非難するし、IT部員は「EUCで多忙になった」と訴える。このような状況はBI(ビジネスインテリジェンス)の運営でも同様である。

情マネ流マーフィーの法則その121

ロングデータシンドロームあるいは直前ファイルシンドローム


 それを回避するために、「公開ファイル提供方式」に切り替えようとするのだが、「ユーザーにジョインなどを覚えさせるのは可哀相」となる。そこで、正規化せずに膨大なフィールドを持つファイルを提供したり、個々の帳票出力直前のファイル(膨大な数になる)を提供したりするようになる。

 基幹系システムは、情報検索系システムの普及により簡素化するはずだったのに、多様な公開ファイルを維持管理するために、かえって複雑怪奇になってしまう。さらに、個々の公開ファイル間における整合性があいまいになり、営業部が出した帳票と流通部が出した帳票の出荷数量が違うようなことが頻出する。その結果、「コンピュータなんか役に立たない!」といわれる。

情マネ流マーフィーの法則その122

ユーザーはIT部門に要求するが、自分では手抜きをする


 EUCでは、基幹業務系システムで収集したデータ以外に、店舗の外観や店長の特徴など担当者が集めるデータや、市町村人口データのような外部資料との連携が必要になる。

 これらのデータは、担当ユーザーが管理すべきなのだが、過度依存症と没我的愛情症により、IT部門が基幹系システムとして運営する羽目になる。しかも、ユーザーは自分の作業を手抜きする。その結果、店舗ファイルでは多くの項目が「そのほか」になっていたり、人口データが10年前のままで放置されていたりする。

 これでは、実際の役には立たない。それもIT部門の責任だということになり、IT部門が店舗や市役所に足を運んで調べることになる。しかも、当初は絶対に必要だといっていたのに、そのうち、利用度は極度に少なくなる。しかし、廃止しようとすると、数人のマニアから猛烈な反対にあうのだ。

著者紹介

▼著者名 木暮 仁(こぐれ ひとし)

東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」(日科技連出版社)、「もうかる情報化、会社をつぶす情報化」(リックテレコム)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している


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