社会科学法則の「情マネ流マーフィー」への適用情マネ流マーフィーの法則(38)

自然科学や社会科学には多くの法則が存在する。それらをコンピュータやITの世界に当てはめてみるとどうなるのか? 前回から数回にわたって「情マネ流マーフィーの法則」を自然科学や社会科学などの観点から考察する。

» 2011年07月11日 12時00分 公開
[木暮 仁,@IT]

 ITは複雑系なので多くの科学領域を超えた研究が必要である。前回は自然科学分野の法則を検討したので、今回は社会科学法則のIT業務への応用について研究する。

情マネ流マーフィーの法則その213

グレシャムの法則「悪貨は良貨を駆逐する」


 “パスワードを定期的に変更する”という良癖は、なかなか浸透しない。システムから強制的に変更する手段を採ると、“いったんは変更するものの、次の瞬間に元のパスワードに戻す”という手段がすぐにまん延する。「悪癖は良癖を駆逐する」のである。

 IT部門が、システム運用などの日常的業務とIT戦略策定などの長期的業務を持っていると、日常的なトラブル対応に追われて、長期的な業務が行われなくなる。「短期は長期を駆逐する」。これがアウトソーシングを行うことの指導原理である。ところが、IT部門の短期業務をなくしても、戦略部門になるとは限らない。

情マネ流マーフィーの法則その214

マルサスの法則
「人口は等比級数的に増え、食糧は等差級数的に増える」


 イッサウィ/ウィルコックスの原則は「問題は等比級数的に増え、解決法は等差級数的に増える」と展開した。常にIT部門が多忙なのは、これらの法則が支配しているからである。

情マネ流マーフィーの法則その215

パーキンソンの法則(その1)
「公務員の人数は、仕事量に関係なく、毎年一定の割合で増加する」


 経営環境に大きな変化はなくても、システムに対する要求は頻発するので、「システム対象業務は、必要性に関係なく毎年拡大する」。この現象を「システムは生物のように自然成長する」と言った人もいるが、生物のように自然消滅しないところに大きな問題がある。

情マネ流マーフィーの法則その216

パーキンソンの法則(その2)
「仕事の量は、完成のために与えられた時間を全て満たすまで膨張する」


 ユーザーは10分間で得られた情報を、凝ったグラフに加工するために1週間にわたって作業する。。スパイラル型の開発では、ユーザーの趣味により、エンドレスのスパイラルに陥る。

 WindowsやOfficeが求めるハードウェア資源は、その時点で得られるハードウェアの限度まで膨張する。そのため、パソコンの性能が向上しても、利用者が使える資源は常に不足している。

情マネ流マーフィーの法則その217

サイモンの満足原理
「経済人は最適原理に従うが、経営人は満足原理に従う」


 利用部門は、不明確なニーズの下で、システム開発を要求する。経営者は不完全な説明の下で開発の意思決定をする。IT部門は、不十分な要求仕様の下でシステム開発を行う。

 その結果、常に“不”満足なシステムになる。

情マネ流マーフィーの法則その218

ピーターの法則
「階層社会においては、昇進により無能レベルに到達する」


 この法則は「多くの業務は無能者によって管理されるので、円滑に動かない」と展開される。東日本大震災に伴う原発事故では、大政党も大企業も典型的な階層社会であることが証明された。

 ピーターの指摘を待つまでもなく、このようなことはサラリーマンは誰でも知っている。「ウチのCIOやIT部長はバカだ。それでも何とか動いているのは、オレたちがいるからだ」と。しかし、不満を言うべきではない。

 有能なキミが昇進しないでいることこそ、会社の英知であり成長の源なのだから。

情マネ流マーフィーの法則その219

ジョン・ゴールのシステマンテックス
「システムは一般に不完全にしか働かないか、あるいはまったく動かないかのいずれかである」「複雑なシステムは、思いもかけない結果を生む」


 情報の共有化のために構築したシステムは、秘密の漏えいが大きな問題になる。そして、セキュリティ対策のためのシステム規模が、情報共有のためのデータベースの規模よりも大きくなる。

 全業務にERPパッケージを適用すると、複雑になり動かなくなる。そのため、賢明で誠実なベンダは、会計システムへの適用を勧めるだけで、他の分野への適用にはお茶を濁す。賢明なユーザー企業は、ERPパッケージ導入と業務改革の両方を行うと複雑になるのを回避するために、ERPパッケージでのシステム構築だけを目的にして業務改革を無視する。

 レガシー時代には「コンピュータは期待したようには動かない。指示したとおりに動くのだ」と言われた。オープン系になってからは「コンピュータは指示どおりには動かない」ようになり、Web時代、クラウド時代になると「コンピュータの動きは人知では分からない」にまで発展した。それほどシステムが複雑に巨大になったのだろうか。

著者紹介

▼著者名 木暮 仁(こぐれ ひとし)

東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」(日科技連出版社)、「もうかる情報化、会社をつぶす情報化」(リックテレコム)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している


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