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» 2008年06月19日 12時00分 公開

情マネ流マーフィーの法則(9):そもそも、IT計画が実現すること自体が奇跡だ

経営者にITの費用対効果を説明し、理解してもらうのは難しい。今回は、ITの費用対効果に関する法則の第2弾を紹介する。

[木暮 仁,@IT]

 多くの経営者が費用対効果を気にしている。

 費用対効果は、コンピュータが導入され始めた1960年代から、すでに大きな問題だった。それなのに、約半世紀が過ぎたいまでも、これに対する適切な評価基準を持っている企業は少ない。

 CIOやIT部門が無能なのか、IT業界がサボッているのか、それともそもそも不可知問題を追っているだけなのだろうか。少なくともまだ答えは見つかっていない。

情マネ流マーフィーの法則その47

経営者にとって最も重要なIT知識は、IT投資の費用対効果に関する知識である


 電子メールや表計算ソフトが使えることをもって、「自分はITに詳しい」と思っている経営者がいる。このような知識があってもよいが、なくてもせいぜい秘書の人件費程度の効果だ。

 新聞や雑誌をよく読み、講習会にも出席して、SaaSWeb 2.0といった最新のIT活用動向をよく知っていることは、それなりに役立つだろうが、IT部門やコンサルタントを利用することで補うこともできる。

 それに対して、IT投資案件について認否の決断をすることは、経営者にとって「他人に任せられない専決事項」である。決断する際の最大の要素は、投資の費用対効果だ。

 マウスのクリックができなくてもよいし、NASSANの区別がつかなくてもよいが、ITの費用や効果が発生するメカニズムに関しては、十分な知識を持つべきである。

情マネ流マーフィーの法則その48

成功事例は、やる気をなくすのに役立つ


 マスコミには、ITの成功事例が氾濫(はんらん)している。

 それをヒントにして頑張れというのだろうが、むしろその反対になることが多い。

 事例の大部分は、トップの英断、献身的なプロモータ、利用部門の協力、困難への挑戦意欲などが底流になっている。読者は「トップは頼りないし、自分もスーパーマンにはなれない。ウチとはあまりにも環境が違い過ぎる……」と感じるのがオチである。「平凡な会社でもできた成功事例」があればよいのだが。

情マネ流マーフィーの法則その49

インフラ投資こそ利益の源泉


 実は成功企業はそれほど苦労していないのだ。

 連中は、ハード、ソフト、ネットワークなどだけでなく、データの整備、ITリテラシーの涵(かん)養、IT成熟度の向上なども含むITインフラの整備がすでに十分に進んでいるのだ。それで個別アプリの構築に、われわれならば100の費用・労力がかかるものを、連中は80や50で実現しているのだ。

 ITインフラの投資は、それだけでは利益を生じない。その上に乗る個別アプリが利益をもたらすのだが、インフラ投資の段階でも乗せるべきアプリケーションは不明だし、インフラのどの要素がどれだけ効果を生むのかも未知数である。さらには、先行したインフラと異なるものが業界標準となり、無駄どころか負債になることもある。

 このような投資への判断能力こそ、経営者に求められるIT知識なのだ。

情マネ流マーフィーの法則その50

IT計画が実現するのは奇跡である


 システム開発では、「予定した2倍の費用と2倍の時間が掛かり、1/2の機能しか実現しない」という「222の法則」が存在する。

 とかくIT投資では、計画時と実施時との乖離(かいり)が大きく、経営者がIT部門に不信感を持つことが多い。

 システムが効果を上げるには「要求事項が適切に実装され」「(社外を含む)組織や業務の変更が実現し」「(顧客を含む)利用者が期待した行動をする」ことが前提となる。

 1つの要因が実現する確率を90%とすれば、2つの要因では81%、3つでは73%になる。システムを取り巻く環境は複雑だから要因の個数は多く、実現確率は限りなく0に近づく。ところが、計画時にはすべて実現するという仮定をするのが一般的である。これを「Many If現象」あるいは「たぬきの皮算用」という。

情マネ流マーフィーの法則その51

KGIがなければ、成功も失敗もない


 費用対効果は事前評価だが、事後評価も重要である。

 最も単純な評価方法は、利用者にアンケートすることである。しかし、利用者は開発費用を知らないので、過剰サービスをしたシステムの評価が高くなる。もし、開発費用を示してシステムを提供するのと、提供せずにその費用を給与として分配するのとどちらがよいかをアンケートすると結果はどうなるだろうか?

 KGI(Key Goal Indicator)を知らないで評価することもある。業務革新を目的としたはずのERPパッケージが、データ入力が面倒だと低い評価をされたり、単に帳票出力が容易になったことで高い評価を得たりする。評価は、適切な評価軸の設定なしに行うことはできないのである。

著者紹介

▼著者名 木暮 仁(こぐれ ひとし)

東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」(日科技連出版社)、「もうかる情報化、会社をつぶす情報化」(リックテレコム)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している


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