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» 2008年08月14日 12時00分 公開

情マネ流マーフィーの法則(11):ITの効果とはプロジェクトの効果だ

経営者はIT投資の効果を知りたがるが、実はITの効果とはプロジェクトの効果なのだ。今回は、ITの費用対効果に関する法則の第4弾を紹介する。

[木暮 仁,@IT]

 実は、ITの効果とはプロジェクトの効果なのだ。それに気付けば、IT化の費用対効果の判断は案外簡単なものだ。

情マネ流マーフィーの法則その58

プロジェクトの成果をIT化の成果だというなら、会議室や電話機にも同じ権利がある


 IT活用の効果といわれる多くの事例は、業務改革プロジェクトの効果である。

 そのプロジェクトには、情報システム構築のための「情報系活動」もあるし、関係者への説得、業務の改革などの「非情報系活動」もある。IT関係者は「ITがなければ、このプロジェクトは成功しない」というが、いかに立派な情報システムを構築しても、非情報系活動がなければ実現しない。

 プロジェクトの効果を“IT化の効果”だとするならば、非情報系活動の付加価値を認めないことになる。これは、ITに携わる者の我田引水、他人の成果を横取りすることでもある。

情マネ流マーフィーの法則その59

非情報系活動が、情報系活動を左右する


 自社カードのシステムを例にする。

 その目的は顧客の可視化と固定客化である。プロジェクトが発足し、カード発行計画を社内外に発表した。ところが、慣習により、いつになってもニーズが固まらない。仕方ないので見切り発車になり、「情報システムは、要求定義以前にコーディングが開始される」という状況に陥る。

 そのうち、顧客へのカード加入や小売店でのカード取り扱いの勧誘を始めるが、なかなか目標数値に達しない。「加入シートに個人特性の情報を求めるから加入者が少ないのだ」と指摘されて、クレジットに必要な項目だけになるし、加入者獲得のために多様な特典サービス機能を組み入れることが求められる。加盟店勧誘のためには、多様な情報提供を約束させられる。

 このようにして、「当初の機能の半分は放棄され、その2倍の新規機能が追加される」ことになる。当然、後戻りのために多大な費用と時間がかかる。

 このしわ寄せは、テスト期間の短縮につながる。そして、稼働になるとトラブルが続々と発生して、大騒ぎになる。「トラブル対処の時間はあるが、予防のための時間はない」というのが現状だ。

 そして、出来上がったシステムでは、特性情報がないので顧客の可視化は実現しないし、固定客化になったのは特典目当ての客ばかりで利益につながらない。もっとも、このようなつまらぬことに気付くことは珍しく、通常はシステムが安定して稼働したことで、プロジェクトが成功したと評価されるのである。

情マネ流マーフィーの法則その60

いくつかの代替案の中にIT化案があれば必ずIT化案が採用される


 顧客の可視化や固定客化のためには、店員の気付き帳もあるし、モニタ制度も考えられる。それなのに自社カードシステム構築だけが対象になるのは、関係者がその効果を信じているからではない。

 関係者の間に「IT化=善」という図式が刷り込まれているからである。ベテランならば、店舗で10分観察すれば的確な把握ができるだろうが、そのようなことは「カンに頼るのは非科学的で遅れたものだ」という暗黙の了解で話題にも上がらない。

情マネ流マーフィーの法則その61

情報系活動を含むプロジェクトでは、経営者は情報系活動だけに関心を持つ


 システム開発は、追加費用や納期の遅れ、処理トラブルが分かりやすい。それに対して、非情報系活動は予算も明確でなく、「目に見える」費用やトラブルが分かりにくい。それで、とかく情報系活動に関心が向く。

 ところが、プロジェクト成否のカギを握るのは非情報系活動であり、非情報系活動が情報系活動に重大な影響を及ぼすのだから、経営者は非情報系活動により高い関心を払うべきである。

情マネ流マーフィーの法則その62

プロジェクト効果をIT化効果だとすり替えたい人は大勢いる


 ベンダはITサービスを売るのが商売だから、非情報系活動を含むプロジェクトの効果をIT化の効果だとすり替えるのは許されよう。しかし、このITサービスはあくまでも情報系活動でのサービスであり、加入者や加盟店の獲得のような非情報系活動にはノータッチである。どうもうさんくさい。

 IT部門は、他人の努力が自部門の成果だといわれるのはうれしい。予算も通りやすくなる。コンサルタントは、IT化推進を進言すれば大きな費用と長い時間になるので、それだけ収入が確保される。マスコミは、その読者や広告主がIT業界なのだから、IT化推進の立場なのは当然である。中小企業のIT化推進では行政も重要なプレイヤーである。その担当者は、IT化助成の件数や助成金の額が成績になるのだから、これもIT推進派である。

 意図的にすり替えようとする連中がゴマンといるのに、それに反対する勢力が存在しない。それで「IT化=善」という図式が刷り込まれるのである。

情マネ流マーフィーの法則その63

すり替えに気付けば、IT投資の費用対効果が分かりやすくなる


 IT投資の効果ではなくプロジェクトの効果なのだと分かれば、経営者はITの特殊性などに惑わされずに判断できる。

 仮にIT投資がタダで実現することにする。プロジェクトによる効果と費用を算出し、それからしかるべき利益を差し引いた金額が、IT投資に許された最高額(松のレベル)である。

 「ITがなければ?」的な発言はナンセンスである。ある程度の規模のプロジェクトでITに無縁のプロジェクトはないのだから、最小限の機能を持つIT投資(梅のレベル)は必須であり、これは費用対効果以前の問題だ。

 IT投資の費用対効果とは、梅から竹や松にするかどうかの問題なのである。ここでは、プロジェクトが是か非かという本質的なものではない。「処理が速くなるか」「エラーが防止できるか」「使い勝手はどうか」などの付帯的機能とそれにかかる費用の問題なのだ。これならば、ITの素人でも判断できよう。

著者紹介

▼著者名 木暮 仁(こぐれ ひとし)

東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」(日科技連出版社)、「もうかる情報化、会社をつぶす情報化」(リックテレコム)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している


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